ア•サイエンティスト①
注文の到着を待つ間、テーブルの右側の定位置に置いたジッポライターを手に取り、二本目の煙草に火をつける。喫茶店にまで禁煙化の波が押し寄せているせいか、以前よりも客足が増えているような気がする。この喫茶店に十何年ものあいだ通っている身としては、ここにおいて自分が古参であることの優越感よりも、店内が少しばかり騒がしくなってしまったことに対しての落胆の気持ちの方が大きい。黄ばんだガラスの灰皿に灰を落とすついでにジッポライターの隣に置いた腕時計に目をやる。午後四時を回ったところだった