見出し画像

短編小説「ひいばあちゃんの蜜柑」

 わたしのひいばあちゃん   田岡千果

 わたしの家に、ひいばあちゃんが来ました。
 いままでは一人ぐらしをしていたのですが、もう年をとったので、一人ぐらしができなくなったからです。
 ひいばあちゃんは、八十七さいで、としよりです。だから、何でも忘れちゃいます。
 いつも、わたしが学校が終わって、おやつをもらいにいくと、ひいばあちゃんは、
「おやつなんて、かいものに行かなきゃないよ!」
 と言います。
 でも、お母さんは、
「今日もかいものに行ったから、たくさんあるよ」
 と言います。
 ひいばあちゃんはおかいものが好きだから、毎日、おかいものに行っています。
 でも、ひいばあちゃんは何でも忘れちゃうので、
「行ってないから何にもない」
 と言います。
 だから、わたしはひいばあちゃんのお部屋を探します。そうすると、あります。
「あったよ」
 と、わたしが言うと、ひいばあちゃんは、
「そうか。よかった、よかった。それじゃ、食べよう」
 と言います。
 そうして、お母さんにお茶をもらって、二人でなかよくおやつにします。
 おやつの間、ひいばあちゃんはいつも昔のおはなしをしてくれます。
 ひいばあちゃんが小さいころのおうちには、いっぱいミカンの木があったというおはなしです。
 たくさん実がなるので、ひいばあちゃんは大好きだったけれど、戦争でぜんぶやけてしまったので、ざんねんだと言っていました。
 それを聞いて、わたしもざんねんだなと思いました。おわり


 千果が作文を読み終わると、先生はにっこりとして「いいおばあちゃんですね」と言った。
 おばあちゃんじゃなくて、ひいばあちゃんです、と千果は言いたかったが、恥ずかしかったので黙っていた。千果は内気なのだ。みんなの前で声で作文を読むのも恥ずかしくて、心臓はどきどき、顔も熱くほてっている。
 千果が小学校二年生になったとき、担任になった先生は、生徒が持ち回りで作文を書くことを提案した。
 テーマは自由。千果は一生懸命に考えて、ひいばあちゃんのことを書くことにした。
 ひいばあちゃんはこの四月に千果の家に来たばかりの、お父さんのおばあちゃんだ。家族が一人増えたようで、千果はとても嬉しかった。
 お家に帰ったら、ひいばあちゃんに、先生が褒めてくれたことを教えてあげよう。
 千果はランドセルに花丸のついた作文を大事に仕舞うと、帰り道を急いだ。ひいばあちゃんが子供のころは、田んぼばっかりだったというけれど、いまはそんな面影もない住宅街だ。
 家までは少し遠いので、天気の悪い日は、お父さんが学校まで送り迎えをしてくれる。その途中に、消防用水が溜められている、緑色の小さなプールのような場所がある。
『あそこにあるのは池かねえ』
 雨の日は、千果の送迎ついでに、買い物に行くひいばあちゃんは、窓の外を見て、つぶやくように言う。
『ううん、あれは消防車のお水だよ』
 千果が答えると、ひいばあちゃんは残念そうに、
『何だ。池なら、お魚がいるのにねえ』
 と言う。
 ひいばあちゃんが消防用水の傍を通る度に、同じことを言うことが、千果にはちょっと面白い。
 消防用水だよ、ちょっと難しいその言葉を教えてあげる度に、ひいばあちゃんは目を丸くして驚いたあと、必ず、
『そんな難しい言葉を、この子はよく知っているねえ』
 と褒めてくれるからだ。
 お父さんもお母さんも千果のことを褒めてくれるけれど、ひいばあちゃんほどには褒めてくれない。ひいばあちゃんは何度だって、同じことを言ってたって、褒めてくれる。
 お父さんたちはひいばあちゃんのこと、何でも忘れちゃうから困ったもんだと言うけれど、忘れちゃうことってそんなに悪いことでもないんじゃないかな。
 千果は思い出して嬉しくなる。
 千果が何をしても、ひいばあちゃんは褒めてくれる。
 宿題をしていても、おやつを食べた後に手を洗っても、夕ご飯のときにひいばあちゃんのお味噌汁を持っていってあげても、学校の話をしても、何をしても、だ。
 それどころか、本当なら褒められるはずのない場面——例えばお茶をこぼしてしまっても、お母さんみたいにすぐに怒らないで優しく、
『ちゃんと拭きましょうね』
 と言ってくれる。そして拭いたら、
『あら、偉いのねえ』
 それから、五月にある遠足の話だってそうだ。遠足が楽しみで仕方のない千果が、何回同じ話を繰り返したって、ひいばあちゃんはちゃんと千果の話を聞き、そしてこう言ってくれる。
『あら、いいわねえ。楽しみねえ。それで、どこに行くの?』
 と。
 お父さんやお母さんじゃこうはいかない。
『さっきも聞いたわよ』
 とか、
『はいはい、わかってるよ』
 とか言って、全然ちゃんと聞いてくれないのだ。
 嬉しいことは、何度だって話したいのに。
 千果はそう思って残念な気持ちになる。だから、ひいばあちゃんがちゃんと答えてくれると、とっても嬉しくなる。
 ほら、やっぱり「忘れる」って、悪いことばっかりじゃない。

