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【随筆/まくらのそうし】 保存食

 スーパーの品揃えが変わらない奇妙さを実感する、山の暮らしである。

 要するに、季節のものはどっと成る。山菜やら果物やら、天気の具合では数日間という短い期間、あるいはもう少し長くても二週間ほど、その期間しか食べられず、むしろその期間はそれを食べるしかない。

 そこで人は保存を覚える。

 乾物にしたり、塩漬けにしたり、ジャムにしたり、酢漬けにしたり、さまざまな保存の手段は、先人の知恵である。

 もっとも、スーパーにも頼る現代人は、そこまで保存に手も掛けないが、それでも大量の恵みを前に、えいやとどうにか力を入れて、加工に専念する一日がある。

 たわわなグミを、スモモを、トマトを、空豆に大豆に小豆、ゼンマイやワラビ、梅、お茶を、柿だの栗を──そんなことをしているうちに、季節は忙しく過ぎていく。

 加工だけして、戸棚の奥、忘れることも多々ではあるが、梅の酒や瓜の粕漬けなど、忘れた頃に食べれば最高の美味というものもあるので、やめられない。

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