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彼女の春巻き(7)
この小説は、過去にTwitterで上げた140字短編小説を書き直したものです。
彼女の春巻き(7)
明日は僕の誕生日。
妻が「何か欲しい物ある?」と聞いてきた。
ーー珍しい。
ここ数年は僕の誕生日が過ぎた後、「あっ、そういえば先週誕生日だったんだね、おめでとう」なんて言われるのがデフォだったのに。
(欲しい物、欲しい物か……)
そう言えばもう財布がボロボロだな。いや、それよりもいい加減冬物のコートを買い替えた方が良いかも?
しばらく考えて僕は言った。
「えっと、『春巻き』が食べたいかな」
「そんなのでいいの?」
妻は少し驚きながらも快く了承してくれた。
手間が掛かるからーーと、断られると思っていたのに。余りにアッサリと了承された事に、僕は何だか拍子抜けしてしまった。
(何年……いや、何十年ぶりだろう)
あんなに美味しい『春巻き』だが、実は野菜嫌いな子供達には人気が無く、筍の僅かなエグ味が嫌いと言われた日から、『春巻き』が食卓に登場する事は無くなっていたんだ。
(もう少し大人になれば、あの美味しさにも気付くんだろうけど……)
ーーともあれ、つまり今回妻が作る『春巻き』は、完全に僕だけの為に作ってくれる『僕専用春巻き』と言う事になる。
そう考えると、「年寄りへの階段を一段登る」只それだけの虚しかった誕生日が、何だか待ち遠しく思えてくるのだから不思議なものだ。
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