見出し画像

研究開発マネジメントが変わると、知財戦略も変わる~オープンイノベーション・アライアンスと「オープンクローズド」時代の技術経営(MOT)

こんにちは。「ダントツの発明力と知財力🄬」の TechnoProucer株式会社 CEO 楠浦(くすうら)です。

本日の話題は

「技術経営」(MOT:Management of Technology)

特に

「研究開発マネジメント」

です。

弊社へのお問合せ内容を含む、近年の動向を交えながら、私の考えをご紹介します。

前置きとして~実践的「技術経営」が身につく「発明塾」

立命館大学の技術経営コース(MOT)での、私の講義に出られた方には、そこで私が教えていた内容の大半が、発明塾で教えている内容ですよ、というお話をいたしました。

クアルコムのビジネスモデルや、クアルコムの知財戦略については、立命館大学の技術経営コースの講義では、しつこいぐらい取りあげました。その前提として、「今は携帯電話の話をしているのだけれど、今後、自動車やFAも同じ構図になるよ」という、私の予感(直観)がありました。

母校 京都大学での講演会で、同じお話をした際の反応は、「そんなことありえない」でしたが、、、今はどうでしょうか。

立命館大学の技術経営コース(MOT)では、以下セミナーの内容を詳細にお話したうえで、ケーススタディに取り組んでいただいたので、自動車も携帯電話みたいになるかもしれないな、と感じていただけたようです。

具体例にもとづいて、丁寧にお話しするって大事ですね。発明塾で教えていることは、単なる「発明法」「発想法」ではなく、「知財マネジメント」に関する網羅的で体系的な知識、および、それを技術者が実践するために必要なスキルです。

技術者の頭脳が、会社の技術資産になっていくわけですから、「知財マネジメント」の本丸は、技術者教育です。出てくるアイデアや発明があってはじめて、そのあとの特許や知財権の話になるからです。

「頭脳から生まれる知を、財にして、武器にして、価値を生み出し、企業価値を向上させていく」

楠浦が考える技術経営とは、こういうものです。この一連のプロセスを、結果として効率よく行う。それが技術経営であり、知財マネジメントだと、僕は考えています。

現在は会社を経営しておられる、ある発明塾のOBの方は、以下のようなコメントを下さいました。

発明塾は、経営人材が技術との接点を、技術系人材が市場との接点を見つけるのに、非常に有効かつ即効性のあるツールだと思います。MOTを実践するうえでも、現存する、最も実績のあるアプローチだと感じています。

伝わっていたようで、安心しました。

クアルコムのビジネスモデルと知財戦略のお話は、「オープンクローズド戦略」の説明のところで、また出てきます。

「オープンイノベーションとアライアンス」というトレンド~楠浦の起業体験から

経歴のところに書いておりますが、2004年に、仲間数名と「SCIVAX」(サイヴァクス)という会社を立ち上げて、CTOと事業責任者に就任しております。日夜、研究開発に明け暮れながら、市場開拓・マーケティングから資金調達までを、一人で行いました。スーパーマン(バットマン?)的な生活を送っておりました。

当時のことを知る人も減っておりますので、ここで少し、「SCIVAX」という会社について、紹介しておきます。SCIVAXというのは、「SCIENCE VALUE MAXIMIZE」という英語3文字から取った社名です。そのまま訳すと

サイエンスの成果の価値を、最大化する

ということになります。実は、2004年に SCIVAX を設立した時に、研究開発マネジメントと技術経営において、今後来るであろうトレンドを2つ想定していました。

① オープンイノベーションが主流になり、アライアンスのマネジメントが重要になる

② 特許情報分析にもとづいて、新規事業や新研究テーマを見つけ出すことが当たり前になる

一つづつ、行きましょう

オープンイノベーションが主流になり、アライアンスのマネジメントが重要になる~楠浦が呼ばれた理由

①は、SCIVAXの思想の根底にあるもので、自分たちですべての技術を開発するのではなく、世界中の大学や研究所にあるサイエンスとテクノロジーを集め、それらの事業化を手掛けよう、という会社がSCIVAXであり、それができるメンバーが集まっていました。

楠浦が呼ばれた理由は、まさにこれでした。オートバイのエンジンの「設計・開発」とは、そういう仕事だったからです。部品は、社内では作っていません。正確には、社内でしか作れない部品などありません。安全保障的な意味合いで、社内で作っている部品はいくつかありますが、それらはどこでも作れる部品ばかりです。

