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銭湯の番台の上から“観光ありきのまちづくり”を再解釈していく元コンサルタントの挑戦 【だから、ぼくはヒーローになれない episode 27】

こんにちは、イイジマケンジ|kushamiです。

岐阜県の飛騨高山まで行ってきました。”ある人”に会うために。

そのある人とは、
”銭湯の番台”
であり、
”ゲストハウスの経営者”
であり、
”世界を飛び回っていた元コンサルタント”
であり、
”2歳半の子の良きパパ”
である。

これまで出会ってきた人のなかで、キャリアに「銭湯の番台」と「コンサルタント」という言葉が混在している人を見たことがなかった。

今日は、そんな特異なキャリアをもつ方、飛騨高山のゲストハウス「cup of tea」と銭湯「ゆうとぴあ稲荷湯」を営む中村匠郎さん(以下、たくろうさん)の話。

たくろうさん

”グローバル”から”銭湯の番台”へのキャリアチェンジ

たくろうさんの生い立ちは、飛騨高山地方のWebメディア「ヒダスト」で紹介されているから、このnoteを読む前にぜひ読んでほしい。

飛騨高山で生まれ育ち、高校1年で海外留学。ニュージーランドの高校→アメリカの大学(ゲティスバーグ大学)に進学。社会人になってから、日本オラクル→野村総合研究所→デロイトトーマツコンサルティングというキャリアで、述べ5ヶ国10年に渡る海外生活を送ってきた。

この経歴だけみたら正直「華々しいキャリア形成」「超エリート」でしかない。たぶん愛想なさそうで冷静に他人を分析しそうで、性格も悪いんだろうな、と思うかもしれない。いや、最初に話すまでは僕もそう思っていて、ちょっと身構えていた。

ただね、実際は真逆なんです。
めちゃくちゃ優しくて、物腰柔らかく、誰でも受け入れてくれる人。しかしながら内に秘めている想いや考えはめちゃくちゃ熱い人だった。
僕は彼に一気に惹き込まれていった。

そんな華々しいキャリアをもったたくろうさんが、何故、次のキャリアとして家業の銭湯を選んだのだろうか。(このnoteを最後まで読めばわかる)

”大ボラ吹き”が未来を描き、まちを変えていく

飛騨高山に到着した直後に、早速たくろうさんとランチに行った。そこで、たくろうさんが語ったことが印象的だった。

たくろうさん:
帰郷してから、銭湯・宿以外にも色々と興味あることに手を出しすぎて、自己紹介するときに、何してるのか説明がしづらくなっていったんですよ。
妻からも「おまえは何屋・何者なのか」と話をしていました。笑
僕は彼女みたいに専門的な知識・スキルもないし、実行力・やり遂げる力はないなって・・・。

ただね、、、僕、大ボラ吹けるんです。
あることないことをそれっぽく話すことができる。
そうすると、妻から「それなら”blue printer”って名乗ったら?」と言われたんです。

”blue printer” は日本語でいうと「青写真」で、それってつまり「大ボラ吹き」で。そしてそこから「大ボラ」って英語にさらに訳すと「vision」になる。
こりゃ自分にぴったりだと思ったんです。笑

今まで誰にも見えなかった新しい地図をイメージして、描いて、実行して、未来を変える。
新しい地図は現実の世界にはまだ無いもので誰も見たことない。だから、その時点では「大ボラ」なんだけど、それが実は「未来を描くビジョン」なんです。

だから、これからは自分の肩書きを「blue printer」(青写真、未来、ビジョンを描く人)と紹介しようと思っています。

自分の肩書きを紹介するときに「blue printer」というキーワードで表現した人は人生で初めてだった。ただ、そこからたくろうさんと会話を進めていく中で、blue printerという言葉はしっくりくると納得せざるを得なかった。

飛騨高山の価値を再解釈するチャレンジ

たくろうさんは、帰郷して家業である「銭湯」を継ぐのと同時に、新しくゲストハウス(宿)をオープンした。

ゲストハウスの名は、cup of tea 。
「日本人が一杯のお茶に込めるゲストをもてなす気持ち」にならい、名付けたそう。

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たくろうさんが地元である飛騨高山に帰郷して実際に住んでから気づいたことがある。それは「これからのまちづくりへの危機感」だったという。
高山に3年弱住んで、観光ブームに沸く高山で観光事業に携わって気づいたことが「観光地化が進めば進むほど、寿命が短くなる」ということ。

飛騨高山は中部地方に位置し、全国でも有数の観光地として成功している街といえる。高山市だけで東京都とほぼ同じ面積を有しており、市街地には江戸時代末期から残る古い町並みがあり一日歩くだけでも楽しめる。さらには、山間部では奥飛騨温泉や合掌造りで有名な世界遺産・白川郷などにもアクセスがしやすい。

ただ、たくろうさんは「観光地化を目的としたまちづくりに違和感を覚えた」そうだ。

たくろうさん:
”観光地化”は、あくまでも元々は「人口減で減ってる地域内消費を増やし、地元住民の所得を増やすため」の一つの手段に過ぎなかった。たしかに、うまくいっている部分はある。

