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【映画】 「人間の境界」は島国の日本人に届いているか

100席にも満たない街中のミニシアター。もう東京ではここでしか上映していない、友人の投稿で知った映画「人間の境界」。
汗がじっとりと肌に絡みつく昨夜、観てきました。

大昔の話ではない。たった数年前 2021年のポーランドとベラルーシの国境でおきた話。森の中に人為的に引かれた境界線で起こってきた移民危機の実話です。

中東からの移民は最初は海からEUに入っていたけれど、そのうち陸から行けるし、そっちの方が安いし確実に渡れるという情報が行き渡り出した。そういう経緯で、映画はまずベラルーシに渡る飛行機内の映像から始まる。

しかしその後ベラルーシとポーランドが、お互いに彼らは不法入国の移民だ!という前提でこの人たちをこの境界で幾度となく戻し合う。一体どれほどの人命が森の中で亡くなっていったのか、という事。

衝撃作に間違いないです。

しかし、この国と対極にある単一種族で東の小さな島で暮らしている日本人には、本当の事は我々の肌感覚ではきっと理解できないと思う。

ただ、まずはこの映画上映が政権に握り潰されずに、この遠い島や世界中に、こうして届けられている事に驚く。

本作は、アグニエシュカ・ホランドというポーランドの巨匠による作品。お互いジャーナリストであった両親から生まれた彼女は実際にプラハの春を通り、6年間の拘束も経験している。
演出・監督した作品は、現在でこそポーランド寄りのものが多いが、長い間多国籍な作品を撮ってきた方らしい。

出演している俳優陣は、皆実際に亡命・難民、支援活動家の経験もある人達がキャスティングされた。彼らにとっては、どこまでが記憶の追随なのか、どこまでがフィクションなのか。
実際に見ている側にも、これはどっちなのか?とわからなくなる。

鉄格子が張り巡らされた green border


主役を演じたシリア生まれのジャルタ・アルタウィルは、撮影中 軍のトラックの荷台に乗っている時に涙がとまらなくなり、感情が混乱した、と。
しかしその一方で演じることで、自分が経験した負の体験を整理することもできたのだとも言っています。

客観的に出来事をなぞらえることでトラウマを癒す事になった、ということでしょう。

あの緑豊かな、ヨーロッパ最後と言われる針葉樹の原生林の中に、目に見えない境界があって、そこで何があったのかを、私達は知らない。

私達は美しく青い太平洋に浮かぶ平和な島で、スマホを見ながら流行りのファッションや週末のイベント、友達とのおしゃべりを楽しんでいる。
一方で、この国境の上にいる難民にとってのスマホは命の希望です。

スマホの位置情報がなければ、国境付近で活動している人道支援に居場所を知らせることができない。
スマホの充電が切れる、ということは、ゲームの途中でダウンしちゃったよー!というようなことではなく、生きていける希望が途絶えるということ。

深い針葉樹が生い茂る森の中をただ逃げる

しかし映画でも大きく描かれていますが、人道支援団体などが動けない立ち入り禁止エリアがあり、そこに助けに行けるのはなんと近くに住んでいる住人のみ。

ここで多くの住人は苦しむ事になります。助けに行く事が、犯罪でもあり、人助けでもあるからです。
この住人を、「シンドラーのリスト」にも出演したマヤ・オスタシェフスカが演じています。

一時パスポートを扱う仕事をしていた事がありますが、やはり私たち日本人は、パスポートや国籍の意味というものをきっとわかっていない。
日本人にとってのパスポートは、運転免許証とさして変わりない身分証明書であり、行こうと思えばどの国にでも簡単に入れる強い力を持つ、50ページちょっとの冊子でしかない、という事です。

しかし世界の中には、どの国で生まれたかで命が人生半ばで途切れてしまう可能性がある人たちがいます。
私はこの映画で、人は低体温症になると、高熱を感じて服を脱ぐということを初めて知りました。

安心して眠って食べる事のできる、美しいEUを目指す移民がいる。
そのEUでは今、”世界は一つに”と謳いながら、オリンピックというお祭りの真っ最中。

人が生きる場所とはどういう事であるのか。

ひっそりと東京の隅で知る、世界の大きな真実

どうして南の国境を挟んだウクライナからの人たちは全面的に受け入れるのに、北の国境のベラルーシからの人たちは、難民申請すらできずに戻されるのか。

人間誰もが持っている2つの顔。善と悪。美しさと醜さ。
結局人間の根底にあったもの、とは。

この監督は、こういう事実を伝えたかったのだと思います。

もう少し上映予定のようです。ご機会ある方、是非ご覧になってください。

そして小さな島の中でスマホを見ていろんなことを知った気になっている私は、こうして世界の事実を一つ一つ知りながら生きています。

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