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君から返ってくるまで #2



 ーーピンポーン

「はーい!・・・あら、優太くんおはよう。」

 エプロン姿のさくらの母が玄関を開ける。

『おはようございます。おばさん。』

「ちょっと待っててね、今さくら呼んでくるから。」

『ありがとうございます。』

「さくら〜!優太くん来たわよ〜!」

「えぇ〜!?もう来たの〜!?早いよ〜!」

 奥の方から今日も元気なさくらの声が聞こえる。

「優太くん制服似合ってるわね。将来が楽しみだわ。」

『もう、何言ってるんですかおばさん!』

「さくらの制服姿も可愛いわよ〜!」

「お母さん!やめてよ!」

「あら。聞こえちゃったみたい。もうすぐ出てくると思うから、期待して待っててね。」

 今度は聞こえないように小声で話すさくらの母。しかし、そんなことを言われたら直視出来ない。



 今日は中学校の入学式。つまり、生まれて初めて、さくらの制服姿を見る日だ。そうして、ソワソワしながらさくらを待つこと5分。やっと玄関に人影が見えてきた。

『おはよう。おせーよ。置いていくぞ。』

「おはよう!ってちょっと待ってよ〜!」

『入学早々遅れるだろ。』

「なんか今日冷たくない!?なんで!?」


 そこには、さくらの母が言った通り、制服姿がとても似合ったさくらが居た。

『お前の制服姿が可愛すぎて恥ずかしいんだよ。』

「えっ?なんか言った?」

 心の中で言っていたつもりが、声に出ていたらしい。

『・・っ!なんでもねぇよ!行くぞ!』

「優太の制服姿もかっこいいよ。」

『聞こえてんじゃねぇか!』

「もう〜!照れちゃって!将来お嫁さんになるんだから、今更照れることないじゃん!」

『はぁ?!まだそれ言ってんのか?!』



 そう、あれは、さくらの5歳の誕生日ーー

「ねぇ、ゆうた。これからもずっと、しんじゃうまで、さくらのたんじょうびおいわいしてね!」

『ずっと?』

「そう、ずっと!さくらね、しょうらいはゆうたのおよめさんになるんだ!」

『さくらがおよめさんか!いいな!』

「でしょ?」

『ぼくはずっとさくらのたんじょうびをおいわいするし、さくらのことまもる!』

「うん!」

 ーーこんな会話をしたっけ。懐かしい記憶を思い出していると、さくらがこう続ける。


「今日から私達、中学生じゃん?」

『うん。』

「十年後は、大学を卒業して、新社会人になる歳じゃん?」

『そうだな。』

「お互いちゃんと就職先も決まって、他に好きな人が居なかったら、その時は結婚しようよ。」

『・・・!』


 驚いた。子供の頃のよくある話だと思っていたから。真剣な眼差しでこちらを見て言うもんだから、僕は思わず目を逸らし、黙り込んでしまった。すると、僕の顔を覗き込むようにしてさくらが言う。

「だめ・・・?」

『いや、だめじゃないよ。少しびっくりしただけ。・・・わかった。十年後な。』

「やったー!約束ね!」


 つい最近までお互いランドセルを背負って歩いていたのに、突然始まった大人びた会話に、むず痒い気持ちを抱きながら中学校への道のりを歩いた。そんな僕をよそに、さくらは機嫌よく「優太のお嫁さん♪」と恥ずかしい唄を歌いながらスキップしている。

「恥ずかしいからやめろ!」なんて言いながら、こんな愛しい日常が一生続けばいいのに、と心の中で思ったんだーー



次章 〜違和感の正体〜


✄--------キリトリ--------✄

冬休み特別企画2日目です❄️
幼馴染みって、、、、、、エロいよね。

明日は物語の転調があります。お楽しみに!

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