![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/31810041/rectangle_large_type_2_847114abd3a7f60799e803dafaa6e275.jpeg?width=800)
『月よりの使者』
「オイ、今月モヤッテ来タゾ」
「いやぁぁぁ!!」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
ドスドスドスドス。
「下腹部、下腹部狙うのやめてぇぇ!」
「ソラソラソラソラソラソラ!!」
ガンガンガンガン。
「頭はやめて、頭は……。ほんと動けないから……。仕事行けなくなるから……」
「ただいま〜。あっ!月の使者が来てる」
「ドウモ、オ邪魔シテイマス。彼氏サン、デスカ?」
「え、はい」
「ソウデスカ。私ガ来テイルノデ、“今日ハ無理”、トイウコトデ」
「あ〜。そっかぁ〜……」
「はぁはぁ……。今のうちに……」
「逃ゲラレンゾ。オラァ!」
「ひぃっ! 痛いよぉ……なんで女というだけでこんな目に合うの?もうやだ……」
「前から思ってたんだけどさ、ちょっと大袈裟じゃない?」
「はぁはぁ……。…………あ?」
「元カノはそんなに攻撃されてなかったよ。『いたたっ』くらいで耐えてたよ」
「…………」
「ちょっと痛みに弱すぎるんじゃない?」
「…………」
「だからもうちょっと我慢ーー」
「はい、チェンジ」
「えっーー」
「えっ何これ。俺たち……入れ替わってる?!」
「……そう、これが私の能力、お互いの精神を入れ替える」
「初めて聞いたんだけど?!」
「初めて言った」
「『彼女が異能力者だった件について』とか、少し前の時代のネットのSSかよってーーぎゃぁぁ!!」
「忘レテンジャネェゾ!コラァ!!」
「すごい、こいつ、的確に下腹部狙ってくる……。待って、しぬしぬしぬしぬ!!」
「今度ハコッチダ!!オラァ!!」
「頭ガンガン叩くのやめてぇ!壊れちゃう!!頭の中壊れちゃう!」
「あらあらあら、貴方、随分痛みに弱いんじゃあないの?」
「ひぇ、俺の姿をした彼女が、今まで使ったことのない口調で蔑んでくる……!俺の声だから更にきつい!」
「ちょっと大袈裟なんじゃない?ちょっとは我慢したら?」
「ごめん!俺が悪かったから!助けて!!いや、戻して下さい!」
「いや、今めちゃくちゃ楽だし。しばらくそのままでいてよ」
「え、ちょっと待っ……、痛い痛い痛い!あー!あー!しぬー!ああー!」
「ちなみに今日来たから、明日が一番きつい攻撃で、次の日もまだ続くから」
「嘘だろ……?!この攻撃以上のこと、明日されるの?!」
「されます」
「ひぇぇ……。本当に悪かったから、ほんと助けてください。お願いします!」
「仕方ないわね。くらえ!『超必殺奥義イブプロフェンの舞』!」
「グッ……!」
「き、効いてる?!なんで『舞い』なのか分かんないけど!」
「でもこれは一時的に攻撃を弱めるだけよ……あと効いてくるのも時間がかかる」
「あ、ほんとだ。まだ痛い。でも気持ち的には少し落ち着いた……。はぁ……ありがとう。助かった……。……いや、そうじゃなくて、俺の体返して!」
「それはだめ」
「なんで!もう痛いのは分かったから!」
「この能力は月に1度しか使えない」
「ええっ!じゃあ俺、1ヶ月このまま?」
「そういうこと。あ、あと約1週間、月の使者と戦ってね。攻撃弱める奥義は伝授してあげるから」
「嘘だろ?!」
1ヶ月後。
「見てくれよ。夏になったから白ワンピース買っちゃったぜ」
「こ、こいつ、女を楽しんでやがる……」
「オイ、今月モヤッテ来タゾ」
「ぎゃぁぁぁ!来ちゃった!!」
「オラァ!」
「ぐぇっ!……ああっ!お気に入りの白ワンピがぁ!」
「ああ、白ワンピ……。可哀想に」
「オラオラオラオラオラオラ!」
「痛たたたた!……あっ!そうだ!今日で丁度1ヶ月じゃん!体戻して!」
「い、いや、無理……。そんな痛みの中、戻りたくない」
「ふざけんなぁぁ!!」
…………………。
…………。
……。
「モウ、コノサキ、私ガ来ルコトハ、一生ナイダロウ」
「ああ、そうね。そう思うと、何だかあの痛みも懐かしいわ」
「ソレジャア、サラバダ。長生キシロヨ」
「ええ、ありがとう」
「もう月の使者は来なくなったのか」
「そうみたい……」
「もうそんなに歳をとったんだな」
「ふふ、そうね」
「結婚して、子供が出来て、子供が皆家庭を持って出て行って……」
「本当に色々なことがあったわね……」
「これからも2人で楽しく暮らそうじゃないか」
「ふふふ。よろしくね」
「……おおーい!」
「ん?誰だ?あの男は」
「あ、あれは……」
「そろそろ体、戻さない?」
「いや、遅ぇよ!!」
おしまい。
サポートしていただきました費用は小説やイラストを書く資料等に活用させていただきます。