新たな家族の姿、本音、残された者の役割
いつも心がほっとする本
それが、小川糸さんの作品です。
今回ご紹介するのは、鎌倉が舞台となっている「キラキラ共和国」
母が湘南エリア出身で、鎌倉は幼い頃から遊びに行ったりと縁のある土地。
なんとなく懐かしさを感じられて、ほっとする暖かい文章がかわいい一冊です。
今回は、印象に残ったフレーズとともに感想を書いておきたいと思います。
※「キラキラ共和国」は、「ツバキ文具店」の続編のお話です。
新たな家族の門出
まずは、主な登場人物を簡単にご紹介
鳩子さん:鎌倉で手紙の代筆を行う「ツバキ文具店」を営む女性
守景さん:鳩子さんの夫で鎌倉のカフェ店主。事故により前妻を無くす。
はるな(QPちゃん):守景さんの娘。小学一年生
先代:今は亡き鳩子さんの祖母。生前は代筆屋を営み、とても厳格な性格の持ち主
本作では、鳩子さんが守景さん&QPちゃんと新しく家族になるシーンから始まります。
鳩子さんにとっては、妻になると同時に母になるとても大事な日。
それまでは「知り合いのお姉さん」的な接し方をしていたけど、鳩子さんは、彼女なりに母らしくせねば!と葛藤します。
QPちゃんは、特に意識せず一緒にお菓子を食べたり紙飛行機を作ったり、無邪気にふるまっているのがかわいらしい。
一緒に暮らしたら3人はどんな生活を送っていくのか楽しみになります。
本音を語る代筆屋の仕事
お恥ずかしながら、代筆屋という職業については、本シリーズを読んで初めて耳にしました。
代筆屋は人の代わりに手紙を書くことを生業とした職業で
筆跡を変えたり、便箋封筒、ペンを変えて手紙をコーディネートします。
手紙を書く機会の少ない時代ですし、誰かに手紙を代わりに書いてもらうのってかなりハードルが高いと感じます。
なぜなら、手紙は直接伝えにくい想いや心に秘めている本音を相手に届けるものだから、自分で書きたいなと思うんです。
でも、本シリーズを読んでいると、自分では書けない・誰かに書いてもらいたいシーンってあるんだな、と垣間見ることができます。
鳩子さんのもとに訪れるのは、ひとクセあるお客様ばかり
・夫への絶縁状(離婚届同封)
・亡き夫からの詫び状を書いてほしい
・入院のお見舞いと(直接言いにくい)お金の精算依頼
・目が不自由だけど、母の日に手紙を書きたい少年
依頼内容にびっくりしながらも、鳩子さんは丁寧なヒアリングを通じてどんな文章がふさわしいのか探っていきます。
カウンセリングして問題解決するのではなく、ヒアリングを経て手紙を書くまでが鳩子さんの仕事。
手紙が本当に依頼者の役に立つのか、完成した手紙が納得する仕上がりだったのか、依頼者のリアクションは鳩子さんの元にはほとんど届いていないようです。
でも、手紙の文章を考えるだけではなく、依頼人が本当に求める状態(手紙のモヤモヤを解消したい、とか)を想像して形にしていくプロ意識が満載。
便箋、字体、万年筆…
細部にまでこだわって「そのひと」の心に響く手紙を届けます。(書籍には実際の手紙も掲載されています。)
素直にありのままを書けばいいのだ。難しく考えすぎていたのは、私だったのかもしれない。
その道のプロでも迷うことがある。
自分だけでは気が付けない本音、解決できないことは第三者のプロから見るとわかることもあるんだな、と改めて感じさせられます。
残された者の役割
鳩子さんの夫、守景さんは過去に奥様・美雪さんを亡くした悲しい過去を持っています。
「事故被害者の家族」ではなく、新たな人生を踏み出したい守景さん。
新たに妻となる鳩子さんに気を遣っている部分もあるのでしょう。
その気持ちから、QPちゃんの母子手帳を処分しそうになったり、鳩子さんが家に来るときには仏壇を閉じてしまったりと、美雪さんの生きた証を消そうとします。
それに対して、鳩子さんはQPちゃんを生んでくれた美雪さんに感謝していて、母子手帳の文字で人柄を想像するなど、美雪さんをそばに置いておきたい気持ちを持っています。
美雪さんを忘れたい守景さんと、忘れたくない鳩子さん
双方の気持ちがぶつかってケンカになってしまう場面も。
でも、手紙のプロの鳩子さん。いったん頭の中で考えを整理して、守景さんに手紙を書きます。
それに加え、美雪さんにもそっと手紙をしたためます。
手紙を通じて守景さんと仲直りし、新たな守景家を「世界一のキラキラ共和国」にすることを決意した鳩子さん。
目を閉じて、キラキラ、キラキラ、と心の中で唱えるだけで、心の暗闇に星が現れて明るくなる。
そして、育ての親である祖母・先代や美雪さんに想いを馳せながらこう語ります。
私自身が死なない限り、亡くなった方も私の中ではずーっと生き続けているんだ、って。そのことを最近強く感じるようになった。綺麗事とか、そういうんじゃなくて、具体的に共存しているような感じがするの
私自身、たまたまタイミングが重なったのか、今年はいろいろな別れがありました。
つらいとき、一瞬ネガティブな思想が頭をよぎっても、これまでお世話になったひとたちを思い出して「生きねば」と思うことが多いのです。
率直に言ってしまえば、死に支えられて生きている。
決してハッピーな事柄ではないけれど、せめて残された者にできるのは、今を生き抜くこと。
親から子とはよく言いますが、それ以外にもつながりのあった人はたくさんいます。
受け取ったバトンを大切に持って、これからも過ごしていきたいと思います。
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