くろねこ

小説を書いております。読んでいただけたら幸いです。

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ア•サイエンティスト①

 注文の到着を待つ間、テーブルの右側の定位置に置いたジッポライターを手に取り、二本目の煙草に火をつける。喫茶店にまで禁煙化の波が押し寄せているせいか、以前よりも客足が増えているような気がする。この喫茶店に十何年ものあいだ通っている身としては、ここにおいて自分が古参であることの優越感よりも、店内が少しばかり騒がしくなってしまったことに対しての落胆の気持ちの方が大きい。黄ばんだガラスの灰皿に灰を落とすついでにジッポライターの隣に置いた腕時計に目をやる。午後四時を回ったところだった

    • ア・サイエンティスト②

       コーヒーの残りが半分程になった頃、ユキの背後からあのウエイトレスがやってきた。  「お待たせしました。ブレンドコーヒーのホットです」  「ありがとう」  ユキは私だけにわかるように少しにやけつつ目配せをしてから、ウエイトレスの方へ顔を向け、お礼を述べた。  「あの、ミルクはお使いになりますか?」  「ええ、もらうわ。どうもありがとう」  ウエイトレスは元気よく返事をして、ユキのコーヒーの横に小さなミルクピッチャーを置いた。ユキを見ると、鼻の穴を広げ、勝ち誇ったかのような表情

      • 仮面

         「止まない雨はない」 これほどまでに気休めに過ぎない言葉はない。このようなことを言う者達は決まって皆、希望に満ち満ちたような間抜けな顔を一ミリも乱さず並べているものである。 降りしきる雨の中、こんな事を考えながら、あてもなくただひたすらに歩き続けることがいつしか日課になっている。  五日前、ついに仕事を首になった。仕事とは言っても、だれにでもできる単純作業だ。たいしたことではないと自分に言い聞かせてはいるが、止まない大粒の雨が無情にも身体を打ち付ける度に胸が痛い。 「明日

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