「ひいばあちゃん!」
 家に着くと、千果は「ただいま」のかわりに、ひいばあちゃんを呼んだ。
「お帰り」
 台所で忙しそうにしているお母さんよりも先に、ひいばあちゃんが答えてくれる。
 千果はいそいそとひいばあちゃんの傍でランドセルを開けた。
「あのね、今日、先生に褒められたよ」
「あら、どうして」
「えっとね、あのね、うーんと……」
 こうやって言葉が出ない間も、ひいばあちゃんは待っていてくれる。お母さんなら、一瞬手を止めてくれても、すぐにお仕事を始めてしまうのに。
「あのね、わたし、作文書いたの。ひいばあちゃんの」
「あら、やだよ、この子は。ひいばあちゃんの作文を書いたって」
 ひいばあちゃんは恥ずかしそうに笑う。
「ああ、書いてましたよ」
 お仕事をしながら、お母さんが言う。
「千果、おばあちゃんに読んであげたら?」
「うん、いいよ」
 千果はランドセルから作文を取り出し、読み上げた。学校で読むより恥ずかしくないから、大きな声が出る。
 一生懸命に読む千果を、ひいばあちゃんはときおりうなずきながら、優しく聞いてくれる。
 そして作文を読み終わると、やっぱり、
「すごいねえ、この子は。もうちゃんと文章が書けるんだね」
 そう褒めてくれる。
 けれど、今日ばかりはそのあとで、少し困ったように首をかしげた。
「けど私、そんなに忘れっぽいかねえ」
 こっちに背を向けたお母さんが、少し笑う。
「年を取ったら、忘れちゃうことも忘れちゃうよ」
「そうだ」
 ぼやくように言うひいばあちゃんを尻目に、千果は手を叩いて飛び跳ねた。
「ひいばあちゃん、今日のおやつは?」
「ええ?」
 さっきまで忘れることを憂いていたはずのひいばあちゃんは、途端に眉をしかめてこう言った。
「おやつなんて、買い物に行かなきゃないよ! 私は今日、買い物にも行ってないんだから」

