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短編小説 自分の意思

ずっと働いてきたけど、俺は何の為に働いてきたんだろ。
家族の為、将来の為の思って来る日も来る日も働いてきたのに。
家族は全然分かってくれない。
仕事ばかりで家のことはなにも手伝ってくれないってそんな言葉ばかり。

子供が産まれてからというもの、夫婦間の溝は一層深まるばかり。
家に帰ることも嫌になってきたな。会社でも文句言われることがあるのに、家でも文句ばかりじゃやってられないよ。

なんで旦那は気付いてくれないんだろ。
仕事仕事というけど、家に帰ってきてからはスマホを触ってばかり。
好きな動画やゲームがあるのか知らないけど、こっちもそれなりに仕事しているっていうのに。
もっと協力的な気持ちを持ってれたって良いじゃない。

なんでなんで。
そんな気持ちが両者の心の根底にある。

これで2人目なんて産めない。
こんなワンオペのような感じで産めるわけないじゃない。
それでも産みたいって思うなら、離婚して他の人と結婚してその人の子供を産めば良い。私はもう無理。

「あのさ2人目が欲しいって言う割には子供に興味を示さないし、関わろうとしないじゃない。なんで2人目が欲しいの?欲しいと思うならもっと一緒にやってよ。」
「だって他のやつが2人は子供いるのに、うちだけ1人だけってわけにはいかないだろ。」
「じゃあ他の人と比べてただ単純に数で負けたくないから2人目が欲しいと言ってんの?」
「い、いやそういうわけじゃないけどさ。世間体ってあるだろ。」
「世間体なんて知らないよそんなもの。うちにはうちの状況があるんだから。それにあなたの周りの人ってもっと育児にも家事にも積極的にやってるよ。だから2人目も3人目も産まれても上手く出来るんでしょ。」
・・・、確かに他のやつは誘っても家族が優先と誘いに乗ってこない。
「あなたは何の為に子供を産みたいのかもっとはっきりさせた方が良いんじゃないの。少なくとも私はあなたが今のままでいる限り産む気はない。」
「分かったよ。」

2人目な、でも会社にこき使われて朝も5時半に家を出て、帰ってきたらもう10時前、こんな暮らしいつまでも出来るかよ。
ちょっとの休みくらいくれよ。

でもなんで俺はこの会社に居続けているんだろ。
こんなに長時間働いて、勤務中も上司や先輩から文句言われて、文句言うくせにいろいろ俺に押し付けてきて。
どう考えたっておかしい。
だって他の人はもっと早く帰ってるし、普通に8時半頃に出社しているだけ。なんで俺だけ。でも断る勇気がない。
でもここまで長く勤めて、それなりに貯金もあるしな。子供が産まれたとはいえそれなりの期間は食うに困らない。たぶんどうにか2年間くらいの貯蓄はある。
このまま今の状況が続けばそれこそ離婚になる。だったらいっそのこと辞めてしまおうか。

「なあ俺今の会社でこのままの状況じゃ続けられないと思うんだよ。最悪辞めても良いか?2年間以上の貯蓄はあるだろ。さすがに2年あれば転職出来ると思うし、その間に手当やらアルバイトをすることだって出来る。
今の状況だったらどう考えても仕事と育児、家事の両立は無理だ。」
「だからずっと言ってるじゃない。利用されてるんだって。1回他人の仕事を押し付けられるのを強く断れば良いのよ。その人はさっさと帰っているんだから。あなたが断ってもどうせ次に誰かに当たるだけ。どうしようもなければぶつぶつ言いながら自分でやるのよ。そんな人のことなんて知ったこっちゃないでしょ。」
「それもそうだな。でもどうも断れる勇気がないんだよ。」
「あなたはこれまで散々やってきたの。とやかく言われる筋合いはないの。それにその人の関係が崩れたってたいしたことないじゃない。元々そんな関係性もないんだから。ここ辞めてやるよぐらいの気持ちでいなさい。」
「そうだな。ずっと良いように利用されてきたしな。それでごちゃごちゃなるんだったらこっちから辞めてやるか。」
「これであなたにもスキルが身についたんだから、次に転職したってやっていける。これまでのスキルを分析すれば良いのよ。それでもっと自分に合った場所を見つけたら良いの。自分で決めなきゃ、私達がダメになってしまうのよ。他人に流されていたらダメ、誰も責任なんて取ってくれないんだから。」
そう、今まで誰も責任なんて取らなかった。全部自分のせいにされてきたし、頼んだわりには小言を言ってくる人間もいる。
自分の今まで得たスキルを見つめ直してみるか。

「よし分かった。1回不満を吐き出して自分の環境を整理してくる。それでも変わらないようにくるのであれば辞めると言ってくる。相手が他じゃ通用しないとか言っても、あくまでこっちの意思を変えずにな。まあ多少苦労かけるかもしれないけど、次にもっと働きやすい環境にするために。その方が長い目で見たら俺達にとってずっと良い。」
「やっと何が大切かわかったのね。ありがとう。」
「こちらこそごめんな、今まで押し付けてばかりいて。でもありがとう。」

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