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【素振りを再考する〜本当に必要なのか?〜】

みなさん、こんにちは!
野球トレーナーの矢部です。

最近徐々に暑くなってきましたね。
熱中症は本格的な暑さが来る前から対策が必要です。
5月中は暑さに慣れるチャンスです。今のうちに水分補給や冷却、暑熱順化といった知識を知っておきましょう!



さて、今回のテーマは「素振り」です。
どんなバットでどんな意識でどういう風な工夫をして何回振れば良いのか?

これらを英語論文も含めて”科学的な”方法で検証された研究結果を用いながら解説していきます。

では、いきます!


①重いバットを振るデメリット


バッティング練習で行われているであろう「素振り」

みなさんは週に何日、1日に何回していますか?


私は中学時代、毎日100回を振ることを目標にしていました。
また高校時代は1日1000スイングのノルマを課されたこともありました。

また、当時は重いバットを振れば力がつくと思い、一生懸命マスコットバットを振っていました。それも小学生の頃から。

そして、野球を科学的に考えるようになった今、現役時代を振り返ってみると

「非効率なことをしていたな」

と思います。


素振りしすぎていました….

何も考えていなかったです。

知識がある今なら、少なくとも重いバットで振ることはしないでしょう。

それもスイングを崩した状態では絶対に行いません。

(Instagramでよく父親が小学生に重たいバットを”振らせている”のを目にしてとても複雑な気落ちになります…)


理由としてはまず「腰へのストレス」があります。

研究報告として、

「野球経験者と未経験者の腰部最大回旋角度の出現時間に違いがみられた」

田口直樹, 他 野球打撃動作における腰部回旋挙動解析. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2019

という報告があります。

つまり、動作が未熟な子供と、成熟した大人のスイングは違う可能性があるということです。


これは、打撃フォームの違いによって脊柱への負荷のかかり方には違いがあると推察されます。重いバットを振っていればなおさらフォームは崩れます。

そして、それをそれを繰り返すと腰の負担が増え、「成長期腰椎分離症」のリスクが大きくなると思います。


また、大学生が対象の研究では

「自主バッティング練習時間が腰痛と関連する」

田坂精志朗, 他. 大学生野球選手における腰痛と自主練習内容との関連性の検討. 日本臨床スポーツ医学会誌. 2016

と報告されていますので、身体が出来上がっていない成長期なら尚更注意が必要です。

振る力をつけるために振らせているかもしれないですがフォームは乱れるし、身体はそれに耐え切れないです。

重たいバットを振るのはそれが自由に扱えるようになり、身体が大きくなってからが良いと思います。


結論としては、重たいバットをたくさん振るのではなく、いつも試合で使っているバットで十分だということです。

では、回数はどのくらい振れば良いのでしょうか?


②何回振ればスイングスピードは向上するのか


回数ですが、100回は多いと思います。

正確には100回も”振れません”

なぜか?

本気(100%の全力)でバットを振ることは100回も繰り返せないからです。


スイングスピードを上げるためには、最大速度で動作を繰り返す必要があります。

つまり、”全力”です。


走るのを速くするためには『全力で走る練習』をしないといけないのと同じです。

ダラダラ力を抜いて数だけこなしてても走るのは速くなりませんよね?

それと同じなのです。


百歩譲って、高校生以上なら良いかもしれません。

筋力がついてくる高校生以上であれば全力で100回振ることは『休息をとりながら』であれば可能かと思います。

しかし、それでは時間がかかり効率が悪いのです。


ちなみに研究報告では

『非熟練者では週3日少なくとも100回の素振りでスイング速度は向上する』

Szymanski DJ, et al. Contributing factors for increased bat swing velocity. J Strength Cond Res. 2009

と報告されています。


子供も非熟練者に当てはまると思われますが、個人的には上記の理由から100回でも多いと考えていますし、この研究から少なくとも毎日は振らなくて良いと思います。

よくTwitterやInstagramの投稿で、身体のできていない小学生が何百回も素振りをしている様子を親が投稿しているのを目にします。身体にはかなり負担がかかっていると思いますし、全力で振れていない子供がほとんどです。

