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あるがままに、お任せ ~干し柿チップス作り~

9月。今年は月が替わると共に、いきなり秋が来た。
落ち着いた色の長袖シャツを出してこなきゃと慌てている間に、柿の実が次々と大きくなり色づき始める。
早い。早い。もうちょっと待って。今赤くなっても雨が続いてどうにもできない。いつも大体10月下旬くらいに採り頃になるじゃない。
と右往左往しても、人間の都合なんて自然は知ったこっちゃない。

と、ようやく一息ついた10月下旬。ぐずつきがちだった天候が幸いしてか、色が入っていくスピードがゆっくりだったらしくて、見上げると柿の実がパキッとした柿色~落ち着いた朱色になってまだ結構かなり残っていた。

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ラッキー。とかじゃない。
予想外の秋の到来の早さに一人やきもきしていただけ。
柿はちゃんと然るべき時に然るべき変化をしていた。

「自分にコントロールできないことは、いっさい考えない。 考えても仕方ないことだから。 自分にできることだけに集中するだけです。」というのは、元プロ野球選手の松井秀喜氏の言葉。そして、私に必要な言葉。
柿には柿のリズムがある。商売で柿の栽培をしているならまだしも、庭先で個人的に楽しむものなんだから、自分でコントロールできない自然の変化にやきもきしたり自分の都合を押し付けたりするのではなく、柿のリズムに合わせて柿の実をどうするか考えればよかったのだ。要は、余裕を持って、どんとこいと構えられていない。

柿の実も採る機も熟したけど、私は未熟。
うまいこと言った?!(そういうところだよ)

自然をコントロールして人間の思いに合わせさせるなんてことをしても、無理がある。本来人間にできることは、自然の流れを汲み取るくらいしかできないのだろう。
自然の流れを汲み取りつつ、できるだけ自分の願望を実現させた形が、加工なのかもしれない。その加工の手法の中でも、一番自然の力を借りて手軽にできる(そして恐らく最も太古からの)方法のひとつは、天日干しだろう。

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ところで、うちの柿は渋い。
かじった瞬間は甘みがちゃんとあって拍子抜けしたところに、後からビリビリと痺れるような渋み(最初は本当に細かい電気がさざ波のように広がったかと思った)が走り、上あごや歯茎にその渋みが張り付いているような感じがしばらく続く。ひどいところは、粘膜がゾリゾリとした感触に。ペッペッと唾を吐いたところで、全然取れない。
まさにこんな感じ
塀から枝が出てしまいちょうど手が届くところに実が生るからか、誰かが一口だけ食べた様子のあるものが転がっているなんてことも。好奇心から採ってかじってみたものの、あまりの渋さに捨ててしまったのだろう。
他の渋柿を食べたことがないから比較はできないけど、相当渋いと思う。

そんなに渋いのに、ジュクジュクになるくらい熟すと、あの渋みがどこかに消えて驚くほど甘くなっている。そして、外に出してしばらく干しても、いつの間にか渋が抜けている。
ゆるいゼリーのようになった超熟の柿をスプーンで食べるのも好きではあるが、保存のためには干すのが一番。

干し柿というと、縄に何個か皮をむいた柿を括り付けて軒下にいくつもいくつも並べて吊るす、吊るし柿の風景がまず浮かぶ。晩秋から初冬にかけての風物詩の代表格でしょう。
私もあの光景をやってみたくてトライしてみた時には、吊るすためには枝をどうやって切ったらいいかわからず、ヘタの辺りに串を刺して吊り下げてみたところ、やり方がまずかったのか今度は柿の重みで千切れそうに。

それだったらそれで、とにかく干せばいいのだから、と行き着いたのが、スライス干し柿。

そりゃ干し柿のねっとり感は楽しめないけど、一個丸ごと食べなくてもいいんだもの、ちょっとだけつまみたい人にうってつけ。干すにも表面積が大きい分早く乾いてカビにくいのでは。干し柿チップスと言った方がイメージつきやすいか。

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作り方は至ってシンプル。
採った柿の実の皮を剥き、5mm程度に薄切り。種があったら取り除く。

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スライスした柿をアルコール度数の高いお酒(私の場合は40度のウォッカ)にくぐらせ、隣同士くっつかないように干し網に並べて、後はひたすら干すだけ。

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時折ひっくり返しながら風と太陽にお任せして、1週間ほどもするとだいぶ縮こまり、網を揺らしただけで軽やかに飛び跳ねるほどカラカラに(下の写真は5日目)。

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ころ柿の奥深さと比べれば薄っぺらいけど、手軽に失敗なく作って保存して食べられて、噛むほどに柿の甘みとほんわかとした日のありがたさが広がっていく。

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干すと柿に含まれていたビタミンCが減ってしまう一方、β-カロテンが豊富に。渋が抜ける、渋みが消えると言っても、タンニンそのものが消える訳ではなく、柿が持つ二日酔い対策や悪酔い防止、抗菌・抗ウイルス作用はそのまま。さらにβ-カロテンのおかげで抗酸化作用が。まさに食べるサプリメント。

干すと水分が抜けるだけでなくて性質も変容する。お日さまの魔法としか言いようがない。

立冬が過ぎ冬至に向かってますます日が短くなってくる時期。
縁側に腰かけ穏やかな日差しを浴びひなたぼっこをしていると、身体だけでなく心もぽかぽかに。
メランコリックな秋が深まり、とかく落ち込みやすくなりがちな冬。冬季うつは日が短く太陽の光を浴びることが減るのが原因のひとつで、その対策には日光浴が肝心と言われている。日の魔法は、人間にも及ぶのだ。

人間も自然の一部。自然のリズムに逆らって何とか自分の都合のいいようにしようとあがきがちだけど、無理が出るほど自然を捻じ曲げてはいけない。あるがままを見て、自然の流れに身を任せる、というのは、お坊さんも言っていたような。

そんな風に力みなく生きられたら、もっと心の余裕は生まれてくるんでしょうね。




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