〈エッセイ〉かわいいあの子のツンツン期
撫でられるのが大好きな我が家のかわいいうさぎ、まろんさん。
今はニンゲンが自分の目の前を通れば「撫でますか?」「撫でますよね?」「さあどうぞ!」と圧をかけるほど。
でも、うちに来てすぐのころから撫でられうさぎだったわけではない。
まろんさんとは、まず夫が出会った。
夫が勤めている会社の隣にあったうさぎ専門店。その店頭のケージで寝ながら草を食べているうさぎに一目惚れした。
「ふてぶてしいうさぎがいる」
「人間が近づいても、アピールもすることなくスンッとしている」
といつもテンションの低い夫が珍しくイキイキと報告してきた。
おうちに迎えたい、でも自分たちに動物が飼えるだろうかと悩みに悩み、5カ月後。ようやくまろんさんは我が家にやってきた。
うさぎ専門店のうさぎはどの子もわりと懐いているように見えるのだけれど、まろんさんはそっけない。なんというか、「あたしは誰とも慣れ合わないわ」とでも言うようなツンとした態度。
プロが接しても懐かないのだから、うさぎ初心者のニンゲンの家に来て急に懐くはずもない。用心深くケージの奥からこっちを観察している。
「ニンゲン、信じない」
そんな声が聞こえてきそうなお顔。
ごはんとおやつのときだけ寄ってくるけれど、警戒心は強い。仲良くなるための第一歩と思い、おやつをニンゲンの手から渡そうとすると最初は嚙みついてきたほどだ。今も嚙むことはあるけれど、歯をちょっと当てるだけ。
当時は本気で嚙むから私も夫も、手や足のあちこちに赤い嚙み跡がついていた。ちなみに、ものすごく、痛い。
「痛いよ、嚙むのはニンゲン悲しいよ」と諭してもどこ吹く風。
フイッとそっぽを向かれてしまう。
そんなまろんさんに、夫の心が折れていた。
「もうずっと心を開いてくれないかもしれない」
「撫でさせてくれることはないかもしれない」
「嫌われたままかな?」
しょんぼりする夫の様子を、私はというとニヤニヤしながら見ていた。なぜなら、フリーランスで、家で仕事をする時間が長い私は夫よりまろんさんと過ごす時間も長い。実は夫よりも早くまろんさんが私に慣れ始めていたのだ。
撫でられうさぎになるまで、どれぐらい時間がかかっただろう。その変化は本当にグラデーションだったと思う。少しずつ、少しずつ。でも、間違いなく、以前より今、昨日より今日のほうが懐いてくれているのは分かる。
撫でをおねだりするのもそうだし、部屋んぽ(お部屋の中での散歩)のためにケージから出してあげると、「出たよ~」と言うようにまずは駆け寄ってきてくれる。ニンゲンがリビングで寝っ転がっていると、とりあえず近づいてきて様子を確認する。
あんなにツンツンしていたのに、あんなに触るものみな齧りつくような子だったのに。時間をかけて信頼関係が築けたのだな、と思うと愛おしさが増す。
これから一緒にいる時間が長くなればなるほど懐いてくれるんだろうな、と思うと、夫が迎えるかどうか悩んでいた5ヶ月がすごく惜しい気持ちにもなる。でも、その5ヶ月も愛情に変わっているのかもしれない。
きっと、まろんさんについて考えている時間が無駄なんてことは人生において0.1秒だってないのだ。