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『ヴィンセント博士のミステリーサンプル』第5話を知っているか

第4章【オックスフォードから愛を込めて】


■場面:植物園・庭園(昼)
 
  午後1時。
スペンサー大学の附属植物園。
  ヴィンセント、グレイを案内している
 
   ※SE:小鳥の鳴き声(ピロピロ)
   ※SE:小鳥が飛び立つ音(バサバサ)
   ※バックSE:2人の土の上を歩く足音(ザッザッ)始まり
 
ヴィンセント
「どうだ、見事なもんだろ?あの花壇は、スミレの品種が植えられている。
こっちの温室には池があって、スイレンなんかも見頃だな」
 
グレイ
「さすがスペンサー大学の植物園ですね。どの花々も大切に育てられているのがわかります。まるで地上の楽園ですよ」
 
ヴィンセント
「(嬉しそうに笑って)ここまで生き返らせるのは大変だったんだ。……なんせ、見るも無惨に荒らされていたからな。教授も学生も総動員で植え替えて、やっと一般公開できるまでになった」
 
ヴィンセント
「草木の手入れをしながら、改めて思ったよ。論文の材料としてじゃない。俺は、心から植物を大切に思ってるってね」
 
  ヴィンセント、過去を思い出して少し切ない表情
  グレイ、それを察して慰めるように
 
グレイ
「その気持ちは植物にも届いているでしょう。こんなに美しく咲き誇っているのだから。今後はより一層、あなたの研究に力を貸してくれると思いますよ」
 
ヴィンセント
「ふっ、そうだと良いんだけどな」
 
  ヴィンセント、ちょっと真剣な表情
  道の途中で立ち止まる
 
   ※バックSE:2人の土の上を歩く足音(ザッザッ)終わり
 
ヴィンセント
「(思い詰めるように)……なあ、グレイ。実は、今日誘ったのは理由があるんだ。あんたに頼みたいことがある」
 
グレイ
「(気付かない振りをして)おや、改まってどうしたんです?深刻な顔をして、あなたらしくもない」
 
ヴィンセント
「……ごめん」
 
グレイ
「(ふっと息を吐いて)
……わかりました。お伺いしましょう。ただし、こんなところで立ち話するなんて優雅じゃありませんね。英国紳士の礼儀に反する行為です」
 
グレイ
「ちょうどお茶の時間でしょう?小川のほとりで、ティータイムにしませんか」
 

■場面:植物園・小川(昼)
 
  午後2時。植物園の内部、小川の土手。
  グレイ、ヴィンセントにお茶を注いであげている
 
   ※SE:川のせせらぎ(サラサラ)
   ※SE:陶器の食器の音(カシャン)
   ※SE:お茶を注ぐ音(コポポ)
 
グレイ
「さあ、召し上がれ。今日の茶葉は、イングリッシュブレックファーストですよ」
 
ヴィンセント
「やけに大荷物だとは思っていたが。まさか、植物園にまでティーセットを持参してるとはな」
 
グレイ
「これくらい初歩的なことですよ、ドクター。……それで、話の続きをどうぞ」
 
ヴィンセント
「……ああ」
 
   ※BGM:切ない音楽→始まり
 
ヴィンセント
「ロンドン塔の事件から、あの言葉が頭を離れなかったんだ。去り際に、アドラーは確かに言っていた。『植物園荒らしの犯人は別にいる』ってな」
 
ヴィンセント
「俺だって、ただ悩んでたわけじゃない。独自に調査を進めていたんだ。その結果、とんでもないことがわかった」
 
 ヴィンセント
「被害にあった植物には共通点があったんだ。(衝撃的に)全て、俺が論文のテーマにしている品種だったよ」
 
グレイ
「(少し驚いて)……なんと。ただの偶然にしては出来すぎていますね」
 
ヴィンセント
「ああ、俺も頭を抱えたよ。つまり、犯人は通りすがりに侵入して、適当に荒らしたわけじゃない。明確な殺意を持って犯行に及んだんだ」
 
ヴィンセント
「(怒り混じりに)っ……!どうしてこんなことが続くんだ……!?論文を盗んだと疑われ、母国を追われて、やっとイギリスで居場所を見つけたばかりなのに!!」
 
グレイ
「…………」
 
ヴィンセント
「(思い詰めて)俺は、何としても犯人を突き止めたい。たくさんの愛すべき植物のためにも」
 
ヴィンセント
「(乞うように)なあ、グレイ。力を貸してくれないか?あんたのもとには色んな情報が入ってくる。警察や王室にだって顔が利く。どこかで犯人の足跡に辿り着けるかもしれない」
 
