【連載】ターちゃんとアーちゃんの歳時記 長月
自転車
「車に気を付けるんだぞ」
パパが見ている前を、ターちゃんが颯爽と自転車で駆け抜けます。アーちゃんの自転車がその後を追いかけます。ガラガラと補助輪をけたたましく鳴らしながら。
そろそろ補助輪は外さないと危ないようです。
パパが工具箱を手にアーちゃんを呼びます。
「なあに」
「ちょっと自転車、貸して」
ターちゃんも戻ってきて、何が始まるのかと、興味津々。補助輪が外されるのを、心配そうに見つめるアーちゃん。
「これで、よし。行くぞ」
早速、近くの公園で練習が始まりました。
「支えてるからペダルを一所懸命漕いで」
アーちゃんが不安げに後ろを振り返ると、ハンドルがふらついて倒れそうになります。
「しっかり前を向いて」
パパは荷台を持ちながら一緒に走って、時折少し離しては、直ぐまた支えます。だんだん離す距離を延ばしていって。
「そう、その調子。いいぞ」
その刹那。ガッチャーン。アーちゃんの膝から血が滲んでいます。
「だいぶ上手くなったぞ」
パパに誉められて、アーちゃんはこぼれそうな涙を我慢しました。何度か転ぶうちに、自転車は倒しても、自分は転ばない術を身に付けたようです。
そして……。
ついにアーちゃんは、蛇行しながらも公園を一周することができました。
「頑張ったな」
「アーちゃん、すごいね」
二人に誉められて、恥ずかしいけど、ちょっぴり得意げな顔。
そんな、アーちゃんを見ながら、こうして子供は少しずつ親の手を放れて行くんだな、と感慨に耽るパパでした。
写真
ターちゃんは、おすまししてます。
アーちゃんは、おふざけしてます。
ターちゃんは、変顔をします。
アーちゃんは、それを見て腹を抱えます。
今日は少し足を伸ばして、向ヶ丘遊園に来ています。
パパは、花壇の前で、年賀状に使う写真を撮ろうと考えています。
二人揃っていい顔をしてくれないので、パパはファインダーを覗きながら、少しいらだってきています。
でも……。
ターちゃんもアーちゃんも、パパの思惑なんてお構いなし。
広い園内に大はしゃぎです
日差しは変わらず強いながらも、風が少し涼しくなってきています。
「早くしないと、溶けちゃうよ」
傍らで、ママは二人のソフトクリームを持って、笑っています。