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論文参考-前頭連合野のしくみとはたらき

前頭連合野のしくみとはたらき

①前頭連合野とは??
前頭連合野は脳の最高中枢。
「定型的反応様式では対応できないような状況において、状況を把握し、それに対して適切な判断を行い、行動を組織化する」


②前頭連合野のなりたち
ネコ:3.5%
イヌ:7%
サル:11.5%
チンパンジー:17%
ヒト:29%
前頭連合野は、神経線維の髄鞘化が大脳の中で最も遅く、20~25年程度を要する。
そして老化によって最も早く機能低下が起こる。

※青少年の危険を顧みない行動は前頭連合野が未発達であり、他部位の抑制機能が未成熟であることが関係している。
うつ病、統合失調症、自閉症、ADHD、認知症などと関わる。


③前頭連合野の主な機能
損傷すると以下の機能などに困難さを示す。

【外側部】
「認知・実行機能」
・状況を深く理解したり推理したりする
・発散的思考:解答にいくつもの可能性がある要求される課題遂行。
・ワーキングメモリや展望記憶、情報をいつどこで得たのかの記憶
・ルールに基づいて物事を行うこと
・すべきでない反応を適切に抑制する
・対象を正しく評価する
・計画を立てる
・計画に基づいて順序良く行動する

【内側部】
「心の理論・社会性機能」
・心の理論能力:他者の考えや感情を推し量ること
・社会的関係の認知、社会的行動

【腹側部】
「情動・動機付け」
・深く考えて行動する
・外界に対する関心、反応
・積極的な行動
・情動や動機付けに基づく意思決定

★留意点★
※大きく外側、内側、腹側に分かれるが、「一定の機能よりかかわりが大きい」ということであり、同じ機能を有している。
※前後軸で見ると、前に行けば行くほど情報処理がより高度でより抽象性が高くなり、困難さが増すほどより前方が働いている。
※報酬情報処理:後方は食べ物、前方はお金や名声などの抽象性の高い情報処理に関して活性化する。
※発達過程
4歳児:具体的な側面「赤い」「丸い」などの具体的な概念
5~7歳:何らかの共通概念。
8歳:急激に上位概念が用いられ、9歳になると安定する。
認知症:逆の順で障害されていく。
後方から前へ成長し、前から後ろへ萎縮していく。


④前頭連合野腹内側部とソマティックマーカー仮説
「腹内側部」
・内側と腹側の特に前方に位置する部位を総称して呼ぶ。
・情動に基づく意思決定に重要。
・ヒューリスティックな判断に必要。


【ソマティックマーカー仮説】
1.前頭連合野腹内側部は外的な刺激とそれに伴う情動、動機づけを結びつける。
2.これが成立している場合には、外的な刺激が認知されると、腹内側部でその連合に基づいたソマティック反応を身体、内臓系に生じさせる信号(ソマティックマーカー)が出る。
過去の良い経験と結びついた刺激⇒体を心地よくさせる信号
悪い経験と結びつく⇒なんとなくいやな感じを生む信号
3.この信号は意思決定を効率的にするように作用する
4.この信号は意識しなくても出ることが多い。

※ソマティックマーカーは合理的推論の前に適切なシナリオを自動的に検出し(じっくり考慮するに値しないものをすぐに切り捨てる)少数の選択肢から選べるようにして意思決定を援助している。
※この部位の損傷ではギャンブルにおいて最終的に損であると理解できる場合ですら、目先の利益にひかれてしまい、短期的な利益を優先してしまう。
・ヒューリスティックな判断:腹内側部
・じっくり考える過程:外側部


⑤前頭極の特殊性
 前頭極では神経細胞密度が最も低く、樹状突起の分岐度や樹状突起の先のスパインの密度が最も高い。
 前頭連合野以外との連絡が少なく、ミエリン形成が脳の中で最も遅く起こる。
 前頭極外側部と同じような機能的結びつきはサルにおいて存在せず、ヒト特有である。
 最も抽象性が高く、高次な統合機能を持っている。
 展望記憶に重要であり、同時にいくつかの情報を保持しながらいくつかの作業を次々に行うなどの課題に重要となる。
※前頭極は前頭連合野の中の前頭連合野である。


⑥前頭連合野ニューロン活動
・コンピューターと対戦するより、対人戦のほうが前頭連合野の活動性が増す。
・前頭連合野ニューロンは競争結果を正しくとらえ、それ以後の競争行動をより適切なものにするという役割を持つ。

⑦デフォルトモードネットワーク
・安静時に活動している部位。
前頭連合野内側部
前部帯状回
後部帯状回
楔前部

・働き
「内的な思考過程」
「自分が過去に行ったことを想起」
「こころに浮かぶことにとりとめもなく思いを巡らせる」

・疾患との関連
うつ病、アルツハイマー型認知症、統合失調症、自閉症などでは活動に異常がみられる。


⑧ドーパミンとの関連
ドーパミンは前頭連合野の働きに最も重要な役割を果たす。
多くても少なくても障害を生じる。
・ストレスでは上昇し、老化による認知機能低下によって低下する。


【単語の意味】
・連合野:大脳皮質の中で感覚野と運動野のいずれにも属さない領野をいい,高次の精神機能に関係すると考えられている。
・髄鞘:神経細胞(ニューロン)の軸索の周りに存在する絶縁性の脂質の層。 主にミエリンという脂質からなり、ミエリン鞘とも言う。
・ワーキングメモリ:情報を一時的に保ちながら操作する、適切な記憶を引き出し修飾するための構造や過程を指す構成概念。作業記憶、作動記憶とも呼ばれる。
・展望記憶:未来に関するこれからやるべきことについての記憶

(参考文献)
・前頭連合野のしくみとはたらき 渡邊 正孝
・FrontalAssessmentBattery(FAB)の類似性課題における概念操作障害の重症度評価法の作成と妥当性の検討一堀ら
・生存する脳:講談社-Damasio 1994

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