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中国・国家図書館の館蔵貴重書の複写と掲載許可を日本から申し込む


 タイトルの通り、貴重書の複写と掲載許可を申し込んだ。論文の学会誌掲載にあたって、どうしても必要な画像があったからだ。
 そして、なんやかんやという程のこともないくらいのスムーズさで、一週間ほどでできた。
 史料名については、ネットで調べた途端に筆者の身バレが発生するので詳しくは述べないが、宋代のとある図像を請求した。サムネ写真は同書のうちの1ページ、どう見てもトカゲな龍。
 無事手に入った現在の自分を覆う
「対応してくれるんだ……」という感動と、
「これ、もっかいやれってなったとき、多分全部忘れてるだろうな」という危機感から、
以下に何をどうしたか、備忘録も兼ねて記していく。

 また、今回の作業にあたっては以下リンクを参考にした(便宜上、リンク先記事は以下「先例」と呼ぶ)。本文を読むにあたっては、まずはこの先例のケースを読んでいただいた方が良いかもしれない。
 自分以外にもこうした史料の請求を行う人がいて、しかも記録を残しているという事実に大いに勇気づけられた。アルティメットありがとう。


 先例は国家図書館の複写サービスに登録しようとした結果、ログイン情報に必要な中国国民の身分証番号を持っていないがゆえに先に進めず、メールで直接問い合わせることに…という流れである。
 結局探している史料の箇所がそもそも存在しなかったようで、レファレンスからその旨の返事が届いて終わっている。
 今回はこの記事に補足しつつ、請求完了に至ったケースとして自分の例を紹介していく。
 「論文投稿〆切が迫ってるからもうとにかくやり方だけ教えてくれ!」というせっかちなアナタは、目次から「やりとりの一部始終」に飛んでもらうといいかもしれない。重要そうな部分はボールドで表す。



資料請求の背景

今回持ち合わせていた条件

 先例と自分のケースとの間には3つの大きな違いがある。自分の場合は以下の下地があった。

  1. 史料の複写箇所を特定していたこと。

  2. 中国国内に知り合いがいたこと。

  3. 中国語がまあそれなりに、それなりの具合に読み書きできること。

 まだ諦めないで〜〜〜!!!!!!!!!!!!!!!!

 それなりにデカい三点な気もするけど諦めないで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜……

 以上が揃っていればかなりスムーズなのは確かだが、次に順に、これらがいずれも別にどうとでもなることだと示したい。

1.史料の複写箇所の特定(付・中国の史料の漁り方)

 タイトルに「貴重書」とつけているので貴重書の場合を紹介する(そうじゃない場合は、殆どの場合なにかしら目星はついていると思う)。実は、中国国家図書館のデジタルデータベースで、数多くの史料がログイン不要で閲覧できる。

 このニュース記事ではいくつかデータベースのリンクを紹介しているが、そこらへんの管轄に関する細かいことはわからない。とりあえず「読者云門戸」とかがいいと思う。
 史料が色々載っているので触ってみるといい。
 触ってくれたらあることに気づくと思う。
 史料を閲覧したいだけなら正直この記事は全く必要ないのだ。
 ここでだいたい揃ってしまうから。
 ただし、一部史料には転載防止のために国家図書館のスタンプがついている(サムネ左右参照)。今回は論文に画像を掲載する必要があったので、スタンプがあると困る上に、掲載誌の解像度に関する規定も合わさって、こうして申し込むに至った。ここで史料のリンク先とページを把握しておき、後々の申請に書き込む形になる。



 余談だが、そもそもどの史料に何が掲載されているかわからない、という調べものの初期段階にありがちな状態については、以下のデータベースで検索をかけてしまえばいい。

 「正文关键词(本文キーワード)」に気になる文字を入力すれば、簡体字・繁体字・異体字を含めた上で(!)、ウィキソースや漢籍リポジトリから一気に検索をかけてくれる(!!)。なんなら翻刻や刊本といった、データベース入力の元になった書籍の画像もワンクリックで表示してくれる(!!!)ので、かなり網羅的で確実な史料探しができる。誤字の照合がその場でできるのは大きい(史学科一回生に言うようなことだが、それでもできるだけ元の史料にあたること。これだけは怠ってはならない)。
 ただし、このCnkgraph自体の詳細は何も知らない。もしかしたらめちゃめちゃアウトなのかもしれない。そもそもオープンなデータベースを集めた検索エンジンみたいなものなので、大丈夫だと信じているが、自己判断で使ってほしい。

