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来戸 廉
2024年2月3日 06:14
まもなく電車が到着すると、アナウンスが告げている。 大学受験で上京する私。もう子供じゃないんだからいいと言うのに、母は駅まで送ると聞かない。父まで付いてきた。 車の中で父は、何処何処の娘は東京に行ったまま帰ってこないと、私に重ねる。願書を出した日からそれが続いている。母は母で、朝食はちゃんと摂るんだよとか、水には気を付けろとか、顔を合わせる度に繰り返す。耳にタコができた。 たかだか二三日
2024年1月26日 15:49
電車に一歩乗り入れた途端、私は打たれたように立ち止まってしまった。反対側の席で本を読んでいる男性。間違いない。青春時代、夫と知り合う前のほろ苦い思い出。今ではもう思い出すことはないけど、決して忘れることも出来ない人。「どうしたの?」 娘の声で我に返った。「ううん、何でもない」 あの人の向かいの席が空いている。私は躊躇したが、娘が促すので、仕方なく並んで座った。だが私は気が気ではない。