見出し画像

「ESG=投資撤退」ではない

前回取り上げたノルウェー政府年金基金は「投資撤退(ダイベストメント:divestment)」の活動で注目を集めることが確かに多いです。実際、先月の日本経済新聞の記事では石炭火力発電比率の高い日本の電力会社6社から資金を引き上げたことを取り上げています。

日本ではESG要因を理由にした投資撤退が必ずしも一般的ではないため、大きく取り上げられがちですが、すべてのESG投資で投資撤退が行なわれるわけではありません。同基金が石炭火力発電による環境影響への危惧というESG要因を撤退の根拠にしたということは、確かに特徴的ではあります。しかし一般に投資撤退は今後収益性が見込めない、もしくは収益に大きなリスクに直面していても対応が不十分と判断した企業から投資を引き上げるということであり、ESG投資でなくても一般的に行なわれている慣行です。

同基金は他の3つのESG投資手法も用いて運用を実施しています。第一にポジティブ・スクリーニングで、ESG要因を将来収益に対するリスク要因として捉え、その対応に優れている企業に投資をするというものです。同基金が注目しているESG要因は児童の権利、水利用、気候変動の3テーマであり、それぞれ特に影響度の大きいと見られる業種の時価総額の大きい銘柄に対して、銘柄選定を行っています。

第二にエンゲージメントで、ESG要因を将来収益に対するリスク要因として捉える点はポジティブ・スクリーニングと同様ですが、その対応が不十分と見られる企業に対して対話を通じて変革を促すというものです。エンゲージメントのテーマはポジティブ・スクリーニングより広範で、ESGそれぞれについて以下のようになっています。

・環境(E):気候変動、森林伐採、投融資における考慮、水利用
・社会(S):児童の権利、人権、納税の透明性
・ガバナンス(G):取締役会構成、汚職リスク低減、CEO報酬

最後はテーマ株投資で、ESG要因を収益機会と捉え、ESGリスクの軽減に有益と見られる企業へ投資をするというものです。特に同基金が注目しているのは環境ソリューションで、1)低炭素エネルギー・代替エネルギー、2)クリーンエネルギー・省エネ技術、3)自然資本マネジメントの3テーマについて銘柄選定を行っています。この3テーマは前回の保有割合でみた日本企業の上位100社から推測されるテーマと類似しており、実際この投資手法においては保有銘柄上位に日本企業の名前が散見されます。

投資撤退だけがESG投資ではないことを念頭に置きつつ、ESG投資家と上手に付き合っていただきたいと思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?