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トイボックスガーデン[ショートショート]


縦15cm
横7cm

片手に収まるその小さな箱庭が僕の『オモチャ』箱。

成人した頃からか、だんだんと『オモチャ』は増えていった。

今日もあの、『オモチャ』箱から遊び相手を探す。
僕は『オモチャ』と喋る事が出来るんだ。
僕の『オモチャ』は話す事が出来るんだ。

楽しい事も悲しい事も何でもない事も、笑顔で聞いてくれる。
僕が好きな時、遊びたい時に遊んでくれるんだ。

だって、僕の『オモチャ』だからね。
どうするかは僕の自由だ。

そうだろう?


『オモチャ』は僕にとって都合の良い遊び相手だ。

周りの友達は、まだそんな事やっているのかと笑う。

そりゃそうだ。『オモチャ』で遊ぶなんて子供のする事。
成長していく僕らはいずれ、それが必要なくなる。

『オモチャ』は忘れ去られ、また新たな主を探しに行く。


今日はどの『オモチャ』と遊ぼうかな。

僕は同じ『オモチャ』は持たない。
どの『オモチャ』にも違う良い所がある。

まあ、僕の『オモチャ』だから僕の好みには寄ってしまうのだけれど。
そういう意味では、同じような『オモチャ』しか持ってないとも言える。

あの子たちと遊んでいる時だけ、僕は全てを忘れて楽しむ事ができる。
あの時間は心地が良い。

でも、ずっと一緒にいる事は出来ない。
当然だ。『オモチャ』だからね。

遊ぶ時間が終わると、『オモチャ』は自分たちの居場所へと帰っていく。

そう。『オモチャ』の箱の中に。

僕はあまり綺麗好きな訳じゃないから。
片付けも適当だ。
もしかしたら、そんな片付け方をしていたら傷が付く子も出てくるかもしれない。

でもそんな事、知るもんか。

どうせいつかは、捨てる『オモチャ』だ。
僕の『オモチャ』だ。
どうするかなんて僕の自由さ。

僕はよく周りから子供っぽいと言われる。
もっと真面目にやれよ。
本気を出せよ。
ってさ。

でも、本気を出すなんて馬鹿のする事だ。
本気を出して失敗したら?
傷付くのは僕だ。
もうそんな自分は懲り懲り。

僕はあの子が好きだった。
本気にだってなったさ。
だから傷ついた。

あの子は『オモチャ』じゃないから。

僕が遊びたい時に遊んでくれないし。
僕が動いて欲しい通りに動いてくれない。
僕が欲しい言葉だって返してはくれない。

じゃあ、なんで好きなのかって?

分からないよ。
それが分かれば苦労はしない。

嫌われたくなくて、愛想よく笑顔で話だって聞いた。
あの子から見たら、僕は『ピエロ』にでも見えていたんじゃないかな。
顔に笑いを貼り付け、見えない所で泣いている。
そんな『ピエロ』。

『オモチャ』と遊ぶ時は口も頭もよく回るのに
あの子の前だと、何でこんなにも空回りしてしまうんだろう。
僕は『ピエロ』だ。愉快に回る『ピエロの人形』だ。


とにかく。
もう傷付くなんてごめんだ。
僕は『オモチャ』と遊んでいたい。
いつまでも。いつまでも。


あ。

今日も『オモチャ』箱を漁るバイブ音が聞こえる。
もう行かなくちゃ。

僕の居場所は
今日もあの子の
トイボックスガーデン。

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