2.中国国内に知り合いがいる

 やりとりの終盤、資料請求費用の支払いで活躍してくれた。この後の手順でも記すが、国家図書館には「中国国内の代理人」による支払いを許可していただいた。
 逆に言えば、支払い方法さえなんとかなれば、別に助けはいらなかった。というか今思えば、支払い方法として提示された銀行振込と支付宝(アリペイ)、どっちにしろ日本でなんとか支払いできる気がする(確証はない)。

3.中国語ができること

 こんなことはどうでもいい。DeepLとかを使えばいい。下手に自分で書くより遥かにキレイな中国語になると思う。ただDeepLは長文をブチ込むとたまに翻訳に困った文章を中抜きして、素知らぬ顔で出力してくる。なので、一文一文丁寧に食べさせるのがいいと思う。

小結、ここまで正直全部なんとかなるが…

 逆に、これがないとダメかも、という物を記すと、まずGoogle以外のメールアドレス。Googleと当局の関係ゆえ、中国にはGmailのメールが届かない、みたいな話があるからだ。次に、「様式記入」の項目で記すが、パスポートはあったほうがいい。申請書に番号を記入する箇所がある。



やりとりの一部始終

大まかな流れ

 

  1. 自分の欲しい史料を担当している部署のメールアドレスに申請を送る

  2. 様式や内規が送られてくるので、記入して返送する

  3. 先方で審査があり、その審査に通った場合、振込先の連絡が来る

  4. 振込を行い、完了した旨を伝える

  5. 自分のメールアドレス宛に複写データが送られてくる

 簡単に記すと以上の通りだが、それぞれのステップに注意点があるので、段階を追って詳しく見ていきたい。

1. 国家図書館の担当部署に連絡をする

 多分、ここが一番つまずくポイントだと思う。
 まず国立国会図書館のリサーチナビで言及されている複写サービスシステム(文献传递服务平台)というものがあり、そこログインさえできればなんとかなる、と思っていたはずが、2023年現在は中国の身分証番号を持っていないとアクセスできない。心が折れる。
 なので、直接メールしてしまうのが一番である。先例もそのようにしていた……と、思っていたところ、二つ目の小石につまずく。
 中国国家図書館は南区閲覧室とか、善本閲覧室とか、レファレンスとか、ポスドク用レファレンスとか、なんかそういう色々な窓口がめちゃめちゃあるのだ。中国語が読み書きできる自分でもページを行ったり来たりして、結局自分の求める史料の場合はどこに連絡するのが適切なのか、皆目検討がつかなかった。
 この時点で半ば諦めムードだったが、11月3日、思い立って当たって砕けろの気持ちで問い合わせてみた。
 メールの内容は以下の通りである。

 

【咨询】关于从国外申请古籍善本文献传递的方法

您好,

我是日本■■■,正研究■■■■。我写的一篇论文,准备在■年■月载于日本论文期刊『■■■』第■册。
在这篇论文里我需要使用您贵方收藏的『■■■』其中一页「■■■」影印(详见附加文件)。图片是从以下「读者云门户」确认的,但因以上论文期刊的规定,我需要一张350dpi以上,并且不带贵方水印的版本。
( URL )
由此我想咨询以下两个问题...
1,在论文期刊上想要使用贵方收藏品图片的时候,我要经过如何手续,得到贵方许可?
2,因为我没有中国证件号码可输入,所以无法登录文献传递服务平台。有任何方法可以使我得到这张影印的数据吗?
在申请过程中有必要在国内进行手续的话,我可以靠中国熟人代替我行动(支付等)。
希望您能在百忙之中提供此影印的数据(pdf,jpg等)。谢谢。

身バレ防止のため、昔の教科書みたいに一部を黒塗りにした。

 自分で作ったぼちぼちの中国語作文だが、日本語に訳すとこんな感じだ。

【問い合わせ】国外から古籍善本資料を送付していただくことについて

お世話になっております。
私は日本在住の【職業名】で、現在【テーマ】について研究しております。この度、私の執筆した論文が■年■月に日本の学会誌【誌名】第■号に掲載されることとなりました。
この論文について、私は貴館所蔵の【史料名】のうち【欲しい内容】に関するページの影印データが必要です(詳細は別添画像をご覧下さい)。
別添画像は以下の「読者云門戸」URLから確認しているところですが、論文の投稿規定の関係で、350dpi以上でかつスタンプのない画像を必要としています。

【読者云門戸の史料のURL】

つきましては、2点のご質問をさせていただきます。
1. 貴館所蔵品の刊行物掲載許可はどのようにして得られますでしょうか。
2. 中国の身分証番号を所有していないため、複写サービスにアクセスできません。影印の画像を手に入れる方法はありますでしょうか。

