見出し画像

最高裁原発判決を正す

 2022年6月17日、最高裁は日本の原子力政策を180度転換させることになる重要な判決を下した。2011年3月に起きた福島第一原発事故に対する国の責任を否定したのである。
 福島などで提訴された4件につき「津波対策が講じられても事故が発生した可能性が相当ある」として国の賠償責任はないとした統一判断を下した。
 それからちょうど2年経った2024年6月17日(月)に衆議院第一議員会館大会議室で開かれた「6・17最高裁共同行動講演・シンポジウム」にて基調講演した大島堅一・龍谷大学政策学部教授はその最高裁判決は「非常に大きな意味をもっています。司法が相当おかしくなっている」と話す。
 岸田文雄内閣が原発回帰の根拠としているGX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法などは最高裁判決がもたらした政策転換の結果だと大島教授は断言する。

大島堅一龍谷大学教授


 6.17判決前には羽生田光一経済産業相(当時)は原発の新増設やリプレースは想定していないと述べていたし、山口壮環境大臣(当時)は可能な限り原発依存度を低減する方針を確認していた。
 しかし、ひとたび6・17判決が出ると岸田政権の動きは素早かった。7月24日にはGX実行会議が初めて行われ、8月26日の第二回会議で原子力政策の転換が決められた。翌2023年2月にそのための法案が作られ、5月31日にその法案が成立し、原発政策は180度転換していく。
 このGX実行会議は非公開で行われて、公衆の参加もなかった。
 また、原発回帰の理由とされた脱炭素の必要性、電力が足りない、電気料金を下げるため原発を動かすといったことの「証拠は示されていない」。
 また注意すべき点として、大島教授は「政府は原発を”再稼働”するといわなくなりました。”活用”っていう言い方になったんです。活用ならダメとは普通は言いません。気をつけなければいけません」と話した。

斜陽産業である原子力を救うため
 法律の見直しでもとりわけ「原子力の憲法」といわれる原子力基本法の改正は「原子力産業の永久化を図るもので、原発はどんな改革がおこなわれようとも守るということなんです。本当に特殊な法律を作った」。
 これらは「斜陽産業である原子力を救うためでもあります」。
 大島教授は原発をめぐる避難など多くの問題を列挙したうえで協調したー 「私たちは無責任の構図を正さなければいけません。次の世代に持ち越してはいけないのでここで決着をつけないといけない」。
 第二部のスタートは長谷川公一東北大学名誉教授の「司法が果たすべき社会的監視機能」と題しての話だった。
 このシンポジウムなどが始まる前に2年前の最高裁判決に抗議するために集まったおよそ950人が手を取り合って最高裁の建物の周りを取り囲んだ。いわゆるヒューマンチェーン(人間の鎖)を作ったのだ。
 長谷川名誉教授は「みなさんの怒りの表れだと思います」。

長谷川公一東北大名誉教授


 「国策で推進されてきた原発の事故なのだから国に責任があるはずなのです。でも6.17判決のポイントはどこに具体的な国の責任があるのか必ずしも明らかになっていないと思う」。

「想定外」という言葉で全ての想定がないものに
 長谷川名誉教授は紹介したー国に責任なしとした判断に異例の反対意見を述べた三浦守裁判官は「「想定外」という言葉によってすべての想定がなかったものになるものではないし、保安院および東京電力は社会に従って真摯な検討を行い、適切な対応を取れるはずだった」という。
 避難指示情報が適切でなく過剰な被ばくが起きて精神的肉体的苦痛につながったのではないかと長谷川名誉教授。「また国際原子力機関(IAEA)は原発から30キロ圏内は避難計画を作らねばならないとしているが、日本政府は8-10キロの避難範囲しか想定していなかった。国の責任です」。
 さらには全ての電源が喪失した場合の対策を取っていなかったことを指摘して、「全電源の喪失は起こらないとの前提のもとで全てが指導・運営されていたということに尽きます」。電源が失われると原子炉を冷却すべき水を冷やすことが出来なくなり炉心溶融(メルトダウン)に至る。