 翌日は、しとしと雨が降っていた。
 お父さんが運転する車は、ひいばあちゃんと千果を乗せて、小学校とスーパーに向かう。
「あそこにあるのは、池かねえ」
 消防用水の傍を通りかかると、いつものように、ひいばあちゃんがつぶやいた。
「ううん、違うよ。あれは消防用水」
「そう。池ならお魚がいるのにねえ」
 水のきらきらを目に映して、ひいばあちゃんが言う。
 この子はよく知っているねえ、千果はいつもの褒め言葉を待ったが、今日のひいばあちゃんは何だか様子がおかしいようだった。
「どうしたの?」
 千果が聞くと、ひいばあちゃんは本当にいつもとは違う、悲しそうな様子で言った。
「私も、早く死にたいなあ、と思ってねえ。恵子みたいに」
 恵子、というのは、ひいばあちゃんの子供で、お父さんのお母さんで、千果のおばあちゃんのことだ。
 お父さんのお母さんは、千果の産まれるずーっとずーっと前に死んでしまったのだと聞いていた。
「順番が違うよねえ。あのとき、私が死ねばよかったのにねえ。そうしたら、あんたたちに世話を掛けなくても済んだのにねえ」
「……まあ、子供の前でそんなこと言いなさんな」
 運転中のお父さんがたしなめる。
「それに、世話をかけるだなんて気にしなくていいよ。だって、ばあさんが僕を育ててくれたわけだから。親代わりだ、そうだろ?」
 お父さんが少しおどけたように言うと、ひいばあちゃんもほんの少しだけ笑った。
「そりゃあ、母親が死んだら仕方がないからね。育てたよ」
「そうだろ? それを言ったら、ばあさんが年取ったときに、僕が面倒見るのも仕方ないんだから。だから、死ねばよかっただなんて言わないでくれよ」
「うん、まあ、そうだけどねえ」
「……ひいばあちゃん、死ぬの?」
 千果は何だか体がすっと冷えるような気持ちがした。
 人がどうして死んでしまうのか、千果にはまだよくわからない。テレビには、千果と同じ年の子が死んだというニュースが流れることもあるし、その逆に百歳以上長生きをしている人がいるというニュースもある。
 人は何歳で死ぬの、と聞いたとき、お母さんはわからないよ、と言ったあと、付け足すように言った。
『病気や事故で子供が死ぬこともあるし、運良く元気で生きていられれば、百歳まで生きることもあるしね。千果のおばあちゃんは三十歳で亡くなったでしょ。そういうこともあるの。まあ、でも大体年を取ったら自然と死んじゃうものだけどね』
 ひいばあちゃんは八十七歳だ。それなら、そろそろ年を取って自然と死んでしまうんだろうか。
「いつ、死んじゃうの?」
 小さな手をぎゅっと握って、千果が聞く。すると、お父さんは安心させるような声で、優しく言った。
「そりゃ、年だからいつかは死ぬけど、今すぐじゃないよ。だから安心しな」
「でも、お父さんやお母さんに迷惑を掛けないうちにしないとねえ」
 またひいばあちゃんが言う。
 けれど、そう言いながらも、ひいばあちゃんは寂しげだった。今日の空と同じ、暗い顔をしていた。千果が顔も見たことのない、恵子おばあちゃんのいるお空に行きたがっているみたいだった。
「でも……」
 千果は下を向いた。
「ひいばあちゃん死んじゃったら、わたし、悲しい」
「優しい子だね、この子は」
 今日初めて、ひいばあちゃんは千果を褒めた。
「優しい子だ」
 やっと褒めてもらえたというのに、どうしてか、千果は全然嬉しくなかった。

