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模試監督をしている間にポケモン151匹を思い出そうとした話

模試監督をしている時ほど、暇な時間はない。

誤解無きよう言っておくと
もちろん仕事をちゃんとこなした上での話だ。

模試というのは高校や大学などの入学試験の力試しともなる場であり「自分が今、目標としている学校の合格圏とどれほど差があるのか」を知るための試験でもある。

そして大抵、模試というものが開催されると朝から夕方くらいまで拘束されることになる。なんせ大学合格判定模試ともなると、最大9科目も試験を受けなければならないのだ。自然と模試も一日がかりの日程になってくる。

そんな長時間の試験である全国模試。学生はもちろん参加するとして、テストを受ける人だけでなく、テストを配ったり、説明する作業を行う人が必要になってくる。

それが、模試監督という存在だ。

時には歩き回って不正をしている人がいないかを見張ったり、学生がテストの内容以外で困っているときに、手を貸してあげることもある。

この模試監督という仕事が
びっくりするぐらい暇なのだ。
しかも、時間の進み方が異様なくらい遅い。

なんせ9科目もある。大体一科目1~2時間程度だとしても、軽く12時間は超える。

模試監督中は、テストを受けている学生に目を向けてはいる。しかし、一瞬足りとも目を離さずに、一人ひとりの行動の一挙手一投足を見守っているわけではない。

したがって、明らかにやることがなくなる凪のような時間が一日を通して何度となく襲ってくるのだ。

特に、一番の大敵となるのが眠気。

長時間座っていると、どうしても瞼が重くなってくるため、定期的に眠気覚ましに歩いたり、必死に考え事をして眠気をどうにか遠ざけようとする。

つまり、この暇な時間をどう埋め合わせるかは
仕事をやるうえでの死活問題とも言えるわけだ。

12時間という果てしない時間を
どうやって過ごせばよいのか。

これが、タイトルの話の出発点となる。


自分は大学生のころに、全国模試の模試監督のアルバイトをしていた時期があった。

ある日のこと、友達と3人で応募していたこともあり
3人とも同じ日にシフトで入ることになった。

もちろん、同じ教室で模試監督をするわけではないけども、知っている人が近くにいるというのは安心するもので、その日も模試が始まるまではリラックスした雰囲気で他愛のない会話をしていた。

そんな会話の最中。
「模試監督中ってどうやったら時間が早く過ぎるんだろうか」という話が、誰からともなく出てきた。

これが、全ての始まりだった。

使えるものといえば
ペン、そして模試の問題文だけ
携帯や本などはもってのほかだ。

そんな制限がかかった中でも、様々な暇つぶしの候補が挙げられ

「自分の家を中心として、地図を書いてみる」
「国語の現代文で出てくる物語の続きを書いて、一番うまいオチをつけた人が勝ち」

など、本当に暇つぶしを追及し尽くした人にしか思いつかないであろう案が続々と提出された。


多くの検討がなされた結果、最終的にこの日のお題として決まったのが「初代ポケモンに出てくる151匹のポケモンを全部思い出した人が勝ち」というものだった。

なんか出来そうな気もするし
無理そうな気もする
この絶妙な難しさレベル。

こうして、長い一日が始まったのだった。


始めは何の苦もなく名前が出てくる。

最初に手に入れることが出来る「御三家」と呼ばれるヒトカゲゼニガメフシギダネを始め、ピカチュウイーブイ伝説のポケモンたちなどをすらすらと書き留める。

自分がこの時使った手法として、いくつか挙げてみると
まずはゲームのストーリーに沿った思い出し方を採用した。

序盤で出てくるポケモンから始まり、ジムリーダーが使うポケモン冒険する町々で登場するポケモン、そして敵が使う印象的なポケモン。

基本的には、この思い出し方で7~8割方のポケモンを思い出すことが出来る。全国的なポケモンを網羅できるのでおすすめだ。ぜひ機会があれば活用して欲しい。

そして、次に使ったのが
アニメに出てきたポケモンを振り返る方法だ。

自分はこの手法により、序盤に取り逃がしていたアーボドガースを捕獲することに成功した。人生の中で初めてロケット団の2人に感謝した瞬間だった。ムサシとコジローに幸あれ。

