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彼女の春巻き(4)

この小説は、過去にTwitterで上げた140字短編小説を書き直したものです。


彼女の春巻き(4)

「お待たせー、ご飯出来たよ!」

小さなダイニングテーブルに所狭しと料理が並ぶ。
マヨネーズで炒めた海老、細切りのハムが入ったモヤシのサラダ、溶き卵の中華スープ、そして『春巻き』。

大皿にドンと積まれた長方体。ホクホクと湯気が立ち上る黄金色のそれ・・を見て、僕は自分の勘違いを知る。

(あー、春巻きって、これかっ!)

言い訳ではあるけれど、実家で食べる中華料理って餃子と炒飯ぐらいでさ、『春巻き』なんて本格的な中華料理には馴染みが無かったんだ。

僕は急にバツが悪くなる。
そりゃあそうだ、料理が何たるかも知らない僕が、「茹でて盛り付けのサラダ」ーーだなんて、彼女の得意料理を見下していたんだから。

想像とは違う美味そうな料理が出て来た嬉しさと、彼女への申し訳無い気持ちがせめぎ合い、何だか複雑な心境だ。

「ほらほら、揚げたてが一番なんだから。頂きまーす!」

そんな僕を他所に、彼女は出来上がったばかりの『春巻き』に手を伸ばす。

ーーパリパリッ

スナック菓子みたいに軽快な音を立ながら『春巻き』を頬張った彼女は、「うんうん」と満足気に頷くと、急かす様に僕を見る。

「それじゃあ、頂きます!」

ーーパリッ

「……これ、凄く美味しい!」
「でしょー!」

パリパリっとして、熱々の美味しさが詰まった餡がとろりと口の中に溢れてくる。
料理の事はよく分からないから何と表現して良いか言葉が出ないけれど……兎に角この日から、僕の好物が「彼女が作る春巻き」になったんだ。

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