少女の夢 5 酒井倫子
合唱とは、決して心をひとつにすることではない。昨年、文化功労者になった合唱指揮者、田中信昭はそう言い切る。プロ、アマチュアと縦横に広がる日本の合唱文化の礎となり、今なお現役で駆け回る。「肉体が波動を起こすやり方は人それぞれ。他者との違いを確かめ、自分だけの人生を生きる力を得ること。それが、歌というものが存在する理由にほかならない」
89歳。岩城宏之、山本直純、林光、三善晃ら、西洋の借り物ではない自分たちの音楽文化を戦後日本の焦土に築こうと奔走し、先だった盟友たちとともに受