「ねえ、お母さん。ひいばあちゃん、もう死にたいんだって」
 ひいばあちゃんの部屋の灯りが消えた後、布団の中で千果はそっとお母さんに話しかけた。
「お父さんとお母さんに迷惑がかかるからなんだって。そう言ってた」
「そう」
 常夜灯の明かりの中で、お母さんは困ったような顔をした。けれど、すぐに笑ったような顔をして、千果の頭を撫でた。
「でも、大丈夫よ。ひいばあちゃん、まだ死なないから。だってひいばあちゃん、体がすごく丈夫なのよ。みんなで風邪を引いたときだって、一人だけ何ともなかったでしょ。お母さんもあやかりたいもんだわ」
「あやかるって、なに?」
「うーん、ひいばあちゃんみたいに丈夫な体になりたいなってこと」
 お母さんは眠そうにあくびをする。千果は半分体を起こした。
「じゃあね、お父さんとお母さんは、ひいばあちゃんが迷惑って思ってる?」
 そう聞くと、お母さんは口は笑ったまま、眉をしかめた。
「やあね、この子は。……そりゃ、いろいろあるけど、別に迷惑じゃないわよ。年を取ったら、みんな助けが必要になるの。仕方ないのよ」
「助けって?」
「うーん」
 お母さんは目を閉じたまま言った。
「例えば、ひいばあちゃんは一人じゃお買い物に行けないけど、毎日お買い物に行きたいから、連れて行ってあげないとならないでしょ。それでも夕方には、朝お買い物に行ったことを忘れちゃって、今日はお買い物に行ってないって落ち込んじゃって大変でしょ。ごはんを食べてないって言うこともあるし、お父さんの名前がわからなくなっちゃったり、一人暮らししてたお家に帰りたいって言うこともあるし——まあ、そういうときに、お母さんたちがひいばあちゃんに教えてあげないといけないのね。お買い物はまた明日行こうね、とか、ごはんはもうすぐできますよ、とか、お父さんはひいばあちゃんの孫ですよ、とかね」
「わたしも、わたしも教えてあげてるよ」
「そうなの?」
 千果が息せき切って言うと、お母さんは笑った。
「どんなこと?」
「あのね、ひいばあちゃんはいつも、消防用水をお池なのかなって言うの。お魚がいたらいいなって。でも、あれは消防用水だよって、わたし、教えてあげるのよ」
「そう」
 お母さんは目を閉じたまま、答えた。
「じゃあ、千果もひいばあちゃんのこと、助けてあげてるのね」
「うん」
 千果は嬉しくなってうなずいて——それから、ぱたん、と枕の上に倒れ込んだ。
「でも、それなのにどうしてひいばあちゃんは死んじゃいたいって言うんだろう」
「そうね、ときどきすごく落ち込んじゃうもんね。いろいろ忘れちゃうから、辛くなっちゃうんだと思うけど」
「辛いの?」
「うん。まあいままで一人暮らしして、生活も変わったしね。何か楽しみでも見つけてくれるといいんだけど」
「楽しみってなに?」
「いままではずっとお裁縫をやってたみたいだけど、いまは目が悪くてできないし、買い物は好きだけど、一日に何回も連れてってあげられないしねえ……」
 お母さんはそう言うと、深い呼吸を何回かして、眠り始めてしまった。
「お母さん……寝ちゃった?」
 千果はため息をついて、大人しく布団に潜り込んだ。目を閉じる。そして、考えた。
 どうしたら、ひいばあちゃんの楽しみが見つかるんだろう——。
 千果は次の日学校で、その答えを思いついた。そして、家に帰ると、ひいばあちゃんに聞こえないように、内緒話でお母さんに打ち明けた。
「それはいい考えね」
 お母さんはにっこりした。
「じゃ、早速お父さんに頼みましょう」
「うん! あ、ひいばあちゃんには内緒だよ」
「わかってるわよ」
 その日、千果はその秘密が口から飛び出してしまわないようにしながら、ひいばあちゃんがどこかに隠したおやつを探し、いつものように二人で食べた。
「私が物を忘れてどっかやっちゃっても、この子がすぐ見つけてくれるよ。だから安心だね」
 おやつを探すくらいのことでも、ひいばあちゃんはやっぱり千果を褒めてくれて、千果は大得意だった。