そして重要なことは、大半の部品は、社内では作れない、他社が高度な技術を持っていて、製造供給してくれる部品だということです。自社にない技術を組み合わせて、自社にしかないものを作らないといけない、という、論理的に考え始めるとよくわからない状態をマネジメントする、それが、オートバイのエンジン設計という仕事です。

材料は大同特殊鋼の独自材料で、その後に施す表面処理はXXX社の独自技術・・・など、1つの部品が、多数の企業の「コア技術」の蓄積で出来上がってきます。これをマネジメントする技術は、それ自体が「独自技術」になるのだということが分かった方、あなたは設計者です。それが証拠に、私が設計者として働いていた、川崎重工・小松製作所いずれにおいても、「設計基準」は部外秘でした。社外秘ではなく、部外秘(担当者以外閲覧禁止)です。設計担当者以外は、絶対に見れないように保管されています。メーカーにいても、設計に関わる知識は、ごく一部の人しか知らされないのが通常です。社内で関連情報が発表されることは(絶対に)ありませんので、ある種、研究開発の成果よりも重要な秘密情報なのです。

長くなりましたが、設立前の面接(*)で、「多数の企業の技術をまとめ上げて一つの製品に仕上げる能力と経験があるか」ということを聞かれました。「オープンイノベーション」により、世界中で実用化されずに埋もれている研究成果の実用化を手掛ける、というSCIVAXのビジネスモデルに欠かせない能力であったから、ということは、SCIVAXを創業してからわかりました(笑

何が大変だったかって、アライアンス管理の肝の一つが、「知財管理」と「契約」なのですが、残念なことに、いずれも、一度も誰にも教わっていないことでした(笑

オープンイノベーション・アライアンスに必要な契約の知識って、結構あるんですよ。知らないと、起業・新規事業立ち上げをしてから、モメまくって大変なことになります。少なくとも、僕はそうなりました。川崎重工とコマツでは、既に契約が結ばれている協力企業さんとの開発だったので、問題なかったわけですが、新規の取引先や研究開発機関との共同研究開発となると、話は別です。

こちらも必死ですが、相手も必死です。ある大企業の役員の方と契約交渉をした後に、ポツリと一言、「これがベンチャー企業の交渉ですか・・・」と言われました。1年以上にわたる、ハードなネゴでしたので、先方は根負けされ、こちらの粘り勝ちでした。

* 創業メンバーなのになんで面接されているのか、という疑問はごもっともですが、設立までに紆余曲折あり、創業の経緯は非常にややこしいので割愛します、飲みに行った方には教えます

特許情報分析にもとづいて、新規事業や新研究テーマを見つけ出すことが当たり前になる

今でいう「IPランドスケープ」の話ですが、2004年当時はもちろんそういう言葉はなく、手法も確立されていません。しかし、頭のいい人がいるもので、特許情報を整理すれば、「(自分たちに)必要な技術」だけでなく「(他社に)必要とされる技術」もわかるはずだ、ということに気づいた人が、SCIVAXの創業メンバーにいました。

僕の高校時代の後輩でした。持つべきものは先輩と後輩。痛感しました。彼は、SCIVAXが「今後手掛けるべき」事業(技術シーズ)と、「(自社事業に取り入れて)実用化すべき研究成果」を、特許情報を用いて次々と発掘していきます。「天才」とは、こういう人に与える賛辞なんだな、と今でも思います。

SCIVAX立ち上げ当初から、特許情報分析の受託を事業として行っており、たとえば、産業技術総合研究所や理化学研究所から、実用化して大きなリターンがありえる研究シーズとその事業化シナリオ・ビジネスモデルの設計を受託していました。僕も、技術の目利きを担当しました。

後に僕は、自身が実用化を手掛けることになったナノインプリント事業において、市場開発に行き詰り、特許情報を活用して打開するのですが、その時も、後輩にヒントをもらいました。その時の詳細は、以下の講座で紹介しています。「元祖」技術マーケティングです。私の前に、そういうことを試みて成功した人を、私は知りません。

15年前の話です。

オープン・クローズド戦略時代の研究開発マネジメント・知財マネジメントとビジネスモデル

オープンイノベーションは、外部から技術や研究シーズを導入する話です。自社の技術や研究シーズだけに頼ってたら遅いですよね、みたいな話ですね。

オープンクローズド戦略は、自社で生み出した研究成果や技術について、自社だけにとどめておく(クローズ:自社占有)か、外部にも積極的に広げていく(オープン:仲間づくり)か、を決めていく話です。原則として、どの企業においても、「全部オープン」ということも「全部クローズ」ということもないでしょう。なので、実は、昔から知らずに行われてきた、という面もあります。

