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「異世界迷宮でハーレムを」の感想を書く

端的に言って、面白くない。では、なぜ読んでいるのか。言語化が難しい。エロいからだとまとめてしまうのが一番楽ではある。でもエロいパートなんて実際そう多くはない。全体の数パーセント程度だろう。残る9割以上を無為に過ごしてもおつりが来るほどエロいというわけでもない。その9割には確かに何かがある。

本作の主人公は良くも悪くも平凡な人格をしている。「キャラクター」と称すほどのキャラ性すらない。そんな人が異世界に転移した。では、その人は何をするだろうか。

それはおそらく大半の読者が想像する異世界に行った自分の行動に近いのではないか。この物語と呼ぶにも抵抗がある、むしろ日記のような作品には、そんなシミュレーションの結果のような行動と思考が淡々と、ただひたすらに淡々と描写されていく。

そこには世界を救うだとか、とんでもない環境から抜け出すだとか、強い目的意識や行動原理は存在しない。新しいゲームを始めたときに、どのボタンを押すとどんな行動になるのか、このコマンドを使うと何が起きるのかといったゲームシステムの確認作業がこの作品のほとんど全てだ。

ダンジョンにおけるモンスターのポップと配置のルール。アイテムボックスの使い方。魔法やスキルの効果。パーティを組むためのシステム。敵モンスターの行動。

ゲームであれば、そういうものとしてただ受け入れるだけの決まり事を、もし自分がその世界の中にいたらどのように理解し、検証し、受け入れ、活用するのか。

加えて、危険なモンスターに挑むとか、熾烈な争いに巻き込まれるなんてことも絶対にしない。避ける。安定した生活のために、安定したパーティを組み、雑魚狩りをする毎日だ。既刊は2桁に届くというのに、である。

なんて退屈な物語だろう。そう思う。
そう思うが、翻ってみれば、これは私たちの日常そのものだ。

人生を揺るがすような大きなイベントなんてほとんどなく、毎日毎日、誤差を探すような小さな変化しかないけれど、そんな物事に四苦八苦したり、一喜一憂したりする。退屈もするし、飽き飽きする。でももし、それを他人に否定されたら、きっと反論するし、怒るだろう。その程度には大切な日々。

改めて、やっぽり面白くない作品だとは思う。でも他の人がこの作品をそう言ったのなら、きっと私は反論する。ここには、私たちのささやかな日常が描かれている。主人公はのんびりにも思える速度で、少しずつ、でも確実に成長し、前進していく。なんでそうするかなんてよく分からない。でも楽しそうに生きている。


<ライトノベル>
『異世界迷宮でハーレムを 1』
異世界迷宮でハーレムを 1 (ヒーロー文庫) 蘇我 捨恥

<コミック>
『異世界迷宮でハーレムを(1)』
異世界迷宮でハーレムを(1) (角川コミックス・エース) 氷樹 一世

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