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#008 開票作業に学ぶ「疑問票」というシステム

短期集中&人海戦術の仕事を効率的に進めるための役割分担のシステムとは?

まちづくりに携われる仕事という希望を持って、生まれ育った故郷にUターンして就いた仕事を退職してから約1年になります。
実家暮らしになって家賃はかからないとはいえ、生活のために短期や単発の仕事でなんとか喰いつないでいますが…。

いくつか経験したのはいずれも特定の時期に集中する業務を、短期の勤務が可能な経験の浅いスタッフを集めて人数で捌くというような仕事。
それでいてミスは許されず確実な作業が求められるという業務内容でした。

キノコの出荷選別場に例えてみます

立場的に守秘義務のある仕事も含まれているので具体的には触れませんが、これらの仕事を「秋のキノコの出荷選別場」の流れで例えてみたいと思います。

例えば実りの秋のシーズンに、山で採れた様々なキノコが次から次へと大量に選別場に運ばれてくるとします。
これらを新鮮なうちに品種ごとに選別して、少しでも早く市場に出荷しなくてはなりません。

ただし運ばれてくるのは種類もバラバラで、素人が片っ端から採ってきたものばかり。
誰でも見たことのあるポピュラーなキノコから、滅多に見ない超レアな種類のものまで種類も割合も入り交じっている状態。

さらに食べられるキノコだけでなく、食べられない種類や、猛毒を持つ毒キノコも含まれています。
数は少ないとはいえ間違って出荷する事は絶対に許されません…。

さて、この大量のキノコをどうやって選別するのが効率的でしょうか?

選挙の開票所にある「疑問票」という“いちごパック”

実はこういう大量の仕事を、絶対に間違うことなく短時間の人海戦術で確実に行われてきた仕事があります。
それが選挙の際に必ず行われる開票作業です。

今でこそ規模の大きい自治体では自動読取機で票の仕分けや集計が行われるようになりましたが、一昔前や小規模な自治体だと役場の職員が総動員されて開票作業に当たったりしますね。

選挙なんてそもそも任期ごとの数年に一度だし、改選があっても無投票で選挙自体がなかったと思えば、突然の解散で予定外に急に行われる事になったりもするもの。

自治体もこれだけのために常に職員を雇っておく事はできませんよね。
とはいえ選挙の公平性を考えると、外部から短期のアルバイトを雇う訳にはいきません。

そこで普段は別の仕事をしている役場の正規の職員を投開票作業に総動員するわけですが、その職員でも普段の仕事は事務系で書類の扱いに慣れた人から技術系で事務処理に不馴れな人と様々なのです。

選挙の場合、例えば候補者の名前の漢字が違ったり同姓の候補者がいるのに苗字だけ書かれている票をどう扱うか等は、きちんとルールが決まっています。
ただし開票作業を行う職員全員にこういうルールを事前の研修とかで徹底して覚えさせたりするようなことはしないんですね。

そういう、開票ルールに関しては素人の職員も含めて一斉に開票作業に臨む訳ですが、そこにあるヒントが「疑問票」と書いてある保留扱いの投票用紙を入れる「いちごパック(※)」なのです。
※投票用紙のサイズがちょうど収まることや、透明で中が見えて重ねると保管にも軽くてかさばらず安価なため、開票所では必須のアイテムです

そもそも投票箱から出てくる投票用紙は大部分はきちんと候補者名が書かれているはず。
そこで開票作業の応援に来た不馴れな職員には、誰でもわかる確実な投票用紙だけを仕分けてもらい、判断に迷うものは「疑問票」のパックに入れて保留にして下さいというシステムなのです。

その後にこの疑問票だけを集めて選挙の開票ルールに詳しく慣れた職員が専念して振り分ければ、経験の有無の差や人数が少なくても全体として開票作業がスムーズに進むというシステムなんですね。

どうやって効率的にキノコを選別するか?

それでは先のキノコの選別場のようなシステムを構築しようとした場合、どうしたら効率的に選別ができるでしょうか?

