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『謎の男』

「この場所を覚えていますか?」
 突然目の前に現れた男がそう問いかけた。
 男はとある風景を私に見せつけた。それは緑に囲まれた一つの屋敷だった。

「……何を知っている」
「ここで起きたこと全て」
 男は答えた。
「そんなはずはない」
 そう、そんなことあるはずない。
 そこにはもう、誰一人残っていない。
 そこで起きた陰惨な事件のことも、もう知る者などいない。
 ──私1人を除いて。

「いえ、知っていますよ」
 私の考えを見透かしたように男はそう答え、不気味に笑った。
 いったいこいつは何者だ。
 しかし何者だろうと、あの事件のことを知っているのなら、こいつも〈排除〉しなくては……。
 私は近くの崖に向かって男を突き飛ばした。

 しかし崖下へ沈んで行っていたのは奴ではなく、私の方だった。
 見上げた先には、見下ろす男の顔。
 ああ、そうだ。あれは、私の顔だ。
 そしてこれは──。

 ──走馬灯。

おしまい。

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