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「未来のために」第7話


第7話 「罠」


 レオは準備室で準備を済ませるとツバサに声をかけ、一緒にコロニーの外へ出た。
「今日はどこに行こうかツバサ。僕この辺あまり詳しくないんだよな」
 いつも伊折についていっていたレオはツバサを頼るしかなかった。
「少し気になる所があります。南に五キロ行ったあたりで時々電波が出ています」
「五キロか。歩いて一時間くらいかな。まだお昼だからちょうどいいか。よし、行ってみよう」
「はい」
 レオは歩きながら教授に話しかけた。
「教授、南に五キロって何がありますか?」
『そうだな、地図で見る限りは温泉街みたいだな。サベルタ温泉って書いてあるぞ』
「わかりました。伊折にもそこに行くって伝えておいて下さい」
『了解。気をつけてな』
 

 サベルタ温泉街はとても雰囲気のいい場所だった。石畳の道で細い路地がいくつも入り組んでいて、旅館やお土産屋がところ狭しにたくさん建ち並んでいた。きっと以前は観光客や湯治の人であふれていたのだろう。レオがそう思いながら歩いているとツバサが急に立ち止まった。
「ん? どうしたツバサ」
「電波が出ています。こっちです」
 ツバサはそう言うと突然走りだして温泉街の奥へと進んで行った。
「待ってツバサ!」
 レオもポケットの中の銃に手をかけつつツバサのあとを追って走りだした。入り組んだ路地を右に入ったり左に曲がったり、迷路のようなこの温泉街ではどんどん自分のいる場所がわからなくなってしまっていた。
「ツバサ、どうなってんだ?」
 走りながら聞いた。
「わかりません。電波が動くのです。なんだか引き寄せられるような感じです」
「え?」
 レオはすぐに足を止めた。
「待ってツバサ! ストップ!」
 レオの声も耳に入らない様子でツバサはまた路地を左に曲がってしまった。レオは嫌な予感がしていた。これはもしかすると何かの罠かもしれない。
 レオは恐る恐るツバサが曲がった細い路地を覗いた。そこには真っ黒な防護服を着た男二人に体を押さえつけられ、頭に銃を突きつけられているツバサがいた。
「ツバサ!」
 ――カチャ――カチャ――
 後ろから銃をかまえる音がした。
「レオ、すみません」
 ツバサが謝るのを聞きながらレオは両手を上に挙げた。
「やっと見つけた……」
 二人の男に押さえられたレオはゆっくりと振り向いた。
「あっ」
 こちらに向かって歩いてくる男はジンが言っていた通り肌は青白く、目は真っ赤に充血していた。
「マリウス!?」
 レオは思わず名前を呼んだ。マリウスは一瞬ハッとなり立ち止まった。
「わかるのかマリウス! あなたはマリウスといってジンの親友なんだよ! ジンが心配してたよ! クロスの生き血は飲んじゃダメだ! ちゃんとした抗体を作ってるから、治療薬も作ってるから! 血は飲んじゃダメ!」
 レオは精一杯叫んだ。だがマリウスはまた歩き出してレオに近づいてきた。
「クロスの血……」
 マリウスはレオの顔を撫でるように触った。レオは必死で体を動かしたが無駄な抵抗だった。
「やめろ、マリウス! これ以上飲むと、本当に人間じゃなくなってしまうよ!」
 聞こえているのかいないのか、マリウスはレオに顔を近づけて匂いを嗅いでいた。
「血が、欲しい……」
 マリウスは口を大きく開けた。
「やめろ!」
「レオー!!!」
 ツバサが叫ぶと同時にマリウスがレオの首筋に噛みついた。そしてごくごくと血を飲みだした。
「うぁっ……」
「レオ! レオ!」
 意識が遠くなっていくレオ。ツバサは声をかけ続けた。
「ん?」
 血を吸っていたマリウスはすぐにレオの首から口を離した。レオの耳の中にイヤホンを見つけたのだ。マリウスはそれをレオの耳から取り出すと地面に落とし踏みつけた。
「連れてこい」
 ドラクレア軍はぐったりとしたレオと、縛りあげたツバサをトラックに乗せ出発した。



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