グレイ
「……ふむ、なるほど」
 
  グレイ、カップを手にする
  優雅に一口すする
 
   ※SE:陶器の食器の音(カシャン)
   ※SE:お茶をすする音(ズズッ)
   ※BGM:切ない音楽→終わり
 
グレイ
「(思わせぶりに)お話はわかりました、ドクター。あなたのご依頼をお受けしましょう」
 
ヴィンセント
「(嬉しそうに)本当か!?」
 
グレイ
「(被せて)ただし、条件があります。……正式に、私の助手になってほしいんですよ」
 
ヴィンセント
「助手? 俺が!?」
 
グレイ
「前々から、手が足りないと思っていたんです。いくら特権階級に人脈があると言っても、稼働力は1人分ですからね。今回の犯人が今後現れないとも限りませんし、備えあれば憂いなしでしょう」
 
グレイ
「それに、あなたは思ったより助手の適性がありそうです。学者らしく、体力的に過酷な状況も耐え抜いた。常人よりずっと丈夫だった」
 
ヴィンセント
「(ツッコミっぽく)何だか褒められている気がしないが。助手としてこき使おうと思ってるんじゃないだろうな?」

グレイ
「(わざとらしく)まさか、そんなことしませんよ」
 
グレイ
「(ふっと笑って)本当はね、あなたの勘の鋭さや知識にも期待しているんです。今回の推理だって、その能力にとても助けられた。あの事件は2人だから解けたんですよ」
 
ヴィンセント
「(少し嬉しそうに)……そうか」
 
グレイ
「悪い話ではないと思います。助手ならば、探偵と一緒に現場へ入ることもできる。門外不出の情報だって教えられます。ついでに、バッキンガム宮殿でお茶をすることも可能ですよ」
 
グレイ
「2人で事件を追う中で、たくさんの真実が明らかとなるでしょう。植物園荒らしの正体はもちろん、あなたをアメリカから追放した犯人だって見つかるかもしれません」
 
ヴィンセント
「……!」
 
   ヴィンセント、少し思案する
   グレイに向かって手を差し出す
 
ヴィンセント
「(軽く息を吐いて)……確かに好ましい条件のようだ。あんたのくれたチャンスを信じよう。俺で良ければ助手にしてくれ」
 
 
グレイ
「(嬉しそうに)ええ、もちろん」
 
   ※BGM:エンディングっぽい音楽
   (アコーディオンみたいな民族風の曲だと嬉しいです)
 
ヴィンセント
「(呆れ笑いで)まったく……。ロンドンに来たときは、すぐに帰国するつもりだったんだがな。あんたとは長い付き合いになりそうだ」
 
グレイ
「ふふっ、私はこの出逢いを心から楽しんでいますよ。英国にはこんなことわざもありますしね。Two heads are better than one」
 
ヴィンセント
「『1人より2人が面白い』か。単純な言葉だが、今は違って聞こえてくる」
 
グレイ
「今後、その意味を実感することになるでしょう。……さあ、カップを持って。結成祝いに乾杯でもしましょうか」
 
グレイ
「私たちの未来が、謎と驚きで満ちていますように」
 
ヴィンセント
「(呆れたように笑って)ふふ。命だけは無事で済むように願ってるよ」
 
  2人、乾杯をする
  
   ※SE:陶器がぶつかる音(カン)
 
ヴィンセントN
「俺の名前はドクター・ヴィンセント。アメリカ生まれアメリカ育ちの、優秀な植物学者だ。イギリスという国とイギリス人が大嫌いである」
 
ヴィンセントN
「……しかし、ロンドンで暮らして気付いたことがある。この街の紅茶は不機嫌な朝を癒やし、この街のミステリーは退屈な毎日を弾ませる。そして、この街の真実は、俺の人生を変えてくれるかもしれない。グレイ・ホームズ、あの男と一緒なら、あるいは」
 
ヴィンセントN
「最後に諸君へ、エリザベス2世の言葉を贈ろう。人生が困難に思えるとき、勇気ある者は敗北を認めたりしない。より良き未来を作るため、あがき続けようと、さらに決心を強めるのだ」
 
   ※BGM:エンディングっぽい音楽
   →ゆっくり盛り上がってCO
 

『ヴィンセント博士のミステリーサンプル』第5話 終わり 

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