黒河一途

小説ときどき4コマ漫画。 小説『マジカル・マジック……』連載中→休止中:https:/…

黒河一途

小説ときどき4コマ漫画。 小説『マジカル・マジック……』連載中→休止中:https://note.com/kurokawakazuto/n/n7cc063001681

最近の記事

【短編小説】あと5km敗北フラグ立ちました

「暮井暮高校!!」 「羅須戸屋高校!!」 先頭2校の名前が呼ばれると、中継所が歓声に包まれた。 ベンチコートを脱ぎ捨ててコースに駆け出した翔の身体に、11月の冷たい風が全身へ吹きつける。 いくらウォーミングアップで身体を温めようと冷たいことに変わりはない。 年末の全国大会はこんなもんじゃないんだろうな。 そんな自分の考えに気づき、翔の顔に自嘲的な笑みが漏れた。だって、全国大会はテレビで見るものなのに。 中継所の真ん中からコースに目をやると、200mほど先に二人の選手が

    • 【やる夫スレ】「神様のコールドゲーム」の感想

      「神様のコールドゲーム」(2020年5月17日)  甲子園決勝で帝王高校に惨敗したやらない夫。あとは整列して終わり――のはずだったのに、気が付いたらプレイボールの瞬間に戻っていた。何度も何度も巻き戻り、何度も何度も敗北をつづける時間の中で、やらない夫の頭にはかつて病室でした幼馴染との約束があったのだった――。  2020年5月に開催された世界の終わりの短編祭にて投下された短編。やらない夫の幼馴染は紲星あかり。  世界の終わりというどうしようもない現実にどう向き

      • マジカル・マジック…… その35

        世界は『そういうこと』で満ちている。 普段はお母さんお父さんと呼び合っている両親が歩のいないところでは名前で呼び合っていることや、同級生が初見で軽々こなす逆上がりを歩がどれだけ練習してもできなかったことや、いつの頃からか彩のことを考えると胸が苦しくなるようになったことや、情報の授業で最初から入っているはずのフォルダが歩の端末にだけ入っていなかったことや、今回こそは真面目に勉強しようと思っても気が付いたらマジマリのことばっかり考えていたことや、そもそも歩自身がこの世に存在して

        • マジカル・マジック…… その34

          空中要塞『ナイ・クッシ』。 世界征服をたくらむ秘密結社『ブリゴーン』がその総力を挙げて作り上げた巨大兵器である。全長5キロメートルを超える内部には数十万の機械兵と飛行兵器が搭載されており、大都市をもたやすく制圧する能力を誇る。 「ほんと、男子って好きだよねこういうの。むやみに大きくて、数が多くて」 隣に座ったマリカがぶつぶつ言っている。 一時は日の光を遮るほど飛び回っていた飛行兵器たちも宿敵の攻撃によりみるみる数を減らし、残りわずかとなっていた。要塞本体が丸裸となるの

        【短編小説】あと5km敗北フラグ立ちました

          マジカル・マジック…… その33

          真っ白な答案用紙、消せない閲覧履歴、宇宙人と知り合いだから、先生はママじゃありません、鼻でスパゲッティ食べてやる、オレたちの戦いはこれからだ……。 いき……が……くる……しい……。 どうして人間は過ちを繰り返すのか。歩は嘆かずにいられない。 しん……ぞう……が……いた……い……。 スポーツテストで思い知ったはずだったのに。持久走はペース配分が大切だと。 膝につこうとした手が滑り、道端に倒れ込んでしまった。もはや立ちあがる気力もなく、そのまま塀を背に座り込むと、アスフ

          マジカル・マジック…… その33

          マジカル・マジック…… その32

          夏休み。 海水浴。 肝試し。 甲子園。 シンクロナイズドスイミング。 ボーイ・ミーツ・ガール。 真夏の大冒険。 夏という季節には、それを目前とした人々に漠然とした期待を抱かせる魅力がある。ことさら学生にとっては。 『この夏、キミは変われる』 普通に身近にいるような気がしながらよく考えたら学校に一人も存在しない美少女が青空の下で微笑んでいる夏期講習のポスターに書かれていそうなキャッチコピーが壁に貼られていた。書初め用紙へ大胆な筆遣いにより表現されたそれは、書き手が「キミは

          マジカル・マジック…… その32

          【短編小説】心理テスト

          こんな夢を見た。 「ここはことばの墓場よ」 女が言うのだ。若いようにも、還暦を過ぎたようにも見える女だ。 女の足元には、ことばが無数に転がっていた。見たことがなくもないような、どこか懐かさも覚える、ことばの切れ端が。それは墓場というにはあまりに無秩序すぎた。だが何かに似ている。そうだ、河川敷に似ているのだ。花火大会の翌日の、破裂した玉の破片が無数に転がっている、あの河川敷の光景に。 「何をそんな顔しているの? あなただって楽しんだでしょう?」 思わず顔をしかめた私を

          【短編小説】心理テスト

          【短編小説】祖母とミコト

          これからの時代は男も女も強くなくては生きていけない。 それが口癖だった祖母には、ジュードーだとかケンドーだとかありとあらゆる格闘技を教え込まれた。 「ユカリ、立ちなさい」 疲れ果てて仰向けに倒れ込んだ私を見下ろす祖母の目を覚えている。弱っている孫に対する愛情が一切感じとれない、冷たい目。 「ほんとにだらしない。苦労を知らないからだよ」 そうして祖母が昔したという苦労をとうとうと聞かされるのが常だった。今思い返すと年寄りのありがちな愚痴なのだが、当時の私にはすごいこと

