「発明工場」の作り方~「知財開発」の現場を見る

こんにちは。楠浦です。企業内「発明塾」参加者の方含め、楠浦の経歴についていろいろ知りたい方が増えてきましたので、多少古い話も含め、参考になりそうなことは、note に UP することにしました。

以下、「過去発明紹介」も、その一つです。

今日は、2008年、つまり、

「弊社設立当初」

の、仕事の様子を振り返ってみます。

以下の本に、少し紹介されています。タイトルがおどろおどろしいのは、例によって出版社のアイデアですので、気になさらないでください。

取材の際に伺った範囲では、著者の 岸先生は、

”頭脳戦の時代”が来た

ということを、世に知らしめたかったとのことでした。
(頭脳の利回り、というタイトルを想定されていたようです)

P16-P23 あたりに、弊社が当時行っていた

「発明セッション」

の様子が、NDAの範囲内で

「ギリギリ」

うまく描かれています。

ネタバレにならない範囲で、少し抜粋しながら、当時の様子を紹介していきましょう。


● 「特許調査会社」の TechnoProducer 株式会社

2008年当初は、特許調査・分析を、主な業務にしていました。リーマンショックを経て、大きく業態を変え、

「発明・知財教育」

を主とする会社に、生まれ変わりました。

ですが、根底にあるのが

「特許調査・分析」

を一つの軸とする

「情報分析」

であることは、あまり変わっていません。その原点は、以下で取りあげている論文にある、前職での経験・ノウハウです。

書籍内でも、

発明を出しながら、同時に先行技術文献を調べ、発明をどんどんブラッシュアップしていく

様子が、書かれています。
(P17-P18)


● 「ロジックツリー」形式のマップで、参加者の「アイデアを引き出す」

P18 に、

配線図を思わせる形式の図に、アイデアや先行特許が、びっしり書き込まれている

のような記述があります。弊社では

「課題‐解決ロジックツリー」(弊社の登録商標)

と呼んでいます。当時、この資料は僕が事前に準備していました。
(以下に、過去の「発明塾」での討議時に利用した資料を掲載しています)

アイデア出しをしながら、先行特許を調べ、調べた特許を整理しながら、さらにアイデアを出す。

これを、個人で3時間ほどやってから、参加メンバーに事前に共有し、当日も、これを見てもらいながら

「参加者のアイデアを引き出す」

ように、議論を進めていました。これは、僕が、どちらかというと

「論理的思考」

を得意としていることから、生まれた運営法です。

現在も、ケース・バイ・ケースではありますが、企業内発明塾の参加者に、作成して持ち込んでもらった上での討議を推奨することがあります。


● 「参加者」をリソースとして活用し、「発明生産」をオーガナイズする

発明を

「意図的に」

生み出す、つまり、

「発明生産」
「発明製造」

には、一定のプロトコル(プロセス)があります。

それが、滞りなく行われるようにするのが、当時の僕の仕事でした。この発明報奨金が、会社の売り上げに大きく影響を与えるのですから、経営者としては当然です。

会社の経営を、参加者の

「思いつき」

にゆだねることはできませんので、

「一定の品質のアイデアが出る進め方」
「それを、発明提案書(案)に、短時間で仕上げる方法」

などを整備し、仕事として

「発明生産」

が行われるようにしていきました。

書籍内では、

「楠浦さんが OK っぽいことを言うと、場の緊張が少しほぐれた」

みたいなことが書いてありますが、それは事実でしょう。かなりの緊迫感をもって、毎回

「4-5時間」

の発明セッションを、少なくとも毎月1回、行っていました。

発明を仕事にする

とは、そういうことです。

「自身のひらめき」(たいしたことない)

「参加者のひらめき」(いつ起こるかわからない)

に頼らず、一定の品質のものが、一定量、必ず生産されるようにする。

僕が、設計や製造の経験があることは、ここでかなり役に立ったと思います。

● 「お題」の設定を、絶妙に行う

弊社では

「お題」

と呼んでいますが、一般的には

「発明テーマ」
「発明ターゲット」

のような呼び方をされると思います。

要するに

どんな発明を出せばよいか

を決めたもの、ですね。

この決め方が、その場の討議を大きく作用します。

書籍中では

「RFI」(発明要望書、と訳される)

と呼ばれる、発明投資ファンドが要求事項を定めたドキュメントについて、触れています。僕は、インタビューで

「RFI の出来が素晴らしいので、発明生産の効率が上がる」

と発言していますが、その通りです。ただし、彼らのドキュメントは、英語で数十枚あり、普通の参加者には読めません。
(当時の弊社メンバーの大半は、英語に疎かった)

したがって、これもまた、僕が

「うまく、翻案」

して、討議の焦点が絞られるように、少し

「誘導」

しています。最終的に、その場の成果(生まれた発明の質と量=売り上げ)に責任を持つのは僕ですので、それでよいのです。

「結果が出なければ、それは、僕のせい」

ですから。全責任を負うからこそ、的を絞った、効率のよい討議ができた、という点もある、ということです。

ここで

「このメンバーだと、どういうお題を設定すれば、議論の効率が上がり、当日中に良い発明が生まれるか」

素早く検討し、お題を決める方法を、完全につかみました。
(他の人には伝承不可能ですが・・・)

あと、もう一つ大切なのは、

「こういう分野の・・・・」

みたいな抽象的な要求だけでなく、例えばこういう発明、という

「具体論」

を示すことです。また、発明の基準を示すという意味で

「例として示した発明の、何がどうよいのか」

も、明確に説明する必要があります。これが明確だと

「議論の的が絞られる」

ので、良い発明だけが、スパスパ出るという、魚釣りに例えると

「大物の入れ食い」

状態が訪れます。
(僕は、小中高と魚釣りが趣味でした)

● 「目利き」は、発明が評価される中で身につく

書籍中のインタビューで、僕は、発明の

「目利き」

が大事だという話をしています。これができるメンバーがそろっているのが、発明投資ファンドの強みだと感じています、と発言しています。

正確には、

「何らかの明確な基準があること」

だと、僕は感じていて、それは今でも変わっていません。

その基準が正しいかどうかは、発明の場合、それなりに長い時間がたたないと見えないのですが、そもそも基準がないと、フィードバックが得られません。

改善サイクルが回せないからです。

また、この基準は、

「その発明をどう使うか」

など、受け手によって変わることが一番大切な点で、発案者(提案者)が大事だと思うかどうかは、ぶっちゃけどうでもよいのです。

そういう意味でも、

「その場に責任を持つ」

人が、

「お題」

と、発明を評価する

「基準」

を明示することが、きわめて重要になります。
(繰り返しですが、当時は、いずれも僕の担当でした)


以下、企業内「発明塾」で、知財開発のプロジェクトを行うことがあります。

終了後の懇親会などで

楠浦さんのように、知財開発の場をバリバリ仕切れるようになるには、どうしたらよいですか

という質問が出ることがあります。

自分が結果責任を負って、場を運営すれば、すぐにできるようになりますよ

とお伝えしているのは、上記のような経験に基づくお話しです。


楠浦 拝


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