SS:純喫茶ブルーアワーにて「コーヒーを飲みなさい」
その喫茶店は、少し寂れた商店街の入り口にありました。
青と白のしましまのサンシェードを潜って入る店内は、白い壁と木製の家具。
観葉植物が少しと青色でまとめられた小物たち。
カウンターの内側からは、丸眼鏡をかけた若いマスターが微笑んでいます。
マスターの後ろには食器棚があって、一番上の段の左の隅が彼の定位置です。
「クワイエットさん」と呼ばれる彼は、青いガラス製の小さなミミズク。
クワイエットさんは、その体で唯一の金色に輝く瞳を、いつもキラキラと煌めかせているのでした。
しばらく店内を眺めていたクワイエットさんは、やがてその透明な翼に天井から吊るされたランプの明かりを反射させながら羽ばたきました。
そしてガラス製の体をふわりとテーブルの上に降ろして、日の出前の空のように深くて澄んだ静かな声で、あなたにこう声をかけます。
「コーヒーを飲みなさい。」
ブルーアワーに3つあるボックス席の一番奥に、女の人が一人で座っています。
暗い表情でメニュー表とにらめっこをしていた彼女は、控えめに右手を上げて、マスターにオーダーを取ってもらおうとしているところです。
その時「コーヒーを飲みなさい。」と、どこかから深くて澄んだ声をかけられました。
4月末の金曜日の夕方。
店内にはマスターと他に何組かのお客さんがいますが、その誰もこちらに話しかけてきた様子はありません。
女の人は首をかしげましたが、気を取り直して再びマスターに向かって右手を上げました。
するとまた「君は時々この席で甘いものを飲みながら、甘いものを食べているね。」と、声をかけられました。
そうして今度はその声が、いつの間にか目の前のテーブルの上に現れた、青くて小さいミミズクから聞こえたことに気がついたのでした。
「どうしてコーヒーを飲まなくちゃいけないの?」と、女の人はたずねました。
「「疲れた時は甘いもの」と言うが、君にはコーヒーも必要だと思うね。」と、ミミズクは答えました。
大きな窓から夕陽が差し込んで、ミミズクの青い羽根や金色の瞳がキラキラと輝いています。
女の人は仕事の帰りで、へとへとに疲れていました。
ミスをして落ち込んだ時や、今日のように一週間働いた区切りに甘いものを食べるのが、彼女のルーティーンです。
そのことを、目の前のミミズクはなぜだか知っているようでした。
女の人は少し考えてから、ホットコーヒーとチョコレートパフェをオーダーしました。
「コーヒーはブラックで、甘いものの合間にゆっくりゆっくり飲むといい。」
ミミズクはとても満足気です。
女の人は言われたとおりに、まずチョコレートパフェを食べてコーヒーを一口、そしてまたチョコレートパフェを食べました。
チョコレートパフェはまったりと甘くて、コーヒーはすっきりと苦くて。
なるほどこれはとても落ち着くなと、女の人は思いました。
それはいつもの甘いものを食べて自分を慰める時とは少し違う、特別な時間のように思えたのです。
窓の外はいつの間にか夕陽が沈んで、街中が夜になる直前の濃い青色に染まっています。
ミミズクはずっと机の上にいて、女の人を優しい目で見守っていました。
ショートショートに挑戦してみました。
いかがでしたでしょうか。
大人になってからは初めての挑戦です。
誰かの、できればあなたの心に届けばいいなと思っています。
次のお話でもお目にかかれることを願って。
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