社会的監視機能を果たしていない司法
 福島第一原発事故の反省にのっとって12年前に発足した原子力規制委員会。その法的な根拠を読むと3.11事故に対する国の責任を率直に認めたうえでの記述だと読めるのだが、「日本の司法が社会的監視機能を充分に果たしてこなかったので安全規制が空洞化したのです」。
 そうして「電力会社の一番低い安全基準を規制当局が飲み、努力を怠るという悪循環となるのですが、国の責任です」。
 この後、福島原発かながわ訴訟弁護団の黒澤和弘事務局長が2つあるかながわ訴訟を紹介して、その中で869年に起こった貞観津波の知見について話をした。そして「最高裁は貞観津波の知見をきちんと反映させないといけない。500-600年で繰り返されるというので、きちんと備えなければいけないものとしてです」と述べた。

福島原発かながわ訴訟弁護団の黒澤和弘事務局長

「幸せでありたいなら正直でありなさい」
 「原発をとめた裁判長」として知られる樋口英明元裁判官は裁判官の問題を指摘してまず南アフリカのネルソン・マンデラ氏の言葉を紹介した。
ー「裁判とは、心の強さが試される闘いであり、道義を守る力と道義に背く力とのぶつかり合いである」
ー「何事もそれが成功するまでは不可能に思えるものである」
 そして樋口元裁判官は「一生涯幸せでありたかったら正直でありなさい。最高裁裁判官にこの言葉を言いたいですね」と話した。

樋口英明元裁判官


 続けて原発賠償京都訴訟団の堀江みゆき共同代表が「1万枚ハガキ大作戦」との横断幕を掲げる仲間たちと前に出て、5月22日に結審した裁判の判決が出る12月18日に向かって取り組んでいることを説明した。

原発賠償京都訴訟団の堀江みゆき共同代表

 ジャーナリストは後藤秀典さんは最高裁の4人の弁護士出身の裁判官がすべて大手法律事務所出身であることを問題視した。「みんな大企業をクライアントとして働いている人たちでしょう。こういう人たちがいてはいけないとはいいません。でも4人全員である必要はない」と後藤さんはいう。
 「いずれも大企業の法務に関わす専門家で、労働問題でも大企業側の弁護しか引き受けない。おカネの取り方が違う」。
 後藤さんは「弁護士法のいうように果たして人権を擁護し社会的正義を実現しているのか?私たち地べたからの目線を持った弁護士が大企業側の弁護士出身者と少なくとも同数はいなければいけない」と話した。
 福島原発事故津島被害者原告団の今野秀則団長は津島全域が福島第一原発事故で被った甚大な被害について説明して「故郷への痛切な思いから提訴したのです」と心の内を伝えた。
 現在、仙台地方裁判所で闘っているところだ。

ふるさとを返せ福島原発訴訟原告団の今野秀則団長


 最後に村田弘実行委員会事務局長が集会宣言案を読み上げて、満場の拍手をもって採択されたー「私たちは、ここで繋いだ手を離しません。司法があるべき姿を取り戻し、かけがえのない人権が守られるまで、闘いを続け、次世代にバトンを繋いでいくことを誓います」。

閉会挨拶をした村田弘実行委員会事務局長


 なお、発言者の後ろにあった2枚の絵は画家・山内若菜さんの作品だ。
 右の絵は「青い人でその青いお腹は地球すなわち命だ」と山内さんは説明した。また左の作品は「人間が乗っている登り龍」だという。
 「今年は辰年。龍の絵を見ると運気が上がるといわれているので、みなさんにご覧頂きたいと思って描きました」。

画家・山内若菜さん

 この日、国会議員4人が駆け付けたーー山崎誠衆議院議員(立憲民主)、逢坂誠二衆議院議員(立憲民主)、岩淵友参議院議員(日本共産党)、福島瑞穂参議院議員(社民党)。

(冒頭の最高裁を取り囲む「人間の鎖」の写真:伊東達也・最高裁共同行動実行委員会委員長提供による)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?