『目玉焼きに何をかけるか』
朝、目玉焼きを焼く。
落ちた卵が一瞬で広がり、瞬く間にフライパンの上を覆い尽くした。
フライパンは熱せられ、夏の暑さも重なり、視界が歪む。クラクラとした熱が怪物のように襲いかかる。
熱すぎた温度は、目玉焼きを焦がしてしまった。
熱すぎた。一瞬だった。
すべて真っ黒になってしまった。
8時15分。外からサイレンの音が鳴り、目を閉じる。
この時間に目玉焼きを食べていた人もいたはずだ。そんなとき、一瞬で全てが消えたとしたら。
まるで非現実の世界のようだ。
でも現実だ。現実だった。
記録は残れど、語る人は少なくなる。
でも何処かで、繋いでいかなければ。
サイレンが止み、目を開ける。
窓から青空と入道雲が広がっている。
きっとこんな夏だったに違いない。
目の前の焼き焦げてしまった目玉焼き。
目玉焼きに何をかけようか。
考えた末、何もかけずに口に入れた。
こんな些細なことを悩むことができる、
平和を噛み締めて。
口の中に、焦げた味だけが広がった。
おしまい。
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