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レストランやまびこ

私は都内で飲食店を経営している
といっても出すものは
コンビニで売っているものを
チンして温めて出すだけだ

どちらかというと出すのは
私ではなくお客様の方になる。

皆さんは言霊という言葉くらいは
聞いた事があるだろう
私には昔から不思議な力がある
だからといって強い力が
言葉に宿るわけではない
一言で言えばそれは「微妙」である。

ちり~んちり~ん

早速、本日1人目のお客様がいらっしゃった。
常連の坂上さんだ。

「なかなか出なくてね頼むよマスター」

この店を開いてもう数年になるが
いまだにマスターと呼ばれる
その気恥ずかしさが抜けないでいる。

「今日は何があるんだい?」
コンビニの食材を訪ねているわけではない。

メニューはその場で決める
お客様の体温を測る
流行り病の時期なので感染しているのでは?
ということではない
体温、体格を視野にいれてその場で決める

鮮度にはこだわりたい。

私の仕事をバカにする人も多い中
うちにはアルバイトの子がいて
彼は私を何故か尊敬してくれる

そんな彼に尋ねる

「風の方向は?」
「北北東です」

「北北東20時30分だな」
「マスター今はまだ17時ですが」
「私がいっているのは銀河水準面の時間のことだよ」
「すみません。余計な口をはさみました」
彼は目をきらきら輝かせている

実のところ、風の方向性は全く関係ない
それはトイレの個室でおこなわれるからだ
それに銀河水準面って何だろうか?
アルバイトの子が目を輝かせているから
まぁ良しとしよう

「メニューは何があるんだい?」
そうお客さんが訪ねる

「春先のバウムクーヘン」
「緑の少ないレゴブロック」
「ハムナプトラ」
「この3点でございます。」
「ハムナプトラに関してはお客様単独になります。」

「なら、春先のバウムクーヘンにしよう。ところでバウムクーヘンに旬があるのかね?」
バウムクーヘンに旬があるかだって?
そんな話は私も聞いたことはない。

前置詞はなんとなく
私が叫びたい掛け声にすぎない

「お客様、前菜のコーラックはいかがいたしましょう?」
「コーラックはなしでいこう。私はもうだいぶたまっている。掛け声だけでいきた気分なんだ」

そうしてお客様はトイレに入られた
「準備ができたらおっしゃってください」
「では早速たのむ」

私は声を張り上げて叫ぶ
「春先のぉ~~~~~~」
それに呼応してトイレでお客様が絶叫する
「バウムクーーーーーヘン」

ちゃぱーーんと景気のいい音がした後
しばらくしてお客様が個室からでてくる

「いやー大きいのがでたよ。爽快だよ。ありがとう」

そう。ここは言葉を発することで
薬などを使わずお客様のお通じを改善させる
出し専門のレストラン「やまびこ」
現代の医療科学技術がすさまじいのは認める
だが、それが危険ではないと誰が保証できるのか

私は科学には頼らない。

アルバイトの子が声をかけてきた
「コーラックまた大量に仕入れときましたよ」
「ありがとうね」

ちり~んちり~ん
またお客様がいらっしゃった
見たことがない初めてのお客様だ
どことなく大山しのぶの面影のある女性だった

「ここが出し専門って言われて来たのだけど、あなたがマスター?」
「はい」

なんとなく声も昔のドラえもんぽい気がする
しかし新しいドラえもんの声に慣れ過ぎて
昔のドラえもんの声はYouTubeで確認しないと
思い出せないでいる。

「メニューを見せてくれないかしら?」
「少々お待ちください」

初見だというのに気の早いお客様だ
私はアルバイトの子に尋ねた

「風向きは?」
「南南西の風です」

適当かっ!

先ほどのお客様から30分も経っていない
真逆にもほどがあるだろう
それは逆風を意味するのか?

「南南西の風、20時20分」
「マスター今は17時30ですが」
「銀河水準面の話だから」
「すみません。余計な口をはさみました」

態度こそ殊勝な心掛けだが
同じところで毎回入ってくる
役割だと認識しているのか馬鹿なのか
恐らくは後者なのであろう。

「ね?メニューは?」
「はい、こちらの3点になります」

私は出来立ての言葉をご用意する
「食いかけのどら焼き」
「どうしてもあかないドア」

「ちょっとまって、私の外見に何かひっぱられてない?」
ひっぱられているーーーーーーーー!!
冷静になれ、冷静にあるんだ私よ。

「失礼いたしました」
「黄金トマトのペペロンチーノ」
「多くが召された毒キノコ」
「電池で動く竹のやつ」

3つ目はまたひっぱられてしまった
指摘されてしまうだろうか

「ペペロンチーノいいわね」
どうやら、そこは大丈夫だった

しかし黄金トマトってなんだろう?
トマトは赤いものだろう?
まぁいいか

「前菜はどういたしましょう?」
「前菜はいらないわ」
「かしこまりました。こちらへ」
そうしてトイレにスタンバイしていただく
「お客様のタイミングでお声をください」

「いいわよ」
「ではいきます」
「黄金とまとの~~~~~」
「ぺぺろんち~~~~~~~~~のぉ~」

ぽちゃんっ
景気の良い音がした

「すっきりしたわ。ありがとうね」

お客様は満足してお帰りになられた
ここは出し専門のレストランとはいえ
コンビニに並ぶ食材は置いてある
最後にお客様はレジ横にある
どら焼きを購入されていった

それは天然なのか意図なのか
お客様が帰られたのでもはやわからない

ここは言霊宿る
レストランやまびこ

どこが、やまびこなんだと
あなたは思うかもしれない

だがさっきからずっと私の脳内では
やまびこしているんだ

私は何を書き、あなたは
何を読まされているんだ?ってね。

ちり~んちり~ん
あっお客様が戻られた
「忘れ物でもなさいましたか?」
「さっきの3つ目の竹のやつってタケコプターでしょ!ひっぱられてるよね?」

今!?

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