「他者の他者性」とその変速機

「他者の他者性」という言葉がある。

それは、自分以外の他者に対して、同じく
意志を持った人間であると認められる性質。

自分と同じように親から生まれ、ハイハイから
初めて立ち上がり、言葉を覚え、意志と感情を持つ人間であると認められる性質のことだ。

この「他者の他者性」が語られる時は、
それが「ある」か「ない」かで用いられる。

例えば、人間をサービスの一部や、システムの維持の部品となるような交換可能なモノとすれば、「他者性がない他者」として見ている。

逆に、相手の考えや価値観・人種が違っても、
そもそもは同じ人間として認めていることは、
「他者性のある他者」として見ている。

そして現代に生きる人々は昔に比べ、基本的に
「他者の他者性」を認めていないとされる。

昔は商店の主人も客も、知らない旅人さえも、
基本的には他者性を認めていたのに対して、
現代は匿名の労働力として交換可能である。
(という扱いをされることが多い)

明らかに他者に他者性を認める方が正しい。
私はなるべくそう感じるよう努めようとした。

しかし、あらゆる人や情報が溢れる世の中で、
あらゆる他者に他者性を認めるのは不可能だ。

社会に適応するためには「他者の他者性」を
感じるか感じないか、切替える必要がある。

僕は無理に他者性を認めようとして、 
(あるいは無理に他者性を認めないようにして)
人混みや店員がちょっと苦手になった。

先の資本主義システムや戦争においては、
「他者性」を認めると心が壊れてしまうため、処世術として致し方ない所もある。

(余談だが、カネコアヤノ「季節の果物」はこの辺りを美しく歌い上げている)

しかし、最近この「他者の他者性」について、
これはON・OFFのスイッチではなく、

Back・Neutral・1・2・3・4・5・6

のトランスミッション(変速機)だと
考えるのが妥当かもしれないと思い直した。

これは信用度の変速機と言ってもいいが、
恐らく中世までは、他者の他者性(信頼度)を
まずNeutralもしくは1のギアで入れていた。

今日の人間関係は、まずNeutral(無関心)、
もしくはBack(不信ベース)のギアで始まる。

これをON・OFFのスイッチで考えるため、
変速機に故障を来たすのかも知れない。

MTはギアを上げる時、1から順番に
上げなければならない。(というか入らない)

それは人間関係の信用度(他者性)も同じだ。
それを取り違え、急に3速に入れたりする。

最近の恋愛(マッチングアプリなど)の問題や、人間関係の問題、感情労働の問題はここに原因がありそうだと朧気に思う。

肩書きや年収など、社会的信用や価値を元に
仕分け、1・2速(知人)を飛ばして3・4速(友人)に入れる。それで5・6速(交際・結婚)まで入れるもんだから、元々の馬力が足りずにエンストするのだ。

逆に人間関係は、核家族化や転勤、ネット内で1・2速ばかり。5・6速以降の人間関係がない。孤独死の問題はここに直結する。

感情労働は友人関係でしか許せないこと、
(むしろそれ以上でも許せない仕打ち)に対して
お金という埋め合わせによって許すものだ。
こうした労働によっても変速機は壊れる。

信頼(他者性)が変速機だとするなら、
進む車体は人間関係そのものだ。

それならばその馬力を生み出すもの、
エネルギーは人間の「情」に他ならない。

サン・テグジュペリが「戦う操縦士」で
以下のように書いているのは当にこの事だ。

「ある女性を美しく思う時、私は言うべきことは何もない。(中略)インテリ連中はその顔を説明しようとして、分解してからそれぞれの断片を分析するが、もはやほほえみそのものはみていない。知る、というのは、分解することでもなければ、説明することでもない。それは見ているものに近づくことなのだ。しかし見るためには、まずその対象と関わらなければならない。このはじめの一歩が困難なのだ……。」

「勝利は愛が結実したものだ。どのような顔を作り上げていくか知っているのは愛だけだ。愛だけがその顔に向かって導いてくれる。知性に価値があるのは、それが愛に仕える場合にかぎられる。」

あらゆる人間が交換可能性に晒される中、
関係を確実にする(1速から6速まで上げる)
ためには、情が必要不可欠の資源になる。
(情は時間や体験で生成されることが多い
地元仲間やHIPHOP文化はここに根ざす)

しかし、本来は1速が1番馬力を必要とする。
それは人間関係でも同じことだ。

そこのコストを惜しんだ結果、変速機は壊れ、車は動かなくなる。また、エネルギーが人の
情でなければ、いつしかガス欠になるだろう。

意味がわからない人もいるかもしれない。
あなたは、とても情深いか、AT車なのだろう。
ただAT車が恣意的に動かせるギアは、
実質的にReverse・Neutral・Driveのみだ。
これは先に述べたスイッチとほぼ変わらない。

蛇足だか、MT車にはクラッチがある。
クラッチの操作は車の制御に非常に重要だ。
伝えるエネルギーの制御にも使えるし、
一時的にNeutralと同じ状況を作れる。

これも人間関係に置き換えると面白い。
快適なドライブでは、クラッチ操作が肝心だ。









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