オープンクローズド戦略(オープンクローズ戦略)という名前で語られているのは、ビジネスモデルであり、ビジネス戦略である、と考えるのがよいでしょう。その典型が、クアルコムの知財戦略であり、ビジネスモデルです。

そもそも、知財戦略は「事業戦略」「ビジネスモデル」に従うものだと僕は考えています。それに気づいたのは、キヤノンの丸島 元専務 のゼミ、通称「丸島ゼミ」に出た時です。超優良企業として有名なキャノンは、インクジェットプリンターやコピー機で圧倒的な収益をあげました。キヤノンの成長を支えてきたインクジェットプリンターやコピー機を、「高収益のまま、世界中に普及させる」ことが可能だったのは、ビジネスモデルと知財戦略がかみ合っていたからだ、ということに気づいたからです。

特許と普及、については、以下のようなトレードオフ(矛盾)がある、とされます。

① 特許で守ると、他社が模倣できない代わりに、市場への認知が高まらず、普及しない

② 特許で守らないと、他社が模倣して製品が多数出てくるので、市場への認知が高まり普及するが、自社製品のシェアはどんどん小さくなる

一般的には正しいと思います。
(何事にも例外はあるし、上記ですべては説明できない)

キヤノンは、上記①②の矛盾を解消する知財戦略を、おそらく、世界で初めて大々的に実践しています。

インクジェットプリンターやコピー機は、ビジネスモデルとして消耗品モデルが選ばれています。その、利益の源泉を守りながら普及させるには、どのような知財戦略が良いか、キヤノンの知財戦略は、実によく考えられています。

利益の源泉である消耗品を守るための「絶対破られない」強い特許の取得と、コピー機やプリンタ自体の市場を形成するためのクロスライセンス用の特許群の開発を、明確に意識して行っています。

「知財戦略で、市場を作る」

という考え方が、当時既にキヤノンにあったことに、大変驚きます。

弊社では、以下講座で詳しく取り上げております。

「市場を作るための知財戦略」

の古典的な理論(と言っても、古典的なのは知財業界にとっての話で、技術系の方で理解している方は少ない)を、事例を用いて詳細に解説したものです。

研究開発部門や技術系のマネージャーの方には熟知して欲しい内容です。

ビジネスモデルに最適な知財戦略はどうあるべきか、および、知財戦略を武器に新たなビジネスモデルを作り上げられないか、という発想で事業開発に臨むことが、近年の新規事業には、求められているからです。

キヤノンのインクジェットプリンターに関する知財戦略とビジネスモデルを踏まえて、クアルコムの知財戦略とビジネスモデルを読み解くと、ほぼ完璧です。

私のところに相談があるスタートアップの

「99%」

が、クアルコムの知財戦略を自社流にアレンジして、

「圧倒的高収益と、急速な市場拡大・普及」

を狙いたいとおっしゃいます。実際、私のアドバイスで、それが実現できそうになっている企業も出ています。

まとめと備忘録

2004年のSCIVAX創業時、および、2008年のTechnoProducer創業時は、「知財戦略・研究開発マネジメント戦略・事業戦略」は、三位一体である、という掛け声はありましたが、空回りしていた感が否めませんでしたし、わあつぃも含めた知財関係者が、知財の重要性を売り込みたいがための方便、という雰囲気がありました。

しかし、さすがに10年15年経つと、世の中は変わります。

僕がクアルコムの知財戦略とビジネスモデルを知ったのは、2009年です。クアルコムの方に何度もお話を聞き、取材し、調査を繰り返しました。MBAの学生さんが、僕のところに、クアルコムの知財戦略とビジネスモデルについて質問に来たこともありました。だんだん「クアルコムの知財戦略とビジネスモデルの専門家」みたいな扱いになってきました。

実はその時、キヤノンの知財戦略について、さほど詳しく知りませんでした。その後、元キヤノンの方に弊社顧問になっていただき、詳細な指導を受けました。知財戦略の神髄を理解しました。

「頭脳から知を生み出し、それを会社の財産にし、武器とし、価値を生み出し、企業価値を高める」

これが、技術経営であり、研究開発マネジメントであり、知財マネジメントである。

僕の、技術経営・研究開発マネジメント・知財に関する哲学の一つを、ご紹介しました。

ご清聴、ありがとうございました。

楠浦 拝



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?