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「JKハルは異世界で娼婦になった」の感想を書く

昨今のラノベ〜なろう系タイトルの長文化を考えると、比較的短い中で「JK」「異世界」「娼婦」というキーワードをまとめた優秀なタイトルだと思う。「異世界JK娼婦」でも良いのかもしれないが、それだとエロ漫画っぽい。何故なったのか、そしてどうなるのかを想起させる点でも、やはりこちらの方が良い。

同じタイミングで異世界に転移した同級生の男子はチート勇者スキルを持っていた一方、主人公ハルには戦う手段も生活のための伝手もなかった。だから娼婦になるしかなかった・・のだが、作中での悲壮感は薄い。

厳しい環境をいなし、耐え、賢く立ち回り、ちょっとした楽しみすら見つけて、生き抜こうとするハルのたくましさが焦点となっていて、レベルやらスキルやら周囲の礼讃といった一般的な異世界の要素は、その集約とも言える同級生男子とともに冷笑の対象になっている。かつてはクラスの隠キャであった彼は、どれだけ活躍しようと性根が変わらない。だから主人公視点ではどこまでも多少は仲良くなったクラスの隠キャでしかない。

JKとしての、娼婦としての、元世界人としての冷めた視線が、「男」の欲望や妄想を醜悪なもの、低劣なもの、バカげたものとして切り取りながら、ハルはそれらを受け止める。この世界は、そういう世界なのだから。変えられない世界を恨むのではなく、自分を変えていく。スマホもネットもない世界で、手探りで成長していくしかない。そうしていずれ自分もこの世界の住人になるのだろうと。

・・そんな中でラスボスとも言える雨男おじさんが、ハルの転機として店を訪れる。殆ど一目惚れのこの出会いは、少しずつハルの行動や考え方を変えていく。そして物語終盤でようやく明かされる作中最大の仕掛けに繋がる事になる。

そこでわかるのは、これは異世界に召喚された女の子が娼婦として賢くたくましく生きるなんて大人しい物語ではなかったということ。ダンディなおじさんの渋い魅力にやられちゃった女子高生が、その恋心を原動力に、世界が押し付ける「賢い生き方」というガラスの壁をぶち壊す青春ロックだったということだ。


全体を俯瞰してみれば、缶蹴りんぐ大会とか、結末部分とか、荒さを感じさせる部分はある。でもそんなものは枝葉にすぎないと言い切ってしまえるほどのパワーが、この作品にはある。

厳しい環境で老成せざるをえなかった主人公が、恋によって若く荒削りなエネルギーを取り戻し、世界に抗う。きっかけは恋じゃなくても、誰にでもそうした経験や夢想はあったはずだ。それゆえにこの物語は、JKにでも娼婦にでもなく、誰にでも響く普遍的なメッセージを持っている。


<ライトノベル>
『JKハルは異世界で娼婦になった』
JKハルは異世界で娼婦になった (ハヤカワ文庫JA) 平鳥 コウ

<コミック>
『JKハルは異世界で娼婦になった 1巻』
JKハルは異世界で娼婦になった 1巻: バンチコミックス 平鳥コウ

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