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能登半島地震と原発

 「原発事故のもたらす被害は極めて甚大である。それゆえに原発には高度の安全性が求められる。地震大国日本において原発に高度の安全性が求められるということは、原発に高度の耐震性が求められるということにほかならない。しかし、我が国の原発の耐震性は極めて低い。よって、原発の運転は許されない」ーー福井地方裁判所元裁判長・樋口英明
 
 また、樋口さんは次のような主張もしている。
 「原発の稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張(する向きもあるが)極めて多数の人の生存そのものに関わる権利と、電気代の高い低いの問題等を並べて論じるような議論に加わったり、その議論の当否を判断すること自体、法的に許されないことであると考えている」。

樋口英明さん

 今こそ「樋口理論」によって、原発について再考すべき時ではないか。

 2024年1月1日、午後4時10分頃、最大震度7の大きい揺れを伴う「能登半島地震」が石川、富山、福井、新潟県を中心とした地域を襲った。
 石川県志賀町で震度7を観測したほか、七尾市や輪島市、珠洲市などで震度6強を、新潟県長岡市などで震度6弱を観測した。
 震度とは地震の揺れの大きさの単位で最高が震度7である。今回は最大の地震だったということだ。
 今回の地震は震源が発するエネルギーの大きさの単位マグニチュードは推定7.6。その単位は1上がるごとに約32倍ずつエネルギーが強くなる。

能登半島地震後の町の様子


 そして一番の問題となるのがガル(gal)で、ガルは観測地点での地震の加速度すなわち激しさを示す単位である。
 例えば、東日本大震災では一番揺れが激しい所で2933ガルの揺れだったが、東京電力福島第一原発の耐震基準(基準値震動)は600ガル(当時)だった。実際には福島第一原発には基準地震動を超える675ガルの揺れが来た。また、新潟県中越地震は1018ガルの揺れで、それ対して東京電力柏崎刈羽原発の基準値震動は450ガル(当時)。多くの故障が発生したのも当然だった。
 住宅メーカーも耐震性を重視しせざるをえない。三井ホームの耐震基準は5115ガル、住友林業は3406ガル。つまり原発より地震に強いのである。

 石川県には志賀(しか)原発が立地する。
 今回の最大震度7はその志賀町で観測された。

志賀原発


 隣りの福井県には日本原子力発電所有の敦賀原発(敦賀市)、関西電力の美浜原発(美浜町)と大飯原発(おおい町)。
 2014年5月21日、福井地裁(樋口裁判長)は大飯原発3号、4号機について、運転の差し止めを認めた。
 敦賀市内には使用済み核燃料を再利用するための日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」もある。
 新潟県柏崎市と刈羽(かりわ)町にまたがって東京電力柏崎刈羽原発。

 原子力規制庁(規制庁)は能登半島地震発生日の午後6時半からの臨時記者会見で「異常は確認されていない」と発表した。

 原子力規制庁の記者会見の様子 

 だが、1月2日に記者会見した北陸電力によると、志賀原発は外部から電気を受ける系統が一部使えない状況が続いており、ほかの系統で電気を受けることで、安全上重要な機器の電源は確保されていると発表した。
 志賀原発では、長期間1号機と2号機は運転を停止している。北陸電力によると、1日午後4時10分ごろの地震で、1号機の原子炉建屋地下2階で震度5強相当の揺れを観測した。
 揺れの大きさは1号機で、水平方向で336.4ガル、鉛直方向で329.9ガルで、福島第一原発の事故の前に想定していた水平方向で最大600ガル、鉛直方向で最大405ガルを下回っていたという。
 (注:気象庁の2日の発表によると、志賀町での揺れの最大加速度つまり激しさが2826ガルを記録していたという。)
 地震により、1号機と2号機で外部から電気を受ける変圧器計2台で、配管が壊れて絶縁や冷却のための油が漏れたという。これらの変圧器を伴う系統では、電気が受けられていないという。

 私たちの記憶に刻み込まれているのは13年前の東日本大震災と東電福島第一原発の大事故による、今日まで癒えることのない被害だ。
 今回、本当に安全といえるのか。問題はないのか。
 「原発をとめた裁判長」として知られる樋口さんに聞いた。

 樋口さんは年末から長野県の白馬村の近くに滞在している。「震源から近くにいたのでかなり怖かった。やっぱりあの辺りだなと思いました。前から揺れていましたからね」という。
 「柏崎刈羽原発についてはすぐに大丈夫だと情報が入って来ました。モニタリング検査で放射能数値が上がっていなかったからです。もちろん、本当に大丈夫かというのはわからないのですが」。
 「志賀原発の方が柏崎刈羽原発より震源に近いですが、幸いなことに動いていなかった。それで大丈夫なのかなと思いました」。
 北陸電力の発表にある地震の加速度・ガル数が数値内なので大丈夫だという話について、樋口さんは「原発の設計基準となる堅い岩盤『解放基盤表面』でどれだけの数値なのか。だから志賀原発の危険性の程度はにわかに判断は出来ない」という。
 そもそも「地震の予知予測は出来ません。日本人の常識です。にもかかわらず電力会社は〇〇ガル以上の地震は来ないから大丈夫だという。どこでどんな大きな地震が来るかもわからないのにです」。

樋口英明著「私が原発を止めた理由」(旬報社)

 そのうえで樋口さんは「原子力規制委員会(規制委)をあまり信用してはいません。私が関心あるのは裁判所の姿勢です。(志賀原発に関しては)10年くらい裁判にかかっていますが、その間、規制委の審議を待っている。待つのではなく裁判所としての判断をしないとだめだと思います」。
 「だいたい、その間に地震があったらどうするんですか。一旦規制委がゴーを出すとせいぜい半年とか1年とかで動き出します。半年とか1年の間に裁判所が判断出来ますか、出来ないでしょう。また何年もかかる」。
 「遅すぎる裁判は裁判の拒否と同じです。原発の差し止め判決を地震が起きてから出してどうするんですか。意味がありません」。
 話が電力会社の姿勢の問題に移ると、樋口さんは「極めて重要な情報を隠すような組織で全く信用出来ません」。
 福島第一原発のメルトダウン情報を樋口さんは例に挙げた。「3.11当日にメルトダウンしていることを東京電力は知っていた。しかし、それを発表したのは5月だった。明らかに嘘をついた前科があるわけです。嘘をついて不利益を被ったかと言えばそうでもない。隠しちゃった方が得だということを知ってしまった」。

日本人の言霊信仰
 能登半島地震のあと、ニュースなどで原発のことが取り上げられるとそれを批判する投稿がかなりの数で現れた。地震や津波で被害に遭っている人がいるのに、こんな時に原発の話をするとは何ごとかと。
 樋口さんはいう。「日本人特有です。言霊信仰です。嫌なことを言う人に拒否感を持ちます。直感的に嫌うのです」。
 しかし、「短期的に国を滅ぼすのはCO2でもなく、戦争か原発のどちらかなんです。地震や津波では滅びません。その重要な問題を真っ先に発言したり考えることを、少なくとも責任ある立場の人たち、例えば、政治家、マスコミ、裁判官たちはしなければいけません」。
 「一般国民は嫌なことを考えたがらないのだから、責任ある立場の人たちが考えないといけないんです」。


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