数だけこなして(親の)自己満足になってしまっている可能性があります。


そもそも、素振りをスイングスピードを上げるためにやっているのだとしたら、それは非効率的すぎます。

特に高校生以上になると筋力がついてきているので、素振り(バットの重さ)だけでは筋力をつけるための負荷が小さすぎます。

まだ筋力がない小学生であれば素振り(バットの重さ)だけで筋力がついてくる可能性はあります。


しかし、回数を繰り返し行うことで腰の負担が大きくなる可能性があります。これは前述しましたね。

スイングスピードを上げるためなら、素振りだけではなく、筋力トレーニングに取り組んだ方が効率が良いでしょう。

私が今行うと素振りを行うとしたら『全力で振った時に正しく振れているか』の確認のために行うと思います。


次は、素振りの位置付けとスイングスピードを上げるために必要な考え方についてです。

③素振りの位置付けとスイングスピードを上げるための方法


前述しましたが、スイングスピードを上げるためなら素振りをたくさん行うのではなくトレーニングにしっかり取り組みます。


ベーシックなウエイトトレーニング(BIG3)と体幹の回旋パワーを向上させるためにメディシンボール投げを行います。

※BIG3:スクワット、デッドリフト、ベンチプレス

BIG3(スクワット・デッドリフト・ベンチプレス)
オンラインセミナー「バッティングパフォーマンスを高める」資料より



では、素振りはどういう位置付けかというと”最後の仕上げ”といったイメージです。


  • トレーニングで筋肉を大きく、強くし、それを回旋パワーに変える

  • 最後に素振りで高速回転を行うことでよりスピードが出せる身体にする

  • そして、その身体で正しい動作でスイングできるようにする


これを車に例えると軽自動車からスポーツカーに乗り換えるイメージです。

軽自動車のエンジンからスポーツカーのエンジンへ


  • まず車体を大きく、強くします(筋肥大)

  • そしてエンジンの出力も大きくなります(筋力向上)

  • そうするとスピードが出るようになります(スピード向上)


ここまでがトレーニングの役割です。


でもそれだけでは上手く扱えないので、スポーツカーで運転を繰り返し、それに慣れていきます。

ここが素振りやバッティング練習など技術練習の役割です。

スピードが出た車体をうまく扱えるように練習する


これがもし軽自動車のままだと運転を繰り返しても、いつまで経ってもスピードが上がらないのがわかると思います。

こう考えると素振りだけやってても効率が悪いのがわかると思います。

しかし、トレーニングだけしていても意味がないのもわかると思います。


結論としては、

『トレーニングも素振りも両方大事』なのです。


簡単にまとめると

■(ウエイト)トレーニング
■メディシンボール投げ
■素振り

この3つをバランス良く行うことでスイングスピードが上がります。

素振りはこの要素の1つに過ぎないということを理解してください。


自主トレの時間に素振り以外のことをしても良いのです。

基本的なスクワットやメディシンボール投げを自主トレに追加してみてください!


スクワットは中学生までは重りなしで良いと思いますし、メディシンボール投げもバスケットボールなどで代用可能です。

素振りに関してはInstagramの投稿にも詳しく解説していますので参考にしてください!




今後もこのnoteでは、このような科学的根拠に基づいた動作やトレーニングをお伝えしていきます。

InstagramやTwitterでは、野球に関するトレーニング、身体のケア、ピッチングやバッティングのパフォーマンス向上などを科学的な知見をもとに発信しています。

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矢部和樹(やべっち@野球トレーナー)
【活動】
・理学療法士(スポーツ整形外科勤務)
・修士(保健学)
・中学硬式・高校野球部トレーナー
・公認野球指導者(U-15)
・大学院ではバッティングに関して研究

これまで得た私の知識と経験をもとに皆様の野球のレベルをワンランク上げていきたいと思います!

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