だけど、観光地化が極端に進めば進むほど、都会(東京)からの資本が流入し始める。ご当地キャラクターのお土産品や都心発のお店が古い町並みにも入ってきた。そのお土産品やお店で観光客が購買したとて、そのお金は地元住民の所得増加につながっているのか。

インバウンドが盛り上がれば盛り上がるほど、外部の資本がどんどん買い漁っていき、地域経済が弱体化していった。

観光地化を目指せば目指すほど見えてくる”矛盾”がそこにはある。
コロナによって今まで見えていなかった地方の課題が、白日の下に晒された。これは飛騨高山だけの問題ではない。

最後の言葉が重くのしかかる。飛騨高山固有の問題ではない。
たくろうさんが指摘する”矛盾”は、観光地化を目標として標榜してきた全国の地方に共通の問題といえる。

今回のコロナ禍において、いわば「観光が成長する」という”あたりまえ”が崩壊した。
これまで信じられてきた「観光地化によるまちづくり」に一石を投じ、地方価値の再解釈をおこなわなければいけない瞬間がいよいよ訪れたのだ。

彼は単純に家業の銭湯を継いだり、宿を経営するだけではないのだ。
彼がやろうとしているのは、「これからの地方のまちづくりのあり方」の大ボラ(Blueprint)を描き、実行して、変えること

まちづくりのキーワードは”自然(ジネン)”

たくろうさんが描く大ボラ(Blueprint)のキーワードは「自然(ジネン)」である。

たくろうさん:
社会形成のキーワードとなっている「サステナビリティ」(持続可能な発展)という言葉にも通じますが、その根本には日本が古来から持っているジネンの精神・考え方が必要になってくるし、それが日本らしくサステナビリティを実現するアプローチだと思うんです。

自然(ジネン)とは、英語にすれば“Living as Nature”、すなわち「自然として生きる」である。
たくろうさんがまちづくりのキーワードとして掲げる「自然(ジネン)」についてはこの記事がわかりやすいと教えてくれた。

彼が見据えるのは、「従来の観光政策から脱皮し、新しい100年をどう生きていくか」である。
観光地化のための発展ではなく、飛騨高山が元来持っている文化的な素地や歴史、技術、産業、コミュニティ、人、など、あるものを活かしていく方法だ。
それらが街の「色」となり、「強み」となり、新しい観光をつくっていく。

たくろうさんが目指したいまちづくりは自然(ジネン)の精神をコアに置いていくこと、と語った。

たくろうさんの語る言葉によって少しずつ僕自身が目指したい「これからの地方のまちづくり」の方向性が見えてきた。
それぞれの街の状況によるとは思う。しかし軸とすべきは、ただ”消費されていくエリア”になるのではなく、”サステナビリティを考えたまちづくり”である。

コロナ禍によって、あらゆる側面で価値が見直されていく。
実は、たくろうさんの話は僕のnoteのシリーズで触れたことがある。

新型コロナによって変わる旅行・観光のあり方について現場の観点から語ったblogから言葉を引用させてもらっていた。
ぜひ、たくろうさんのblogも読んでもらいたい。僕が書いているnoteより1,000倍詳しく考えられて語られているから勉強になる。

cup of teaとゆうとぴあ稲荷湯へまずは行くことをおすすめする

兎にも角にも、まずは飛騨高山にいくことが、これからの未来を考えるはじめの一歩である。自分と街が溶け込んでいくことで、自分にとっての新しい旅の価値が見いだされ、ひいては自分の価値観を見直すきっかけとなるはずだ。

cup of tea の目の前(徒歩3秒!)には銭湯「ゆうとぴあ稲荷湯」がある。昔ながらで落ち着くし、様々なお湯が楽しめるので旅の疲れを癒やす最高の瞬間を味わえる。

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コロナ禍で首都圏や大都市からの移動が自粛されているなかで、どうおすすめするべきなのかなんともむず痒い心境であるが、ぜひタイミングと自身の生活環境・体調管理を考慮して検討していただきたい。

次回note予告:ちらほら出ている”妻”の話

そもそも、なぜ僕がたくろうさんと出会ったのか。
その鍵を握っていたのは、たくろうさんの隣にいる人だったのだ。

実は、たくろうさんのパートナー(妻)が僕の大学時代のゼミの同期なのである。
彼女も、大学卒業後、外資系企業でSE(システムエンジニア)やコンサルタントとして活躍し、現在も飛騨高山で可愛い2歳半の子を育てながら、Webマーケターとして大活躍しているのだ。

地方都市で子育てをしながら彼女は仕事をする、とてもかっこいいんだ。
だから次回のnoteでは彼女をぜひ紹介したいと思う。
※ただし、「本人の承諾を得られれば」という条件付きである。笑


飛騨高山のまちづくりは、銭湯の番台の上から始まろうとしている。
また落ち着いたタイミングで銭湯のお湯をいただきにいきますね。

いただいたサポートは、年間でまとめて報告してどう使うか考えて記事にします!(500円までは、自分の甘やかしのためにコーヒー代に消えるかもしれませんがそこは許してください…)