          【短編小説】祖母とミコト

          マジカル・マジック…… その31

          「僕は、マリカさんになりたかったんだ」 歩の言葉にマリカが「そっか」と息を吐く。 強く、優しく、美しい魔法少女、虹谷マリカ。どんな困難にも怯むことなく立ち向かい、道を切り開く。そんな存在に自分もなりたかった。だけど…… 一色歩は虹谷マリカになれない。 ずっと前から理解しつつ、目を背け続けてきた事実。そして、その事実を受け止めた今なお、胸に湧き上がってくる気持ちがある。現実のつまらなさとか、自分の弱さとか、虹谷マリカへの憧れとか、様々な要素が混ざり合うことで輪郭がぼやけ

          マジカル・マジック…… その31

          マジカル・マジック…… その30

          「なにさ、突然」 マリカが歩を睨む。でも、その顔に虹谷マリカ本来の生気が戻っていることは歩にもわかった。 「わからない……でしょ? 言わなきゃ」 マリカの目がもう一度丸くなった。でもまだだ。まだ言いたいことは全然言えてない。 「僕はさ、えっと……まあ、うん……だめなヤツだと思うよ」 どうにか絞り出した歩の言葉を、マリカは黙って聞いていた。虹谷マリカは即座に「そんなことないよ」などと言ってくれる存在ではない。もちろん、歩もそんな慰めは期待していなかった。 「いつの間

          マジカル・マジック…… その30

          マジカル・マジック…… その29

          歩の指は、虹谷マリカと寸分たがわぬ軌跡を描き続けた。しかしその指が魔法を発動することはついになく、1272種の魔法を唱え終えた歩はベッドに倒れ込んだ。 歩の心に徒労感だけを残し、部屋に静寂が訪れた。 自分の人生みたいだ。歩の口元が自嘲的に歪む。 何百時間か、あるいは何千時間だろうか。在りし日の歩が魔法の練習に費やした時間は。その成果としてマジカル・マジック・マリカにこれまで登場した1273種の魔法を歩は空で唱えられる。もちろん、効果もすべて把握して。 「バカだろ、こん

          マジカル・マジック…… その29

          マジカル・マジック…… その28

          マジカル・マジック・グランドクロス、マジカル・マジック・ボルケーノ、マジカル・マジック・プラネットコアクラッシャー、マジカル・マジック・フィストファイト、マジカル・マジック・ハドウホウ、マジカル・マジック・プリンセスエイト、マジカル・マジック・イオナズン、マジカル・マジック・メテオストライク、マジカル・マジック・ハドウケン、マジカル・マジック・レールガン、マジカル・マジック・グレネード、マジカル・マジック・キズグスリ、マジカル・マジック・アトミックボム、マジカル・マジック・ハ

          マジカル・マジック…… その28

          マジカル・マジック…… その27

          きっかけは何だったのか。 怒りと憎悪と悲しみと、安堵と歓喜と爽快と、惜別と喪失と脱力と、正負濃淡強弱入り混じる感情に翻弄された歩の思考は、やがて父の転勤へと行きついた。 転勤による転校がなければ、彩と疎遠になってしまうことも、他人と話すことに臆病となることもなかったのだ。朝礼で彩に話しかけられたときにもっと気の利いたことも言えたかもしれないし、ドッジボールで彩を守ったのは自分だったかもしれない。遊園地では男らしくリードできたかもしれないし、山林と付き合い始めたと聞いたとこ

          マジカル・マジック…… その27

          マジカル・マジック…… その26

          精一杯の敵意と威嚇の意味を込めて、歩がマリカをにらみつける。でも、マリカはまったく怯む様子もなく部屋に入ってきた。 「彩ちゃんが山林と付き合い始めたってさ」 「うん、聞いたよ」 「知ってたの?」 「アインで相談されてたから」 「なんで言ってくれなかったの?」 「言えるわけないでしょ。ひみつの約束だもん」 「僕、彩ちゃんのことが好きだったんだ」 彩の前で言えなかった言葉は、こんなときにはすんなりと喉を通った。マリカが初めて歩の言葉に反応を見せ、唇を引き結ぶ。 「……知らな

          マジカル・マジック…… その26

          マジカル・マジック…… その25

          負け犬に未来などない。 誰がどんなきれいごとを言おうと、それがこの世の真理だ。 ヒロインを射止めた主人公へ敗北したライバルに幸せな結末が必要か? そんなはずないだろう。舞台から転げ落ちたあとはできる限り惨めな末路を辿った方が主人公たちの幸せが映えるというものだ。 「負け犬じゃないよ。キミは負けてなんかいない」 うずくまっている歩のもとに、制服姿のマリカがやってきた。見るものすべてを見透かすような瞳。かすかに茶色がかった、艶のあるショートボブ。上品な印象を与えるキャメル

          マジカル・マジック…… その25

          マジカル・マジック…… その24

          「いやあ、意外だね」 「すごい、向こうからなんだ」 「ああ、なるほどねー」 これら歩の言葉は自動返信によってなされたものである。歩の心の防御機構が反射的にその主体を奥底にしまい込み、表面的に違和感のないやり取りをこなす機能のみを残したのだ。 クラスメイトがクラスメイトと付き合いだした。あまり自分には関係ないけど喜ばしいことだ。そういった距離感の友人の心情を設定し、自分が彩に好意を持っていることは厳重に封印した。 そして永遠とも感じられるそのやり取りが終わった後、表層へと

          マジカル・マジック…… その24