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エイプリル【ショートショート】


段々と明るくなる劇場照明が映画の終わりを告げる。


一口に言えば、綺麗な映画だった。
男と女は相思相愛ながらも、壁にぶつかる。
一度は別れを決める二人だが、
最後は必然のような再会でハッピーエンド。

あぁ、
いくら大学生特有の長い春休みで時間を持て余していたからって
こんな映画一人で観るんじゃなかった。

ぞろぞろと出口へ向かい
少し列を成している観賞客。
彼らを後目に僕はふと、君の事を思い出していた。

君との出会いはまさに映画のようで、
そうか始まったんだ、と
あの頃の僕は確信めいたものを勝手に感じていた。
こんな日々が続いていくのだと勝手に決め付けていたんだ。

駅前の映画館を出て、すぐに帰路につく。
僕の家はちょうど駅と駅の間にある。
確かに最寄りまでの距離があるのは不便だが、
大学生一人暮らしの身で贅沢を言うつもりはない。

それにこの三年間で
この線路沿いの街並みを眺めながらの散歩は
僕の趣味の一つとなっていた。

春風が吹き、鼻腔を暖かみのある香りが擽る。
もうすぐ、春休みも終わり
新学期が始まるというのに桜はまだ咲く気配を見せない。
少し目にかかる位の前髪が風に靡く。
そういえば、君は
「前髪を切れ」と「タバコを止めろ」
そればかり、言っていたね。

タバコは、君と別れてから少しして止めたんだよ。
別に君が原因ってわけじゃ無いけど。
本当に。
もうすぐ就活だ。
前髪も来週にでも切るか。

どこにでもあるワンルームのアパート。
鍵を開け、中に入ると
とてもではないが、整理されているとは言い難い景色が僕を迎える。
僕はどこまでも利己的で、そんな僕を君が快く思っていなかった事には気が付いていた。

僕は昔から夢見がちで、自分にも他人にも
高い理想を抱く性分だった。
不変こそが至高であり、易々と自分の意見が他人に左右される事は恥ずべき事だと
そう思っていたんだ。
今考えれば、君との別れは当然の結末だったのかもしれない。

700万年ある人類の歴史において、
男と女が同じ場所を生き、
出会う事はとてつもない確率だ。

出会いは別れの原因で
何十年も生きていたら、どうせ別れは来る。
だから、それが少し早まっただけの事で
僕だってそんな事は分かっているんだ。

僕らは

奇跡のように出会って

必然のように別れて

あの映画とは180度違う結末も
僕は受け入れなくてはいけないんだろ。

そんな事は分かっているんだ。


ねぇ、僕は変わった?
今の君はどう想うかな。

ねぇ、君は変わった?
今の君を観てみたいんだ。


出会いと別れの季節。
これは遅すぎた僕の願いだ。



エイプリル/mol-74
https://youtu.be/HTjiTJm7jjg

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