デスモスティルスの休日
俺の名は、デスモスティルス。今日は久々の休日。満喫するぜ。
ベッドからぬるりと這い出て、のたりのたりとキッチンへ。飲めもしないのにコーヒーなんて入れて、掴めもしないのにカップに注ぐ。
「こうする事がダンディズムなんだ」
何十年と自分にそう言い聞かせ続けてきたけど、そろそろ違うような気がしてきた。
たまの休日だ。せっかく晴れたし外出でもしようか。
もう春だというのに、トレンチコートを着込み、よく馴染んだボルサリーノ帽を被り玄関を出ると、外にはもう人だかり。「キャー!」だのなんだのと、怪獣でも見つけたみたいにぴーぴーうるさいぜ。……まあ、騒がれるのも嫌いじゃないけどな!
「おいおい、勘弁してくれよ。今日はオフなんだ。静かに過ごさせておくれよ」
ニカッと笑ってみせる。白く輝く俺の歯に、皆イチコロだ。
俺の言葉のどれほどを理解したのか分からないが、その内取り仕切る子が出てきて、「ほらほら、彼の休日の邪魔しちゃダメよ! みんな!」と注意を促し、皆ちりぢりになっていった。
10分ほどして、ようやく場は静けさを取り戻す。やれやれ、人気者はツライぜ。
決して早くない歩調で町を練り歩く。何をしていても絵になる俺は、どこへ行っても注目の的だ。
だからといって、俺は早足になんてならない。あくまで己のペースを堅持するのだ。何故って?俺は俺だからだ。周りに流されるような単純な俺じゃぁない。
のたり、のたり。他人に比べりゃ遙かに遅いペース。だがそれが何だ。俺は俺だ。
自分の町をパトロールでもするように、歩く歩く。この町は何も変わっちゃいない。風に揺れる街路樹も、少し傾いた道も、慌ただしく歩く人波も、建物もそこに住む人たちも。
車からじゃ分からない。自転車だって、速歩きだって見落としてしまう。のたりのたりと、四つ足で歩く俺だから分かるんだぜ。
この町は何も変わっちゃいない。多分これからだって、何千年、何万年経ったって変わらない。俺が言うんだから間違いない。説得力、あるだろ?
あぁ、変わらない事は、何も悪い事じゃない。
俺のこの、ダンディズムもどきと同じさ。
『こう』する事に価値があると信じ続けて、もう何十年経っただろうか。
最初は価値がなかったとしても、それだけ続けりゃそれ自体に価値が出る。
ほら、「○十年続けてきた」と、「これから○十年続けます」ってのと、どっちが格好良いよ?って話さ。
ふと思い出す。
この地上に初めて上がった時の、あのときめき。
不自由な移動手段だって気にならなかった。何もかもが初めてづくしだった。
あれからどれだけの月日が流れたのか。
町は何も変わっちゃいない。
そこに新鮮さを感じられなくなったのは、ただ俺が古くさくなっちまったからさ。
この町にとって、俺はただの化石。
このまま風化しちまうまで何万年だって在り続けるんだ。
今日も1日、有意義に過ごす事が出来たぜ。
部屋に戻って、いつものポジションに落ち着く。
この場所に、この姿勢でいる事が俺の仕事さ。
俺も変わらずここにいる。
それがダンディズムって奴なのさ。
多分な。
俺の名はデスモスティルス。
今から1200万年ほど前の中新世から生き続ける、四足歩行の海獣さ。
ま、今は骨だけになって、博物館で飾られてるけどな。
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適当をお題に書いただけにかなり適当な仕上がりです。わはは。
辞書を引いて「て」「き」「と」「う」で目を引いた言葉を集めたらこんな感じになりました。
嘘です。「う」のページが面白くなくて外しました。だから「て(デスモスティルス)」「き(休日)」「と(ときめき)」だけです。適当過ぎる。
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