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『月よりの使者』

「オイ、今月モヤッテ来タゾ」

「いやぁぁぁ!!」
「オラオラオラオラオラオラ!!」
 ドスドスドスドス。
「下腹部、下腹部狙うのやめてぇぇ!」
「ソラソラソラソラソラソラ!!」
 ガンガンガンガン。
「頭はやめて、頭は……。ほんと動けないから……。仕事行けなくなるから……」

「ただいま〜。あっ!月の使者が来てる」
「ドウモ、オ邪魔シテイマス。彼氏サン、デスカ?」
「え、はい」
「ソウデスカ。私ガ来テイルノデ、“今日ハ無理”、トイウコトデ」
「あ〜。そっかぁ〜……」

「はぁはぁ……。今のうちに……」
「逃ゲラレンゾ。オラァ!」
「ひぃっ! 痛いよぉ……なんで女というだけでこんな目に合うの?もうやだ……」

「前から思ってたんだけどさ、ちょっと大袈裟じゃない?」
「はぁはぁ……。…………あ?」
「元カノはそんなに攻撃されてなかったよ。『いたたっ』くらいで耐えてたよ」
「…………」
「ちょっと痛みに弱すぎるんじゃない?」
「…………」
「だからもうちょっと我慢ーー」
「はい、チェンジ」
「えっーー」

「えっ何これ。俺たち……入れ替わってる?!」
「……そう、これが私の能力、お互いの精神を入れ替える」
「初めて聞いたんだけど?!」
「初めて言った」
「『彼女が異能力者だった件について』とか、少し前の時代のネットのSSかよってーーぎゃぁぁ!!」

「忘レテンジャネェゾ!コラァ!!」
「すごい、こいつ、的確に下腹部狙ってくる……。待って、しぬしぬしぬしぬ!!」
「今度ハコッチダ!!オラァ!!」
「頭ガンガン叩くのやめてぇ!壊れちゃう!!頭の中壊れちゃう!」

「あらあらあら、貴方、随分痛みに弱いんじゃあないの?」
「ひぇ、俺の姿をした彼女が、今まで使ったことのない口調で蔑んでくる……!俺の声だから更にきつい!」
「ちょっと大袈裟なんじゃない?ちょっとは我慢したら?」
「ごめん!俺が悪かったから!助けて!!いや、戻して下さい!」
「いや、今めちゃくちゃ楽だし。しばらくそのままでいてよ」
「え、ちょっと待っ……、痛い痛い痛い!あー!あー!しぬー!ああー!」
「ちなみに今日来たから、明日が一番きつい攻撃で、次の日もまだ続くから」
「嘘だろ……?!この攻撃以上のこと、明日されるの?!」
「されます」
「ひぇぇ……。本当に悪かったから、ほんと助けてください。お願いします!」
「仕方ないわね。くらえ!『超必殺奥義イブプロフェンの舞』!」
「グッ……!」
「き、効いてる?!なんで『舞い』なのか分かんないけど!」
「でもこれは一時的に攻撃を弱めるだけよ……あと効いてくるのも時間がかかる」
「あ、ほんとだ。まだ痛い。でも気持ち的には少し落ち着いた……。はぁ……ありがとう。助かった……。……いや、そうじゃなくて、俺の体返して!」
「それはだめ」
「なんで!もう痛いのは分かったから!」
「この能力は月に1度しか使えない」
「ええっ!じゃあ俺、1ヶ月このまま?」
「そういうこと。あ、あと約1週間、月の使者と戦ってね。攻撃弱める奥義は伝授してあげるから」
「嘘だろ?!」

1ヶ月後。

「見てくれよ。夏になったから白ワンピース買っちゃったぜ」
「こ、こいつ、女を楽しんでやがる……」


「オイ、今月モヤッテ来タゾ」

「ぎゃぁぁぁ!来ちゃった!!」
「オラァ!」
「ぐぇっ!……ああっ!お気に入りの白ワンピがぁ!」
「ああ、白ワンピ……。可哀想に」
「オラオラオラオラオラオラ!」
「痛たたたた!……あっ!そうだ!今日で丁度1ヶ月じゃん!体戻して!」
「い、いや、無理……。そんな痛みの中、戻りたくない」
「ふざけんなぁぁ!!」

…………………。
…………。
……。


「モウ、コノサキ、私ガ来ルコトハ、一生ナイダロウ」
「ああ、そうね。そう思うと、何だかあの痛みも懐かしいわ」
「ソレジャア、サラバダ。長生キシロヨ」
「ええ、ありがとう」

「もう月の使者は来なくなったのか」
「そうみたい……」
「もうそんなに歳をとったんだな」
「ふふ、そうね」
「結婚して、子供が出来て、子供が皆家庭を持って出て行って……」
「本当に色々なことがあったわね……」
「これからも2人で楽しく暮らそうじゃないか」
「ふふふ。よろしくね」

「……おおーい!」

「ん?誰だ?あの男は」
「あ、あれは……」




「そろそろ体、戻さない?」
「いや、遅ぇよ!!」

おしまい。

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