今日は、ふたりでパフェを食べよう。
記憶が断片的ではあるが、気が付くと時々思い出すひとコマがある。
確か私は4歳くらい。家族で母の実家へ滞在していたとき、母が幼い私を喫茶店に連れて行ってくれた。2歳になるかならないか、とりあえずめっちゃ手のかかる時期だったであろう妹は、一緒ではなく。おそらく祖父母が家で見ていてくれたのだろう。妹がいないことを少しだけ不思議に感じていたのを覚えている。
何でその日に母が私を連れて出かけたのか、父や妹や祖父母は何をしていたのかなど、いきさつは分からなかった。
でも、情景ははっきりと覚えている。田舎の駅の近く、小さな喫茶店だった。テーブルに向かい合わせて座り、母は私に、「今日はふたりでパフェを食べよう」と言った。
幼い私は、このとき初めて「パフェ」という言葉を聞いた。
もちろん、パフェがどういうものかなんて知らなかったが、とてもわくわくするものであると悟った。なぜか自分が少し大人になったような気分で嬉しくなり、かと思えば急に緊張し始め、なんだか気持ちが忙しかった。
私は悩んだ末にフルーツパフェ、母はチョコバナナのパフェを頼んだ。待っている間、きっとどきどきしていたんだろうな。運ばれてきたその一瞬のことは、写真みたいにはっきり思い浮かべられる。想像以上に、とってもわくわくする食べものだった!
「お母さん、おいしいね」 そう一言、振り絞るのがやっとだった。うれしくて美味しくて、言葉が出てこなかったのだ。
帰りの車に揺られている間、私はこれまでになく満ち足りた気持ちで、頭の中がふわふわした感じだったのを覚えていて、そしてここで私の記憶は途切れている。
10年以上後になって、母にこの話をした。あのとき私はパフェという夢のようなスイーツを教えてもらい、とにかく嬉しくて幸せな時間を過ごしたのを覚えていて、未だに忘れられないと。
母は笑っていた。「あの時あなたは、『美味しいね』「お母さん、美味しいね』って本当に何度も言ってた。よっぽど嬉しかったんだね。」
あれっ。そうなの?そんなにしゃべってたの。ちょっと恥ずかしいんだけど。
母は続けた。「妹ができてから、何かと我慢させちゃうこともあっただろうから・・・」
そういうことだったのか。
妹に手がかかるため、姉である私は母親に甘える時間がかなり減ってしまった。このことを気にしていた母は、実家滞在中というチャンスに私だけを連れ出してくれたようだ。このとき初めて知った。
なぜ、あの日の私はあんなに満ち足りた気持ちで幸せだったのか。なぜ、あの日の喫茶店でのひとコマを何年たっても覚えているのか。少し理由が分かった気がした。
パフェという夢のようなわくわくするスイーツを知った、というだけではなく。おそらく久しぶりに母親を独占できた嬉しさも、相当あったんじゃないかな。
母が喫茶店に連れて行ってくれた幸せな思い出のおかげで、パフェは私にとって本当に特別な、至福のスイーツになった。もちろん今も、パフェは大好き。
・・・いつか、娘と一緒に食べに行きたいな、なんて。これは、私のささやかな夢のひとつなのです。かつての母と私のように。
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