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溟海に降るセルロイド

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あたしはチョビコとして生きていくしかない。 だからお願い、惑わせないで。 10話完結 読み切り 短編小説 41000文字程度 多少の性的・自傷表現含みますので苦手な方はお控え… もっと読む
このマガジンは10話完結の読み切りです。それ以上の課金・更新はありません。第壱話→ONE→第弐話→… もっと詳しく
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記事一覧

溟海に降るセルロイド:第壱話

あたしは ココに居る意味も ココから抜け出す出口も 持ち合わせて居なかったんだ。 dear… 突然手紙なんか書いて悪ィ… もし読みたくなかったりしたら捨てちゃって構わねーから。 ……。

溟海に降るセルロイド:ONE

あたしの身体は 水中を漂う稚魚か 又は孤高に高鳴る絶叫か 忌わしい性器は惨殺した死物か  ガシャン。  大きな物音と共に、注がれていた麒麟生ビールが床にこぼれ出した。いつも目にしている茶色い瓶は無残にも破片と化し、廊下の至る所へ炭酸混じりの黄色い液体が溢れた。

溟海に降るセルロイド:第弐話

生まれついた意味? 存在する理由? そんなの全部要らないじゃん。 あたしとそこに在る物だけでいい。 dear…チョビコ つーか… ぜってー手紙読んでねーだろ、お前…。

溟海に降るセルロイド:TOW

寂しさも孤独も、愛も嘘も あたしは感じない。 それなのに君は あたしの心を掻き乱すんだね?  裏通りにある小さなプールバー「DOLLS」でバイトを始めたのは、1ヶ月前。店の中はあたしの好きなピンクや紫のエロティックな照明で彩られており、壁は一面真っ黒で、所々に怪しげな白のタトゥーが貼ってあった。  DOLLSという店の名に因んでなのか、バーテンは皆女だ。それも可愛らしいフリフリのドール服を着ているので、ロリ趣味の客に人気なのだろう。奥にあるビリヤード台は、この店の中であたし

溟海に降るセルロイド:第参話

無機質な機械に想いを馳せ 君の鼓動は孤独か 君の流動は孤独か 君の差し伸べた手も孤独か dear…チョビコ あれから音沙汰も無く俺はそれでも待ち続けているけど。 お前バイト忙しいの? つか今どんくらいバイト掛け持ちしてんだよ?

溟海に降るセルロイド:THREE

騙される貴女が、 一番馬鹿馬鹿しいの。 そうやって何時までも 純粋ぶって居るのが赦せない。  シャアアアァァァァァ……  タイル張りの床に、シャワーから零れた水流が無残にも散った。あたしは何もない空間を睨み付けるようにして、無言でシャワーを浴びる。

溟海に降るセルロイド:第肆話

白銀の胸中に眠るは 言葉の呪縛か又は 漣に導かれた白狼の 朧気な残像か dear…チョビコ 雪が降ってきたんだ。 どーりで寒みぃと思ってたんだよなぁ… 吐く息まで真っ白で、俺は雪と同化してんじゃねーかって そんな妄想までし出して。

溟海に降るセルロイド:FOUR

鳴かない鳥は鳥篭に要らない。 啼らない電話は持たない。 泣かない女は強くなれない、 それなら何故孤独なの?  ポロン  古惚けたアパートの、質素な部屋の中に、ギターの音が響き渡る。 剥き出しのコンクリートの床の上に座り込み、あたしは只管、コードを奏でて居た。

溟海に降るセルロイド:第伍話

現実は何時も儚い。 人の見る夢が余りに酷で 活動を停止しようとしても。  キシっ… 沈むソファ。 べとつく髪の先から仄かなブランデー。 吸い込まれる、その瞳。  空気が制止した中で、あたしは1ミリだって動く事が出来ずに、呼吸さえ侭ならない。

溟海に降るセルロイド:FIVE

人形の器にはセルロイドの心。 可愛がられたその子も飽きられ また恋をして、捨てられて それでも忠誠を誓う。  週末のDOLLSは、カウンターもボックスも見知った顔で並んでいた。鮮やかに彩られるフルーツカクテルに光るミラーボールのような氷に、あたしは今にも溶けてしまいたい程、心は灰色にくすんでいた。