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とある科学の馬鹿理論

夏です。暑いです。もう嫌です。気温がうなぎ上りです。うなぎ上りってこういうときにも使っていいんでしたっけ?
もう毎年毎年「暑くて溶けちゃう」とか「夏なんか嫌いだ」とか言ってるんで、もういい加減僕も言いたくないんですけども仕方が無いですよね。
暑いのも夏のせい。日が長いのも夏のせい。呼んでもないのに家に虫が出てくるのも夏のせい。娘に理不尽にキレられるのも夏のせい。自転車のチェーンが妙にガチャガチャ言ってるのも夏のせい。Twitterのスペースを聴こうとするのに僕だけが音が一切聴こえなくて、しかも何故か退出も出来ずスマホごと再起動せざるを得なくなるのも夏のせい。洗濯物干した直後ににわか雨が降りだすのも夏のせい。とは言え、寒いのも嫌なのでいっそ冬も嫌いになってきたのも夏のせい。全部全部全部夏のせいなのです。

どうにかならないのでしょうか。どうにもならないんですよね。知ってます。もう四十年弱この不毛な自問自答を続けてきました。でも、やっぱり諦めきれません。みんなで頑張って考えたらどうにかなるでしょう。だって令和ですよ。掃除機すら自力で掃除する時代です。
「こうだったらいいのにな」
「ああなったら便利なのにな」
過去にそういった数々の問題を人類は経験と知恵で克服してきました。
そう。“科学”と呼ばれるそれです。
地球温暖化を防ぐとかそういうのも大切ですが、そうじゃなくてもう今。今すぐ。即効性のある解決策が欲しいのです。

例えば、日本列島に大きなドーム型の何かを被せて内部はエアコンをガンガンに効かせるのはどうでしょうか。すごく快適だと思います。
『暗くて何も見えなくなるじゃないか』ですって?
わかりました。じゃあ超明るいLEDのなんかでっかい照明を100個設置しましょう。これで問題ありません。
『日光がないと植物が育たない』ですって?
わかりました。ドームを透明のプラスチックにしましょう。これで日光は地上に降り注ぎます。
『風がないと困る』ですって?
わかりました。エアコンの風向きの設定をいじって適度に風が来るようにしましょう。
『換気とかはどうする』ですって?
あー換気扇かなんか付けりゃいいんじゃないかな。
『飛行機とかはどうする』ですって?
飛行機がぶつからない高さのドームにすりゃいいんじゃない?
『国際線はどうする』ですって?
鎖国だよ、鎖国。その方がいろいろシンプルじゃん。
『食べ物とか輸入品はどうする』ですって?
国内での生産量を上げりゃいいじゃない。頑張れよ。俺も頑張るよ。
『頑張れ頑張れって無理だよ』
無理だと思うから無理なんだよ。試したの?一回試してみてからだろ。
『……あなたいつもそう』
何が。
『私のことなんて何もわかってくれてない』
わかってるよ。
『わかってないよ』
あのさ、そんなことを言い争ってる時間が無駄なワケ。
『ひどい』
ひどくない。
『そんなんじゃこれから先やっていけないよ』
うるさいな。
『私だって大変なんだよ、仕事だってしてるし』
俺だって仕事してるよ。でも家のことだっていろいろやってるじゃん。何もやってないみたいな言い方しないでほしいんだけど。
『そんなこと言ってない』
そう言われてるような気がするんだよ。どうせ役立たずとか思ってんだろ。
『ちょっと、私がそんなこと言ってるって本気で思ってるの?』
……そんな風に思うほどお前のこと嫌いじゃねぇよ。
『えへへへへー』
えへへへへー。ヘーイ!ヘーイ!
『……』
ハイタッチしろよ。俺ずっと手ぇ出してるだろ。ここハイタッチするところだぞ。
『おい、お前すべったな』
お前だよ。俺ちゃんとやってんだろ。お前の代わりによ。黙ってろよもう。
『ウィ』
とにかくね、日本全体をエアコンで涼しくするのが一番いいと思うんですよ。寒いくらいに。
『寒いのはお前だろ!』
お前だよ寒いのは。エアコンいらねーじゃねぇか。会場冷え切ってんだよお前のせいでよ。
『おい、お前本気でそう思ってんのか?』
いや、本気で思ってたらお前と一緒に漫才なんてやってねぇよ。
『えへへへへー』
えへへへへー。
『バーイ』


