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ア•サイエンティスト

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長編小説です。
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ア・サイエンティスト②

ア・サイエンティスト②

 コーヒーの残りが半分程になった頃、ユキの背後からあのウエイトレスがやってきた。
 「お待たせしました。ブレンドコーヒーのホットです」
 「ありがとう」
 ユキは私だけにわかるように少しにやけつつ目配せをしてから、ウエイトレスの方へ顔を向け、お礼を述べた。
 「あの、ミルクはお使いになりますか?」
 「ええ、もらうわ。どうもありがとう」
 ウエイトレスは元気よく返事をして、ユキのコーヒーの横に小さ

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ア•サイエンティスト①

ア•サイエンティスト①

 注文の到着を待つ間、テーブルの右側の定位置に置いたジッポライターを手に取り、二本目の煙草に火をつける。喫茶店にまで禁煙化の波が押し寄せているせいか、以前よりも客足が増えているような気がする。この喫茶店に十何年ものあいだ通っている身としては、ここにおいて自分が古参であることの優越感よりも、店内が少しばかり騒がしくなってしまったことに対しての落胆の気持ちの方が大きい。黄ばんだガラスの灰皿に灰を落とす

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