ここで良くやりがちなのが「全てのスタッフに完全な選別作業を求める」というやり方。
作業に携わる全員にポピュラーな種類から超レアなキノコまで完全に見分ける能力と、絶対に毒キノコを出さない完璧さを要求するパターンです。

ただ短期間の求人なのに、全員がレアな「きのこ鑑別士(※)」の資格を持っているような優秀なスタッフを何十人も集めたり雇うことは現実的に不可能ですよね?
※説明上の架空の資格です(なお「きのこマイスター」という資格は実在します)

仮にスタッフが確保できたとしても、給与といった待遇面に相当費用をかけなくてはならならなくなります。

次に良くあるのが、雇ったスタッフを集めて事前に何十時間もかけて座学とかでキノコの種類や見分け方を徹底して教え込もうとするパターン。
まぁそのスタッフがその後も長期で継続的に働くのであれば考えられなくはないのですが、短期間の雇用であれば研修にかかる手間や費用の方がかかるし、時間をかけて超レアなキノコのケースまで教えたのに、結局は任期中に見ることすらなかった…なんて事も出てくるでしょう。

さらに毎日のようにキノコを扱っている方は当たり前だと思っていても、実はアルバイトに応募してきた素人は“タケノコ“や”ワラビ”もキノコだと思っているかも知れない人達なのです。

そんな山菜とキノコの区別すら迷うような新人に、最初から何十種類もあるキノコの特徴を覚えさせてもそれだけで精一杯になったり、“絶対に毒キノコは入れられない!”というプレッシャーから負担に感じて仕事が嫌になったり効率良く作業ができなくなったりもするはず。

ではどういうシステムにすればいいか?
それが選挙の開票作業と同じ、スタッフごとのスキルに応じた「役割分担」だと思うのです。

まずは新人の短期アルバイトには誰にでも判別できて割合も多い“シイタケ”とか“シメジ”の見分け方だけを教えて、運び込まれた大量のキノコの中からそれだけを取り出してもらう。
判別できないキノコには手をつけずにスルーして、そのまま次の工程に流してもらえばいいのです。
するとこれだけでも大部分がピックアップされて全体量が少なくなるはずです。

それを次の工程で少し判別が複雑な“マイタケ”とか数の少ない“マツタケ”を少し慣れたスタッフが仕分けて、さらに残ったキノコを「きのこ鑑別士」のようなベテランが仕分ければ、少ない人数や経験値の差があっても効率良く選別作業が進むシステムになると思うんですよね。(^_^)

誰だ、コレを「疑問票」に入れたヤツは!

選挙の開票は作業効率と処理スピードを優先するため、もし明らかに誰でもわかる投票用紙が「疑問票」のパックに入っていたとしても、それを誰が入れたかを探されたり、なぜ入れたかを問いつめられることはありません。

ただ…せっかくスキルに応じた役割分担のシステムができても、仕組みを理解できていないスタッフがいると良く起きる事があるんですね。

それが先のキノコ選別場で例えれば、後半のベテランスタッフのところに流れてきた“シイタケ”を持ち出して、前の工程の新人に対して「コレどう見てもシイタケだよね?そのまま流したの誰?ちゃんと見てるの?」みたいな追及をしちゃうこと。(^^;

ただでさえ経験の浅い新人がこういう指摘をされるとますます混乱してしまうし、今度は見逃さないようにする方に神経を使って負担になったりして、せっかく効率化したはずの役割分担がまた非効率になっちゃったりするんですよね…。

時給よりも「働きやすさ」が「人材確保」につながっているのを実感しました

「同一労働、同一賃金」なんて言葉を聞くようになって久しくなりますが、私はこのキノコ選別場のようなシステムの場合は「異労働(責任)、異賃金」で良いと思うようになりました。

短期のアルバイトには「シイタケを仕分けるだけの簡単なお仕事です♪」で募集して、それに応募してくる人がいる賃金に設定すれば人数も確保できる。
そして次にサポートするベテランスタッフの待遇をそれなりにプラスしておけば、同じ時給ではないので「このシイタケ見逃したの誰?」みたいな不満も減ると思うのです。

逆にリーダークラスの人から「こっちの方がお給料高いんだから、面倒な物は遠慮せずに回してもらっていいよ!」なんて言ってもらえたら、気持ちも楽になるしお互い仕事がやりやすいですよね?

ちなみに狭い田舎でこういう繁忙期の短期の仕事を引き受けてつないでる人達って、実はお互いにネットワークを持ってたりするんですね。
だから短期の募集の情報とかがすぐに伝わる反面、去年の経験者の話とかも聞けるので、今年は時給も高いのに応募が少なくて人が集まらなかった…みたいな話も耳にしました。

そういう意味も含めて、私自身もいろんな業界に触れられていい経験をしたかなとは思っています。(^^;

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