見出し画像

耳が聞こえます、助けてください。③

連載「耳が聞こえます。助けてください。」③ byりこ
(この小説は今現在、くつばこのメンバーに起きている事実をもとにしています。)

授業が終わって、黒いパソコンの画面を眺めながらそんな考え事をしていると、スマホに教授からメールが届いた。
「to : 佐々木美香さん(mikas.386547@jmail.com)
from : 田村洋治(yoji.t@jmail.com)
佐々木さん
今学期現代文学史Ⅰを担当する田村です。
どうぞよろしくお願いします。

さて、現在手話を読みとるソフトを使って字幕を付ける作業をしているのですが、
あまりうまくいかないので、今学期はやめようと思っています。
申し訳ありませんが、友達を作って、情報をもらうなどしてください。
ある程度は手話が読み取れるという風に大学から聞いていますので、大丈夫でしょうか。」

声が出なかった。こんなに、冷たいのか。字幕を作ろうとする努力が感じられない。
今まで当たり前にされてきた情報保障がなくなり、大変さを身にしみて感じる。失わなきゃ、わかんないものがある。

確かに私は障害者だ。社会には耳が聞こえる人は少ないし、耳が聞こえない人に合わせた社会が作られている。まあ、当たり前なのかもしれない。多くの人の希望に合わせて社会を作るのが、自然の成り行きだ。もちろん昔に比べれば、「障害者」だというだけで生活を隔離されたりすることはないし、法律もまともだし、マシなのかもしれない。だからといって今の社会が十分に寛容だとは言えないが。
音声通話をしようと思っても、そのアプリに需要がないから、音声を伝える技術が発達しない。今でも雑音がすごくて、まともに会話ができやしない。
手話を読みとって字幕に起こすアプリだって、有料の物を使わない限り誤変換がひどすぎる。日本語の手話と英語の手話を通訳する技術があれだけ発展しているのに、それを耳が聞こえるという障害者向けのアプリにする開発は、まともに発展していない。

「友達を作って、情報をもらってください、か…。迷惑だよな、どうしよう」
大学が始まってばかりのこんな時期、しかもオンラインの環境で、手話ができない私にはハードルが高すぎる。メッセージアプリのアカウントを交換してくれたらいいんだけど。だれか交換してくれないかな…。

私は、SNSを開いた。100字程度の文を乗せられる、「witter」というアプリだ。鍵をかけていないので、同じ大学の友達が見つけて、フォローしてくれている。何人か、友達、とまではいかなくても話をする子もいる。
「同じ現代文学史を取ってる子、いないかな。」
誰かと連絡を取ろうと探してみたが、見つからなかった。しかし、大きな収穫があった。英語で同じクラスの子を見つけたのだ。英語のクラスは1年生しかとらないからか、witterのアカウント説明欄に書いている子が多かった。その見つけた子に、メッセージを送ってみる。

▷こんにちは!とつぜんすみません、佐々木美香と言います。必修英語12ですよね?一緒だと思います!よろしくお願いします~
友達を作っておかなきゃやばいぞ。特に英語なんて、先生が協力的じゃなかったらどうしよう…
同じ大学の人たちが、授業についてコメントしているタイムラインを流す。みんな、エンジョイしている。
「情リテまじ神」
「パンケーキ焼きながら授業草」
「課題多すぎるだろしぬ」

みんなたのしそうだなぁ。
私の大学生活、どうなっちゃうんだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?