 その次の日曜日。
 朝から、ひいばあちゃんには内緒でお父さんと出かけた千果は、うきうきしながら車に乗っていた。
 買い物は済んだ。ひいばあちゃん、喜んでくれるといいなあ、千果はトランクに乗せた包みを振り返りながら、運転をするお父さんの顔を見上げた。
「ねえ、喜んでくれるかな」
「そりゃ、喜ぶさ、きっと」
 お父さんは楽しそうに言った。
「それに、千果からのプレゼントなんだ。喜ばないはずがないよ」
「そうかなあ」
 車は消防用水の横を抜け、そうするうちに家の屋根が見えてくる。
「お母さん、買ってきたよ!」
 玄関で千果が叫ぶと、お母さんはひいばあちゃんを呼んだ。
「おばあさん、千果が帰ってきたよ」
「いいものがあるんだよ! 早く、こっちに来て!」
「何だい、朝から元気だねえ」
 ひいばあちゃんはよろよろと部屋から出てくる。また落ち込んでいたのだろうか、何だか顔色が良くないように見える。
「ね、外に来てよ。ちょっとだけだから」
「はいはい、わかったよ」
 千果の声に、外へ出る。
「どうしたんだい——あら」
 すると、目の前に現れたものに、ひいばあちゃんは驚いて声を上げた。
「あらあら、これは……」
「じゃーん、すごい?」
「どうだい?」
 お父さんがそれをトランクから降ろしてくる。ひいばあちゃんは両手を広げて嬉しそうに笑顔を見せる千果に気付かないように、それを慈しむように撫でた。
「これはこれは……」
「ミカンの木だよ! こっちはグミで、こっちは……ザクロと、ビワと……みーんな実がなるの。ひいばあちゃんのお家に、昔、あったんでしょ」
 そこに並んでいたのは、たくさんの苗木だった。それぞれが大きな鉢の中で、まばゆいほど緑の葉を広げている。
 ひいばあちゃんはそのひとつひとつを確かめるようにじっと見ると、ふとつぶやいた。
「そうだけど、でも植える場所が……」
「それなんだけど、ばあさんの部屋から見えるベランダに置こうかなって」
 お父さんが言う。
「土に植えなくても、鉢でも世話をすれば育つらしいし、実もちゃんとなるってよ」
「そう、実もなるの……」
 その言葉を聞いて、ひいばあちゃんの頬に赤みが差した。その目はきらきらと輝いて、いまはまだ小さな苗木たちを嬉しそうに眺めている。
「実がなるのはいいわねえ。いまから育てて、いつ実がなるのかしら……まだ小さいから、今年は無理だろうねえ」
「そうだなあ」
 お父さんはもっともらしく腕組みをしてみせた。
「今年は無理でも、来年……うん、再来年くらいには、実が付くんじゃないか?」
「再来年、ねえ……」
 ひいばあちゃんは、一瞬、困ったような顔をした。千果はどきどきして次の言葉を待つ。
 この小さな苗木たちが実をつけるまでには、何年かの時間がかかるだろう。それに、きちんと世話をしなければ実は望めない。
 ひいばあちゃんに、この先何年も長生きをしてほしい。死にたいだなんて言わないで、この苗木が実をつけるまで、千果がもっともっと大きくなるまで。千果はそう願ったのだ。
「再来年くらいなら、私もまだ生きてるかねえ……」
 しばらく苗木を眺めた後、ぼそりとつぶやくようにひいばあちゃんが言う。
 やった! 千果とお父さんとお母さんは、みんなで顔を見合わせた。千果の小さな思いつきは、成功したのだ。
「そうだよ、せっかく買ってきたんだから、実がなるまで生きないと」
 ひいばあちゃんの気が変わらないうちに、とすかさず、お父さんが言う。
「そうそう、私は植木の世話なんてしたことないから、おばあさんに頑張ってもらわないと」
 これは、お母さん。最後に千果は、
「あのね、わたしもお手伝いするからね!」
「まあ、ありがたいわね。何だか、元気が出てくるようだわ」
 そう言うと、ひいばあちゃんは腕まくりをして重たい鉢をひょいと持ち上げた。そして、みんなが驚く中、それをせっせとベランダへ運び出す。
「何だか、すごく元気になったね」
 慌てて小さな鉢を持ち上げ、ひいばあちゃんの後ろ姿を追いかけながら、千果がお母さんの耳打ちする。
「本当ね。千果のおかげね」
「そうだな、よく思いついた」
 両親が、口々に千果を褒めてくれる。
「ね、いい考えだって言ったでしょ」
 得意がる千果を、一足先にベランダに鉢を置いたひいばあちゃんが振り返り、
「偉いわねえ、お手伝いして。この子は本当にいい子だねえ」
 そう言って、優しく褒めてくれたのだった。

読んでいただき、ありがとうございました。
よかったら『スキ』を押していただけると嬉しいです!

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?