 申請の過程において、支払いなどの必要事項が発生した場合は、中国国内の代理人に代行していただく予定です。
 御多忙のところたいへん恐縮ですが、jpgやpdfなどの形式にて、データの提供についてご検討のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 まあ、いいんじゃないだろうか。

 以上の文章では焦りがあったためとにかくスクショとかURLを添えて「オープンアクセスで見れるこのページが欲しいんですよ〜 データベース作成時に使ったスキャン写真をそっと渡してくれるだけでいいんですよ〜」感を出した。出しといて損はないので。

 さて、問題はどこにメールを送るか、だ。

  • webmaster@nlc.cn →なんかホームページの下段とかに書いてある、一番ベーシックな相談窓口

  • sbyls@nlc.cn →貴重書のコピーはここに連絡してね、と記載のある本命窓口。先例によれば、「南区善本閲覧室」か。

  • bosh@nlc.cn →ポスドク専用のレファレンス窓口。何をしてくれるのかは知らないが、すごそうだ。なんとかしてくれるかもしれない。

  • wxtgzx@nlc.cn →複写サービスシステム(文献传递服务平台)の問い合わせ窓口。

 とりあえず、もう全部の宛先に一斉に送った。
 そして、まずwebmasterとwxtgzxからは、送った翌日の午前に、頼りにならなさそうな返事が帰ってきた。
 前者からは極短文にて「複写サービスにログインして、手続きを行ってください!」とのこと。
 後者からは複写の際に必要な配架場所のデータが送られてきた。
 どちらも自動返信で、ハッキリ言って役に立たない。こちらの嘆願をあまり読んでくれてないのがヒシヒシと伝わる。

 運命は残る2つのアドレスに委ねられた…。

 翌日。
 a01088545344@163.com というメールアドレスから返事が来た。

 まさかの知らないところ。
 2つのアドレスのどちらでもない。
 多分、どっちかが気を利かせて転送してくれて、
 どっちかが無視している。

(2023/12/02追記
今日、突然「bosh」から返事が来た。
「善本閲覧室に所蔵されているので、次の電話番号にお問い合わせください」と2行ほどの文章だった。ナメやがって…………)

2. 様式等の記入と返送

 このメールアドレスは「古籍善本特蔵閲覧室」という部署らしい。これで国家図書館には把握している貴重書関連窓口だけで南区閲覧室、普通古籍閲覧室、特蔵閲覧室と3つも存在することになり、いよいよ使い分けがわからないのだが、ともあれ助かった。
 返信の内容としては、「別添様式を記入し、名前の横に押印した上でpdfスキャンし返送してくれれば、審査をしますよ」というものだった。
 更にご丁寧に、「300dpiでかつスタンプなしの画像の送付になりますので、各種刊行物の必要条件を完全に満たすことが可能です」とも付け加えてくれていた。こっちは350dpiで申請しているから既に完全ではないのだけども、諦めろということなのだろうか。
 様式の記入例も以下に貼っておく。

 基本的には赤字を埋めていけばいい。
 赤は順番に、所属と名前、論文名か単著の場合の書名、雑誌名と巻数(ない場合は記入不要)、そして下線部は「あるいは単著の場合の出版社」。
 少し飛んで、資料請求費(記入不要)、コピー費(記入不要)、その2点の総額(記入不要)。
 文中にポツポツと入れていく。基本的には記載のあるとおりに素直に記入していけば問題はない。
 その下には名前自署・身分証番号/パスポートの番号・押印。日本人でパスポートを持っていないといよいよここで詰んでしまうのだが、意図としては同姓同名の他人と混同することを防止するものなので、究極何かしらの身分証とかのナンバーでどうにかなるかもしれない。
 自分の場合、埃かぶったパスポートを引っ張り出して記入した。自分のパスポートはかな〜〜〜〜〜り、それはそれは長らく触れていないのだが、とりあえず書いてみた。特に何も言われず、大丈夫だった(もし貴方がこの文意をやんわりと察し、かつ同じ懸念を持っているのならば、重ねて「大丈夫だった」と強く伝えておく。)。
 次に電話番号とメールアドレスを記入し、その下の发票(領収書)の発行先などについてはいずれも「不需发票(領収書不要の意)」と書いた。
 他項目で特筆することについて、自分の場合、論文名は日中両言語で記した。電話番号は中国の代理人のものと、自分の電話番号(+81発信)を記載した。
 一応、これは「用於書影出版」とあるので、刊行物掲載用の様式であることに注意してほしい。あくまで参考であり、今後様式が変更されたり、用途によっては全く違う内容のものになるかもしれない。
 なお、規約の内容は常識的で、物騒なものはないように見える。一に自分の情報、二に刊行物を刊行30日以内に二部国家図書館あてに送付すること、三に出典の明記や無断利用しないなど権利関係を遵守すること、四に値段、五に有効日。
 二だけ面倒くさいが、今後やるしかない。
 ちなみに、dpiは実際の記入様式だとちゃっかり300になっていた。
 最後の表にはいよいよコピーしてほしいページの記入を行う。書名・版本・書誌番号・枚数・内容とある。
 版本は現代中国語だと「バージョン」の意味だが、ここでは文字通り何時代の刊本か写本を聞いている。書誌番号は「読者云門戸」にある「善本番号」を入れた。おそらく、本来であれば別の蔵書検索番号とかがあるのかもしれないが、これも特に何も言われなかったので良しとしたい。
 最後に内容については、自分が欲しいページに書いてある内容をそのまま記入する感じだ。特に決まった書き方とかはなく、そのページだと特定できる内容であれば何でもいいと思う。