他にもあいうえお順で思い出してみたり、タイプ別に思い出してみたりと、あらゆる手段を用いてポケモンの記憶を掘り起こしていた。

ちなみに、進化ポケモンは一気に2匹以上思い出すことが出来るのでお得であるのに対して、進化しないポケモンは1匹しか埋まらないうえに、思い出すのが意外と難しいので非常にコスパが悪い。
これ、ポケモン思い出すときあるある。

ポケモンを思い出しては紙に記して、お昼の時間に成果を報告し合っている時間がどれほど楽しかったことかは、あの空間にいた人しか分からないだろう。

テストに向かい合っている学生と同じくらい真剣に
自分たちはポケモンのことを考えている自負があった。

しかし、これほど真剣にやっても
残り30匹ほどがなかなか埋まらないのだ。

「本当に151匹存在するのか?」
とさえ疑心暗鬼になるぐらい過去の記憶に思い巡らせるものの、時間は刻々と過ぎていく。

結局、夕方にある小休憩中に3人で話し合い
残りの時間は協力して思い出そうということになった。

友達の口から自分がどうあがいても思い出せなかったポケモンが発された時の感動は筆舌に尽くしがたい。

バトル漫画なんかでもともと敵キャラだったやつが仲間になった時に急に頼もしく感じられるのと同じような感覚だった。


とはいえ、状況が少し変わったものの
やることは変わらない。

残りの時間も記憶を司る海馬をひっくり返す勢いで
ポケモンを思い出すことだけに集中する時間が続く。
学生の方を見るのも忘れない。

正直、最後らへんにどんなポケモンが残ってたかは思い出せないのだけど、確かスリープスリーパーを思い出した時に街を救った英雄ぐらい褒められたのだけは覚えている。

そうして最後の試験が終わった時、3人合わせて思い出したポケモンは140匹を超えていた。

ただ、この結果は
全てのポケモンを思い出せたわけではないということでもある。

しかし、だ。
ここまできて、ネットで検索して終わりというオチに
3人が納得などするはずがなかった。

最終的に場所を模試の教室から家の近くのコンビニへと移し、戦いは延長戦へと突入することになる。

何か抜け落としていることはないか。
見落としている点はないか。

もはや思考回路が名探偵コナンと大差ないレベルになったところで、ようやく残りのポケモンが1匹のところまで辿り着いたのだった。

150匹。この果てしない数字の偉大さが分かるようになったら、君も立派なポケモンマスターだ。

最後の1匹まできたのだから何としてでも思い出すしかないと、皆の士気は頂点に達した。

ただ、この最後の1匹がいくら時間をかけても思い出せないのだ。

時間だけが過ぎていき
みんなの集中も切れ始め
無情にもタイムアップの笛が鳴った。

そうやって残った、最後のポケモン。

全思考を使っても、3人で協力しても
1日かけても思い出せなかったポケモン。

それが








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メタモンだった。


なんだろう、この妙な納得感は。

実際、このポケモンが調べて出てきたとき、3人とも悔しさと同時に「ああ、お前だったのか」というある種の安堵感を抱いていたように思う。

確かに思い返してみると、ゲームのストーリーの中ではあまり登場しないし、アニメでも特に印象的な場面はなかった。

と言うかそもそも、こんな変身ばっかしているやつのこと思い出せるわけないだろ。完全に盲点だったわ。

こうして最後の1匹は思い出せなかったものの、それなりの達成感を胸に、皆各々の帰路に着いたのだった。


まぁ結末はともかくとして、この日は他の日と比べると群を抜いて時間が経つのが早かった気がする。

今、暇で暇で仕方がない人は
ぜひとも試してみてはいかがだろうか。

きっと151匹思い出せた時の感動は
それなりにあると思うよ。

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