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毎日ナウシカ

私は長年の宮崎駿ファンだ。
他人に「宮崎駿ファンです」というと「あーわたしもジブリ好きですよー」という流れになる。「うれしいですねー」などと返す。
本当は一人で何度もジブリ美術館に行ったり、写真美術館でやっていた宮崎駿展に足繁く通い原画参加作品を踏破したり、NHKスペシャル『世界わが心の旅 宮崎駿「サン=テグジュペリ 大空への夢」』の録画ビデオを永久保存して、DVDも即買いしたりする程度にファンなのだが、それ言っても引かれるだけで良い事はないので言わないでおく。

「風の谷のナウシカ」という作品は、出世作であり、超長編であり、漫画作品であり、有名ながらも特殊なポジションの作品だ
当然通常版コミックを全巻もっていたし、子供の頃から読んでいるし途中から最終回まではアニメージュでリアルタイムで読んだ。
しかし、あまり読み返した事はなかった。
そもそも私は宮崎作品をむちゃくちゃ見返したりはしない。
理由はよくわからないが、影響が強すぎるからか、フカヨミしすぎてしまうからか、見返すこと自体が「重い」く感じるからだ。
だからなにか縁やキッカケがあったときに見るようにしている。

今回のコロナ禍で、家に帰ったとき丁重に手指を消毒する自分の姿が「まるで風の谷の住人みたいだ」と思った。宮崎さんのなんという受信感度!「今読むしかない!」という決意が突如湧き上がった。
気づいたときにはアマゾンで愛蔵版をポチっていた。

せっかく豪華版なので、章ごとで読んでリアルタイムに毎日感想をツイートしました

第1章 「風の谷」

自分が上手いのわかってんだよなー

これは今まで自分でも気づいてなかった。小国が大国に押しつぶされる。無力感。でも蹂躙されるわけでもなく。難しい気持ちが感じられるw
ポルコ云々は押井さんが言ってたと思うのだが、空軍=東映ということで……分かりづらかったですね。

序盤はかなりもののけ姫っぽいというか逆なんですが。

ここらへんは、未来予知とかいうより知識量の裏打ちでしょうね。
ナウシカは随所に宮崎さんの絵描き的、ミリオタ的博識さを感じました。

これもおそらく結果的に伏線になってるのはすごいですね。セラミック文化という設定はこの後だいぶ忘れられちゃいますねw
序盤の設定ヲタ感は凄いのですがだんだん薄まってくるのは、やはり長期連載の興味の遷移みたいなものを感じました。

第2章「酸の海」

戦争描くぜという気迫とノリノリ感がすごい。これ描いてる人戦争に引くほど詳しい絶対!という感じがひしひしと。

ここあたりの過度な自己犠牲はちゃんとラストの葛藤と決断の伏線となっていて。ナウシカを聖母的なキャラのように揶揄する向きもありますが、ちゃんと読むとそんなことはないという。
ここらへんが一番設定大風呂敷感がマックスですが、ちゃんとたためる人はめったに居ない。劇場アニメという絶望的な風呂敷を毎度たためるだけある。

いやゆるスプラッタ的どや感を忌避してる感じはありますよね。グロはやるけど。

第3章「土鬼戦役」

クシャナは案外活躍しないんだけど、ナウシカとかなりわかりあえてるし、心に残るキャラですよね。宮崎さんも好きなのかなと。
あとクロトワいいキャラですよね。欲深くて賢い。カイ・シデンに通じる所があって、その後の両監督の作品であまり見ないタイプという点も似てるなと思って書き忘れてた。
(ちょうどこの後ガンダム全話感想コピペしてたので)
ここら編ほとんどアクション。重複しますが脱出戦が凄い筆力。やりたかったんだろうなあ。
もともと数で押すのはそれこそ「どうぶつ宝島」とかでもやってますが、得意技と言うにはあまりにも…。
数で押すからなーとか言うけど数で押すなんてこと普通できないから。
戦争を大軍勢同士としてちゃんと絵として「描いてる」漫画はなかなかないと思いますねえ。

第4章破局へ

人間の次は虫をいっぱい書きまくるという離れ業w
粘菌の巨大感とかなにか実物の資料もあたってるんでしょうが観たことないビジュアルで凄い。
空中なのにめっちゃ巨大感が出てて、どんだけレイアウト上手いんだって思いました。

ここらあたりから、自分の用意した筋立てを自分で裏切っていくスタイルに移行してる感じがしますね。
目がやられることに関しては後日のツイート

ここらへん全体的にエヴァっぽいんですよね。当然逆なんですが。
結構直接的影響がある、ちゃんと師弟なんだなあと改めて感じました。
もっと師匠を褒めてもいいんですよ庵野さん!

第五章大海嘯

感想短くなってきたw
全編戦争難民のつらさみたいなのが描かれる。
皇兄はちょっとクロトワの焼き直し感があるけど、だんだん宮崎さんがラスボスみたいなのが嫌になってきてる感じはしますね。
序盤から提示されてきた「ちゃぶ台返し」が明確化してくるんですが、既にこの時点で葛藤自体を疑問に感じてるように感じましたね。
昔お世話になった方に「くすのき君は黒田硫黄の影響が色濃いね」と言われたんですが、黒田硫黄も宮崎駿っぽいなと感じたので結果オッケーと思った。

第6章青き地

正解のなさというか「人間は度し難い」という色合いがどんどん強くなっていく。「映像の二十世紀」的な。
もともと戦争をずっと扱ってきてる漫画なんで脱線してるわけではないと思います。

ナウシカ描いてる間に「巨匠」になってしまった闇さえも良質にアウトプットされてる感すごい。

「Googleより俺のほうが宮崎さんに詳しい」は我ながらだいぶ気持ち悪い名台詞と思った。
この「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」ちゃんと残してあると思うんですがちょっと引っ張り出すのがめんどくさくて…見つかったら確認します。良著ですよ。

第7章 墓所

王蟲達が浄化する機構さえも人造物だったと再度のちゃぶ台返し。「人間こそが癌なのでは」という認識すらも傲慢だという、痛烈なラスト。
善悪論的なものの考えを、おそらく自身も含めて「エゴだ」と否定してみせたという事と受け取りました。
最終的には「怒り」に着地した感じですね。

ちょいちょい触れてきた指輪物語にもきれいに繋がった感じで。
昨今のSNSでも話題になりがちな社会的正義の向こうに、西洋的清浄さへの希求があり、それは本当に正しいのか?人は混沌そのものなのでは?というような非常に今日的な問題提起を感じました。
寄生獣を上げてますがやはり、この時代で一度「地球を大事に」みたいな事の安直さ傲慢さがピシャリとされて不景気とともにゼロ年代に突入するようなエンタメ史に思いを馳せました。

いやーほんと読み返せて、今このタイミングで読み返してホント正解だった。実に有意義だったなあ。
それでは、みなさんの元へも良き風が吹きますように!


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