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君の物語 39 夜


いつも通りの夜だった。

娘たちがお風呂から出てくるのを、ルゥはドアの前で待っていた。
そばを通りかかった私にニャアと一言。
ーいつも通り。

娘たちがお風呂から上がり、二階へ上がってくる。その階下ではルゥの足音と声。
2人と分かれて台所へ行ったんだろう。
ーこれもいつも通り。


数分後、身支度を整えた娘たちが、喉を潤しに降りていった。
いつも通りに。

その、直後。
切羽詰まった叫び声が響く。
「「ルゥ!!!!」」
ドタドタと階段を駆け上がる音がして、コハクが部屋へ飛び込んできた。
「ルゥが倒れてる!!」

私たちは転げるように階段を駆け降りた。
ルゥは床に横倒しになっている。
普段から小さな呼吸なのに、それがさらに消え入りそうな頼りないものになっていた。






「死因の特定はしません」
「できないんですか?」
「動物に対しては、しないんです」
やりきれない。
やりきれないけど、仕方がない。

「後で、出てくるものがあるかもしれませんが、その対処法は教えることができます。」
反射的に聞き返した。
「出てくるって何ですか?」
「それも含めて、対処法を教えると料金が発生しますのでー」

『ルゥから出てくるなら別に。』
静かにきっぱりと遮ったムギの声で我に返った。



重苦しい帰りの車中でコハクのすすり泣く声を聞きながら、私も泣いていた。
ルゥの顔をもう一度見ようと後部座席を振り向くと、外を見つめるムギの横顔があった。

車窓に映るムギは怒っていた。
涙を流さず静かに、ただただ怒っていた。
おそらくこの現実に対して。
夜でかかりつけの病院を始め、どこも受け付けてくれなかったことに対して。
唯一受け入れてくれた病院が、ありえないほど遠かったことに対して。
あまりに突然だったことに対して。
死因がわからないことに対して。
原因がなんであれ、それを取り除けなかった自分たちに対して。

私はベストを尽くしたろうか。
不甲斐ないばかりではなかったか。



暗闇の中、車は長い長い道のりを
ひた走っていた。
葬送の儀式のようだった。



「ナミさんに連絡しな」
夫が言う。

ひとつ、ことが進む。


じわり、悪夢が現実味を帯びる。


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