3. 審査に通った場合、振込先の連絡が来る

 ここでの難関は自分でなにかするというより、実際審査が通ることを祈るしかないというところ。
 とはいえ、自分の場合たった二日で合格の連絡が来た。
 

您的复制申请已获批准,复制费用共计人民币40元。付款方式及说明如下,款到后会将复制数据发至您的邮箱。如果您不方便通过以下付款方式支付复制费用,您可以委托您的代理人支付。

あなたの申請は審査に合格しました。コピー請求費用は計40人民元です。支払い方法は以下の通りで、支払いを確認次第データをあなたのメールアドレスに送付します。もし以下の方法での支払いに困難がある場合は、代理人による支払いも可能です。

 画像一枚で約830円(2023年11月10日時点)とはなかなか……と思うけど、ラーメン一杯の値段でなんとかなるなら僥倖だ。
 文章は事務的でお硬いイメージの内容だが、代理人云々に言及してくれているところに優しさを感じる。

4. 振込を行い、完了した旨を伝える。

 メールでは続いて、二種類の支払い方法を提示された。

  • 銀行振込

  • 支付宝(アリペイ)振込

 いずれも、振込時には備考欄に「善本複製+(申請者の名前)+領収書の要/不要」を記入し、かつ振込後にそれを証明するスクリーンショットや写真をメールに返信する、という要求だった。支払い番号とかを確認する意図かも。
 銀行は中国工商銀行。調べた限り、中国工商銀行在日拠点では中国への送金も対応しているらしいので、東京や大阪に住んでいたら試してみてもいいと思う。現地に行く必要もないかも。
 アリペイについては、アプリの開設自体は日本でもできるので、何かしら解決方法もありそうだ。
 自分の場合、中国の代理人として呼んだ親友にアリペイで払ってもらった。そのため、以上二択を日本国内で解決する方法については、そこまで深く調べていないことだけお断りしておく。
 ちなみに、支払いを代行してもらった分の金を返すつもりは今のところ、ない。
 振込を終えたら指示どおりスクショ等をメールに添付して、「百忙之中非常抱歉,麻烦您……(お忙しいところ大変恐縮ですが、○○をお願いしたく……)」と、いかにも申し訳なさそうで丁寧な文章を貼り付けたら、完了だ。
 その二日後、jpg形式にて無事画像が送られてきた。


まとめ

 結局、メール一往復ごとにだいたい二日、という時間間隔で約一週間。無事画像を入手することができた。
 正しいメールアドレスに連絡することさえできれば、あとは流れでうまいこと行けるんじゃないだろうか。これを見て同じく国家図書館と連絡をとられた方がいたら、是非レポを書いてみてほしい。
 ちなみに、国家図書館のHPでも、今回のメールのやり取りでも、ことあるごとに身分証番号を求められる。日本人からすればギョッとするが、よくよく考えたら連絡相手はきっと図書館司書なので、その番号でどうしようという魂胆もないのかも……しれない。
 さて、自分はこれからの仕事として論の校正を仕上げて、刊行物をなんとか二冊、国際便で送りつけなければいけないが、何かあれば追記する。
 読みづらい文章で恐縮だが、中国に関わる研究をされている皆様にとって、少しでも助けになれば幸甚に思う。本記事に挙げたいくつかのデータベースを活用することで、中国史・東アジア史は今までにない視点での研究が可能となっている。偉そうな言い方だが、お互い勉旃しましょう。どこかでぼくを見つけたら、是非お気軽に連絡もください。
 最後に、ここでこんなことを言っても何にもならないとは思うが、御対応いただいた中国国家図書館・善本特蔵閲覧室の担当者様には深く感謝申し上げます。

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