見出し画像

KO(ウサギノヴィッチ)

 頭の中で桜島が噴火した。
 ここは関東平野の北でもなく南でもなくちょうど真ん中。天気予報で、「北関東」を見ればいいのか、「南関東」を見ればいいのかわからない。しかも、中途半端に栄えている。東武東上線の急行が止まる。つまり、ここは志木だ。志木駅という割には、新座市がすぐにあるし、駅から数百メートルで住宅街になる。その数百メートル行った先のところにあるK O大学の附属高校に入りたいと思っている。いや、思った。思った瞬間に立ち上がって、拳を天に突き上げた。音楽の授業中で、みんなエーデルワイスを歌っていた。ピアノの伴奏をしていた、好きな佳子ちゃんは目を見開いてぼくの方を見て、まるで鯨が小魚を食べた映像を見たかのように物珍しそうにしていた。ぼくは一人アニマルプラネットらしい。音楽の時間は退屈だから、カラオケに行きたいと思った。どうして、自由に歌が歌えないのか? どうして、Mr.Childrenはバラードばっかりになってしまったのか? フジファブリックはいたこを使えば再集結できるのではないだろうか? そんなことを考えていたら、放課後になった。
 ぼくは、学校の花壇の隅に落ちていた石を蹴りながら、家に帰ることにした。帰っているときに、三回車に轢かれそうになった。でも、ぼくのやっていることを理解してくれて、怒鳴ってくれて、──おい、ガキ、トロトロしてるんじゃねーよ、さっさと渡れよ、轢くぞ。コラ、タコ、このやろう、と言った。ぼくは小声で、──なにが、轢くぞ、コラ、タコ、この野郎、と言い返した。
 家に帰ると、二十歳離れた父親が違う姉が、スタバのコーヒーを家でも作れないかと、業者と打ち合わせしていた。姉はカフェインに弱くて、牛乳もアレルギーみたいなものがあって、スターバックスに行ったことがない。でも、どうにかして、あの緑色のお洒落なマーメイドみたいな、シアトルの女神みたいな、なんだかわからない神様なのかもわからないマークが彩られたカップを片手に少しだけ遅刻気味に会議に参加したり、出社したりしたいという夢があった。ぼくは、そんな姉を健気に思いつつも、他人事のように思っていた。
 ぼくは部屋に行き、エロ本の隠してある引き出しの一個上の引き出しからパソコンを取り出してエロ動画を見て楽しむ。エロ本なんて、現代のナンセンス、負の遺産だし、コンビニは今は取り扱わないし、手に入るのはコミケか、名前が書いてない怪しい本屋さんくらいだ。
 一発抜いたところで、ぼくは勉強をする。そういえば、ぼくはK O大学に行きたい人間だった。こんなことやっていたら、そこには絶対にいけない。今度からは注意をしなければならない。ぼくはK O大学に入って、テニスサークルに入って、女の子と知り合ってお酒を飲んでホテルに行くことが目的なんだから。絶対にK O大学じゃないといけない。絶対に。
 とにかく、頑張ろう。そのためには、まず、九九から始めなくては。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?