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緑の指のおばあちゃん

 緑の指を持つ人がいて、これが我らが祖母である。

 これがどんなものでもジャングルのように茂らせて、地植え鉢植えなんでもござれ、月下美人げっかびじんはぽんぽん咲いて、有り難みもなく、花が咲かぬというサボテンも花をつければ、万年青おもとの実さえも毎年付く、それだというのに傍目には、特別な世話をしているようにも見えぬ、植物が好きなわけでなく、あるから育てているだけだ、と本人も忌々しく言うのだから、奇妙である。

 才能というのは、恐らくこういうことなのだろう。

 しかし、この緑の指を持つ人も、認知症と断じられ、老人ホームの世話になれば、都心にあった家からは、鉢植えばかりが一つ盗まれ、二つ盗まれ、とうとうすべてが盗まれて、盗んだ人も買った人も闇の中、育てた人を知るのは植物ばかり、もっとも大きなサボテンなどは、棘の一つも盗人に、刺してやったのではないかと思う。

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