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東近江の民家

田の字形平面の伝統的な築60年の古民家のリノベーション。

建てられて60年の間に、子供の成長や生活スタイルの変化、インフラの更新など、様々な改修や増築が繰り返されてきた。

利便性の向上のためになされてきた改修の積み重ねは、どこかちぐはぐで付け焼き刃、この住宅の純粋なところが失われつつあるように感じた。

ただ、この民家特有の京間のモジュールや建具で仕切る軽やかさで、おおらかな空間の質は今も保たれている。

外部気密は鼻から諦めたような昔の大工仕事は、多少、冬の寒さは堪えるようだが、内部と外部のあいだに住まうような清々しさを感じる良さがある。

瓦はずっしりと鈍いいぶし銀は、視覚的に見慣れているからか、他には代えがたい安心感と信頼がある。

このような、民家の質の原型のようなものを、改修行為で探し出し、見つけ出し、洗い出し、全体を調整して、次の60年に継承したいと思った。

改修前の様子

南側に向けて縁側と玄関がある。2階は天井高がまともに取れていないため収納スペースとして使われていた。

全面道路から見た外観。

いまではめずらしい凝った意匠の建具が各部屋にはまっていて、状態も良いので再利用することにした。

内部を解体した時の様子
構造体や再利用可能な壁は残して解体。

外観

外壁は焼き杉を張り直し、玄関まわりの壁は漆喰塗りとし、以前の佇まいを継承している。瓦は新規に葺き替えている。

縁側の延長として濡れ縁を新設した。
日本の民家は何層ものレイヤーが重なってできている。
庭があって、軒下、ぬれ縁、縁側、建具で柔らかく仕切った和室。
すべて不整形な、中間領域の空間の重なりでしかない。
外部と内部の重なりにあるぬれ縁は、地域と重なる大事な場所。人々が気軽に立ち寄って交流ができるような場所とし考えている。

玄関

天井は杉板張りの大和天井。写真左側の下段板は以前からあった欅の板を加工して再利用している。

リビング

リビングから南側の庭を見る。縁側のガラス建具は、建具の框が見えないような納まりにしている。ミニマルに風景を切り取る。

1階の居間は構造あらわしの吹抜けにして、明るくて大きな空間。フローリングは赤松の無垢材。

建具を開閉することで、空間が多様に拡張できるのが日本家屋のおもしろいところ。

建具

西欧の建築は空間を”囲う”に対して、日本の建築は空間を”おおう”。まとうと言ってもいいかもしれない。

柱と横架材で構成された軸組構造のあいまを、華奢な組子や、紙、布、葦、網、ガラスで構成した建具でおおうのだけど、その建具でおおわれた空間の軽やかさは日本建築特有だ。

季節によって、ガラス戸から葦戸に変えたり、容易に交換可能なので、気分によって変えたりすることもできる。

なにより、その組子などの意匠がバラエティ豊かすぎるし、その超絶技巧は工芸的な面白さもある。

この頃は、時代のニーズにより民家を解体するときに同時に処分せざる得ない。補修や調整すればどこでも使用できるものなので、実にもったいない。

仏間

天井と建具は再利用している。

キッチン

特注キッチン。戸棚はシナ材で製作している。
車椅子でも利用可能なようにシンクとコンロ下を開放している。

階段踊り場

2階の個室

時を刻む

以前からある60年の年月を刻んできた振り子の時計。また同じ位置でこれからも時を刻む。

建築データ

設計:川島裕一建築設計事務所
施工:松野工務店
構造:木造在来工法
規模:地上2階
延床面積:138㎡(42坪)
所在地:滋賀県東近江市
写真:山崎純敬
分類:古民家再生・リノベーション
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