違う違う違う。途中からオードリーの漫才みたいになっちゃった。こういうことがしたかったんじゃないんです。科学の話です。

じゃあ、地球の自転をうまいこと変えて日本が涼しくなるような感じのそれにすればいいんじゃないですかね。
『生態系が崩れる』ですって?
それはなんかでっかい船とかで一気にさ、こう、事前に適したところに運べばいいじゃん。地球上で総入れ替えみたいにさ。
『それこそ世界レベルの食糧問題を引き起こす』ですって?
だから、それを一回みんなで話し合ってだね。
『話し合い、話し合いってうまくいかないよ』
やってみないとわかんないじゃん。
『わかるよ。誰だって貧乏くじなんか引きたくないもん』
持ちつ持たれつだからさ。こういうのは。
『持ちつ持たれつ……』
そうそう。お互いにさ、不足しているものは補って、逆もまた然りみたいなね。そういうのでいけるんじゃないかな、つってね。ええ。
『餅とカツレツ』
美味しいですよね。両方とも。組み合わせがね。なんか微妙な感じですけども。あるのかな?そういう地方ならではの食べ合わせみたいなね。ええ。
『オチ見つからず』
誰のことですかね。僕は全然見えてますけどね。この記事のオチも。全然迷子になんてなってないですけども。そう言われちゃうと、ちょっと心外ですけどもね。ええ。
『落ち着かないやーつ』


だから違うんだってば。途中からハライチの漫才みたいになっちゃったじゃん。こういうことがしたかったんじゃないんです。科学の話です。

じゃあ、こうしましょう。四季とかやめましょう。もう夏って言葉を失くしましょう。それが一番いい。
『根本的な解決になってない』ですって?
いやいや、気の持ちようっていうか。そういうのって馬鹿に出来ないと思うんです。意外と。
『でもどうせならハッキリさせてよ』
そんなこと言われてもなぁ。手掛かりとかもないし。
『いや、うちのオカンがな、ちょうどええ気温の季節を忘れたらしいねん』
そうなの?じゃあその季節のこと教えてよ。
『なんかな、読書とか芸術とか食欲が盛んになるらしいねん』
それは、秋やないか。秋は確かにええよ。暑くもなく寒くもないし。決まりや、秋やな。
『いや、それがな。オカンが言うには、焼き芋との組み合わせは最悪やって言うてんねんな』
ほな、秋と違うかぁ。焼き芋と秋は稀に見る名コンビやからね。えー、もっとなんか言うてなかった?
『よぅ知らんのに、ついうっかりツレの誘いでライブなんか観に行ったら、十五歳の時の自分に宛てた手紙の歌を合唱させられる感じらしいねん』
秋やないか。アンジェラ・アキや、それ。あれビックリすんねん。俺全然詳しないし、その曲しか知らんし、しかも最初のワンフレーズくらいしか知らんのにライブ中に「みんな立って!一緒に歌お!」とか言われねん。決まりや。秋や。秋で間違いないよ。
『でも、イメージカラーは青らしいねん』
ほな秋とちゃうやないかい。


あーもう。違うんですってば。なんでミルクボーイの漫才みたいになってんですか。もうそろそろ嫌になってきました。科学です。科学の話なんです。

じゃあ、でっかい氷をたくさん作って各地に設置していきましょう。涼しいし、水不足も解決。これで間違いありません。
『そもそも最初から水不足だったらその氷はどうすんの』ですって?
その辺は業者さんに任せましょうよ。なんとかしてくれるから。業者さんは。プロだから。
『どうやって発注すればいいのよ』
だから、普通に電話すればいいじゃん。
『電話してもどうやって頼めばいいかわかんないもん』
そんなのは業者さんに聞きながらやればいいんだよ。もしもし?
『はい、冷ーラです』
ヒヤーラってなんだよ。ピザーラみてぇになってんじゃねぇか。
『はい、よく言われます』
まぁいいや。氷の注文したいんだけど。
『かしこまりました。サイズはいかがしますか?』
あ、サイズとかあんだ。
『はい。S・M・A・L・Lとあります』
スモールって言っちゃってんじゃねぇか。小さいのしかねぇのかよ。
『すみません、製造が間に合わなくて』
なんでだよ。もういいや、オメーじゃ話になんねぇから責任者出せ。
『少々お待ちください…。店長、テクニシャン出せって言ってます』
言ってねぇよ。責任者出せって言ったんだよ。なんだテクニシャンって。逆に待ってみようか。気になるから。テクニシャンに代われよ。じゃあ。
『ちょっと何言ってるかわからないです』
お前が言ったんだよ。もういいぜ。


はぁ……。
もうさ。いい加減にしてもらえます?また話が逸れちゃったじゃないですか。今度はサンドウィッチマンですか。もういいですから、ほんと。時間ないんですよ。僕。

じゃあ、次は!
『裕くん、もういいよ』
お前……。
『私たちの家に帰ろう?』
だってまだ科学の話が終わってないんだよ。何も解決してないし。
『いいの。もういいのよ』
なんでだよ。俺はお前のことも思って……。
『いいから。私、あなたと二人ならどんなに暑くたって平気だから』
……そうだよな。ありがとう。なんか幸せを見失っていたように思うよ。暑いとか寒いとか、そんなことは本当はどうだってよかったんだ。二人で一緒に居られればそれで、ずっと幸せな日々が送れるんだよな。いや、ずっと幸せな日々にするって誓うよ。

あんなに耳ざわりで五月蠅かった蝉の声も気にならなくなった。
きっと俺たちは大丈夫。

今年も夏が来て、そして去る──。

<了>




いや、<了>じゃないよ。



お金は好きです。