見出し画像

【肩肘のケガのリスクを減らす!短時間で効果的なエクササイズ〜科学的根拠と実践〜】

〈肩の可動域制限と障害リスク〉

ピッチングやスローイングを繰り返すと肩の筋肉が硬くなります。

野球経験年数が多くなるにつれて、特に投球側の肩の内旋可動域は低下していくのですが、

「プロ野球の投手は、非投球側と比較して投球側の肩内旋可動域は約11〜13°低下している」と報告されています。

1)Borsa PA, et al. Med Sci Sports Exerc. 2006
2)Reinold MM, et al. Am J Sports Med. 2008

3)Wilk KE, et al. Clin Orthop Relat Res. 2012

その「肩内旋可動域制限(左右差)は肩や肘のケガのリスクを高める」といくつかの論文で報告されています。

■学童期
学童期野球選手における野球肘のリスクを調査した研究では、「13°以上の肩内旋制限は肘のケガのリスクを6倍増加させる」と報告されています。

4)Shanley E, et al. J Shoulder Elbow Surg. 2015

■青年期
高校生や大学生、プロの投手の場合は、「約20°〜25°以上の内旋可動域制限や5°以上の総回旋可動域(内旋と外旋可動域の合計)制限がある場合、肩や肘の怪我のリスクが高くなる」とされています。

5)Myers JB, et al. Am J Sports Med. 2006
6)Shanley E, et al. Am J Sports Med. 2011
7)Wilk KE, et al. Am J Sports Med. 2011

この可動域の低下は投球によって起こるとされているため、練習や試合後にクールダウンをして可動域を回復させることが重要なのです。

そのため、『セルフチェック』で練習・試合前後の可動域を確認し、自分たちで改善できるようにすることが大切だと私は臨床や現場で指導しています。

ただ、この可動域の低下をできるだけ練習や試合中から防ぐことができれば、肩や肘のケガのリスクを小さくできますし、その分クールダウンも他のことに時間を費やせます。

そこで、投球セッションの間(例:試合中のイニング間)に行うことができる『かなり短時間のエクササイズ』による可動域低下に対する効果を調査した研究があります。

このエクササイズは『ツーアウトドリル』と名付けられているのですが、その理由は攻撃時に”2アウト”になった直後に、投手が次の投球の準備をするからです。

ちなみに攻撃中にベンチ外に出ることは大学・社会人野球では禁止されていますので、このエクササイズもベンチの中でできるものです。


では、その論文の中身を見ていきます。

〈論文紹介〉

■方法

プロ野球投手20名が対象となり、以下の手順で投球と『ツーアウトドリル』が行われました。

1)ランニングと軽い投球からなる5~10分間の動的ウォームアップ
2)投球前の可動域測定(肩の2nd内旋・外旋、肘の伸展)
3)40球の全力投球(約3イニング分)
4)8分間の休憩(攻撃時間を想定)
5)投球後の可動域測定
6)『ツーアウトドリル』(約1分)
7)『ツーアウトドリル』後の可動域測定

投球前、投球後、ツーアウトドリル後の可動域が比較されました。

■結果

その結果、投球後に肩の内旋・外旋、総回旋可動域は低下しました。
しかし、『ツーアウトドリル』を行った後、投球前の可動域に改善しました。
肘伸展可動域は投球前後やツーアウトドリル後で変化はありませんでした。

このことからイニング間に短時間のエクササイズ『ツーアウトドリル』は肩の内旋・外旋可動域にポジティブな効果を及ぼすことがわかり、肩や肘のケガのリスクを減らす可能性があります。

次は実践編として「ツーアウトドリル」を具体的に紹介します。

〈エクササイズ紹介〉

■概要

監修:ストレングス&コンディショニングスペシャリストの資格を持つ理学療法士
構成:7つのエクササイズ。すべてのエクササイズは立位で実施可能
実施時間:約60秒で完了

■方法

ここから先は

2,638字 / 8画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?